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「いや暗殺者だからって生活力がないわけじゃないですよ。なんでですか」
「……俺が知る暗殺者たちと君はだいぶ雰囲気が違うというか」
「まあ二つ名持ちの連中は大概が……ええと、まあ、かなり個性的であることは否めませんけど」
かなりマイルド表現にしてあげた私は優しい。
同業者を悪く言うとしっぺ返しきそうだからね!
いやあ、この業界、生き延びているってだけですごいからさ……そりゃ個性も出るでしょって感じだよね。
私みたいに『いつか引退して悠々自適な暮らしを!』って目指す人もいないわけじゃないけど、現実的じゃないって諦める人の方が多いのも確かなのよ。
引退したところで報復や、名前を挙げたい木っ端とかに狙われる余生を考えたらそれも仕方ない話だと思う。
私は! 諦めないがな!!
「……お前個人の話を聞いてもいいか」
「生い立ち的なものですか?」
「ああ。……この一週間共に暮らして、信頼が築けたからなどと綺麗事を言うつもりはない。だが対話を避ける必要はないと感じた」
「まあ、面白い話じゃないですがそれでよろしければ」
別に恥じるものでもない。
人によっては裏社会に所属していた自分の過去は、恥ずかしいものかもしれないけどね。
ただまあ、私からしてみればそれこそ綺麗事だ。
選択肢がなかったから裏社会に所属した。
でも自ら表の世界に生きる場所を掴み取れない状態で、それを恥じてどうなるってんだ。
私は生きるために泥水を啜るような生き方をし、そうじゃない人生を望んでいる。
そのために必死で働いてお金を貯めていることは、別に恥ずかしいことじゃないと考えている。
まあ人に誇れる仕事じゃないとはわかっているけどね!
特にカツラ取っちゃったのは今でも申し訳ないと思い出し笑いしつつ思っているから!!
「私は捨て子だったそうですよ。でも私の親は多分良心的な人だったんだと思います」
「どうしてそう思う?」
「私の育った地域って、この国の中でも結構貧しい部類に入ってましてね。国営の孤児院が維持できないくらい口減らしの子供が毎年わんさか出るんです。孤児院に連れて行くことすら手間だって人間も少なくない。……意味、わかります?」
「……。ああ。わかる」
少しの沈黙と、静かな答え。
公爵家でその年齢まで生きていたら、お綺麗な世界しか知らないってわけじゃないだろうとは思うけど……それでも飢えから子供を見捨てる親がいることを、彼のように裕福な人間からすれば信じられないかもしれない。
(いや逆か。裕福でも優秀じゃなきゃ我が子でも切り捨てる貴族って結構いるもんね。……結局のところ、人間性の問題か)
むむ、難しい問題だね?
まあ私には関係ないからいいんですけど~。
とにかく簡単に言っちゃえば、口減らしの子供の行く末なんて気にしない人が多いような荒んだ地域だったってこと。
昨日言葉を交わした人が、道端で冷たくなることだって少なくないような……そんなところで私は生まれた。
それでも両親は孤児院の前に私を置いていく程度の良心を持った人なんだと思っている。
「と言ってもまあ……そういう地域の私設孤児院って、碌なとこじゃないんです」
国営の……つまり、アナベルが育ったというような真っ当な孤児院だと、一定の年齢できちんと洗礼を受けて新しい名前を得ることができる。
そして子供たちに適した道を示し、彼らは無事に巣立っていくのだ。
それに対して私営の孤児院は一定の年齢ってのはとても曖昧で、なんだったら幼児のうちにもらわれていくことも少なくない。
見た目がいい子なんかは特にその傾向にあった。
その先がどんなものかは、想像に難くない。
「特殊技能に目覚めた子なんかは重宝されてましたね。あとは裏社会の連中が駒を育てるために引き取っていくことも少なくなかったです」
「セレンも、その一人か」
「そうですね。私は魔力操作が上手い方だったので、役立つと思われたんですよ」
まあ成長に伴って魔力が増えると期待されていたのに全く駄目でがっかりされたわけですけどね!!
どうやら裏社会の連中とその私設孤児院は、その繋がり関係で能力を見抜く目……つまりそういった特殊技能を持つ人がいたんだろう。
それを利用して駒として使える、見た目がいい、頭がいい……みたいに振り分けて寄付という名の代金を払って私たちを引き渡していたってわけだ。
いいビジネスだよね、大人たちにとっては。
でもあの地域で真っ当な職にありつくのも大変だから、そういう意味では生き抜けさえすれば食うに困らない生活が約束されたようなもんだから悪い話じゃなかったのかなと今は思っている。
「裏社会の連中に引き取られて、そこからどんな生活を?」
「どんな生活を……ですか」
うーん。
思い返してみる。
「訓練に訓練を重ねて、殺し屋の先輩に連れられては事前準備の手伝いに現場の後片付けと処理、まあいわゆる雑用がメインでしたねえ……」
今思い返してもかなりな使いっ走りっぷりだったわ。
魔力がないから大仕事を任せるには不安だって言われて、その分雑用こなして役に立てってよく怒鳴られたわあ……ほろり。