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なんだろう。
いや別に不便があるとかじゃないんだけども。
……上司がいやに親切になってしまった。
(私の生い立ちを自分から聞いておいて同情でもしちゃったんかな)
元々義理とはいえ妹や弟を大事に思う長男気質っていうキャラだもんな……。
それが義妹に絆されていくうちに恋情が芽生えて、そこに対してまた葛藤をっていうのが萌えポイントだったわけだしね!
けどその真面目さを私に適用してくれなくていいんだよなあ。
「明日は夜市があるらしい。……俺の仕事は夕方までだから、一緒に行くか? それとも、そうした町の催し物は嫌いか……?」
「ええと、はい、あの……」
隙あらばというかあんた忙しい身でしょうが! って言いたいところだが、この善意の塊を無下にするのも良心が咎めるんだよなあ。
そのくらいは私にだって残っているんだよ。うん。
かといってその善意を諸手を挙げて喜べるほど私は純真ではないので、どこか捻くれた自分が『そんな同情でどうこうされてもなあ』って思ってもいるわけで……。
(でもなあ、そんなものすごーっっく気を使ってる顔こっちに向けられると……!)
なんかシリウスに垂れ下がった耳とへにょんとして尻尾が見えてきそうなんだよなあ。
これはもう福利厚生の一環として受け入れるべきなのか?
上司の顔を立てるのも部下の務め……!?
「そ、うですね……今日の晩ご飯は屋台ご飯にしましょうか。シリウス様もたまにはそうしたものを召し上がりたいでしょうし」
「! ああ、そうしよう!!」
私が応じたことがよっぽど嬉しいのか、パアッと笑顔を見せるところとか……んんん、あなた誇り高く家族思いの軍人でしょうが!
いっくら私が部下(仮)だからってそんな……そんな……!!
(まさかの犬系男子……!)
まったく、本人は無自覚なんだろうけど懐に入れた相手に親切なイケメンとかヤンデレ量産する未来しか見えないから気をつけていただきたいよね。
うん、まあ私がこの家にいる限りは変な人に絡まれていたとしても内密にお掃除させていただきますけども。
私が去った後が心配だよ、この人ったら……。
いやもうすでに社交界とかでご令嬢たちを無自覚にオトしてるかもしれないなあ……。
こうやって町で暮らしているだけでもご近所に親切にして憧れの騎士様みたいに思われている可能性もあるんじゃないかしら。
(……この際、一緒に町に出て様子を見るしかないかあ……)
あれっ、私の任務って主人公の警護が任務で、その前段階で信頼できるかどうかを判断待ちじゃなかったっけ。
ご令息の護衛……は、違う、よな?
広義で上司である公爵家の人を守るってことでいっかぁ!!