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 私が要らないっつったのにこの酔っ払い上司……もといシリウスは、知っておいて損はないからと内情を軽く話してくれた。


 といっても私が事前に小説情報で覚えていた内容と被るので大半は知っていたけど、やっぱり知らないこともあった。

 まあ当然っちゃ当然である。


 小説はあくまでアナベルに焦点を当てた物語である以上、どうしてもそっちに比重が寄りがちだ。

 シリウスは彼女に恋する男として描かれるので、他のモブキャラに比べれば詳細情報があるとはいえ、彼の細かい情報よりもどういう性格でどういう風に主人公であるアナベルと切ないロマンスを魅せるかが重要なわけで……。


「知っているだろうが、俺は義父の弟の家で生まれた」


「有名な話ですね」


「ああ」


 ノクス公爵家が跡取りとして養子を迎えた後に、夫人が妊娠した。

 その折りにシリウスの実家である、公爵の弟夫妻が事故死したことによって世間は騒がしくなった。


 本当は公爵夫妻が狙われて、その報復措置がとられたのではないかなんてゲスの勘繰りってやつである。


 夫人の子、あるいは公爵夫妻の身に何かあれば跡を継ぐのは当時、跡取りとして据えられていたシリウスになるのは当然の流れだ。

 そのため弟夫妻はそれを狙ってもおかしくない……なんてね。


「まあ世間は楽しそうに(さえず)ってはいたが実際には父たち兄弟はとても仲が良かった。実家は兄が継ぐし、義母の子が健康に生まれてくるまではいずれにせよ俺の存在は跡取りとして補欠のようなものだった」


 生まれたのは女の子だ。

 シリウスの兄も含め、新たな命の誕生を喜んだ。


 跡目をどうするかはこの生まれたばかりの実子の才能などを鑑みてからでも遅くはないだろう、そう公爵は判断する。

 慣例に従うならば実子で長女のアナベルが継ぐのが妥当ではあるのだが、ノクス公爵家はそれらの声を無視できるほどに強い権力(ちから)を握っていた。


 子供たちがどんな未来を選んでもいいように。

 シリウスの兄に対しても、公爵は後援を惜しまなかった。


「実の両親の事故に関しては、悲しい出来事だったとしか言いようがない。……アナベルが誘拐された日は、俺の両親が死んだ日でもあったんだ。世間には別の日だと言ってあるが」


「……醜聞を減らすためですか」


「まあ、そんなところだ」


 公爵の弟夫妻の事故、愛娘の誘拐。

 それがいっぺんに起きたとあれば、関係性を人々は噂して回ったに違いない。


 噂が広まれば広まるほど、攫われた公女の行方に憶測が飛び交い、ノクス公爵家も動きが鈍くならざるを得ないことを考えれば日付をずらすくらいなんてことない話だ。

 

(正しいことは、自分たちの手元で知っていればいいっていう偉い人たちらしい考えだなあ)


 まあ、偉い人の家族が死んでも、その子どもが誘拐されても、私やそのほか大勢は『ふーん、可哀想に』程度にしか思わないけどね。

 世の中って結構そんなもんだと思うよ。


 でも同時に人の不幸は蜜の味、根掘り葉掘りお涙ちょうだい物語を求める人たちが砂糖に群がる蟻の如く寄ってくることだってあるのもまた世の中だ。


(偉い人たちも大変なんだねえ)


 贅沢の分だけ、こうした時には庶民の娯楽になったり、他の貴族たちとの権力争いにとまあ忙しいこと!

 やっぱりほどほどにお金を稼いで、のんびり生きるのが一番安泰ね!

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