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 他人と一緒に暮らすことに、私はさほど否定的な感情はない。

 むしろ裏社会の人間たちの襲撃を恐れたりしないでいい分、なんて快適なことか!


 私の仕事は現在、この一軒家の家事担当である。

 三日に一回ほどまとめて食材が届き、牛乳と卵は毎朝配達が来る。

 

 シリウスは騎士団の人なので出勤しないわけにはいかず、私を残して出勤することに抵抗を示していたけれど……一応、この家は出入りするたびに魔法でチェックが入るそうなので、私が出かけたらバレるんだから大人しくしてろって釘を刺された。


 そこまでしてんなら釘差す必要なくない!?


 ……なんてツッコみたい気持ちもあったが、笑顔で頷いておいた。大人の対応ってやつよ。

 そもそも、食材があるなら外に出る気なんてこれっぽっちもない!

 お外に出たら買い物の誘惑で貯金が減っちゃうじゃん!?


 っていう生活をしていたら、ある日の晩ご飯時にシリウスが眉間に皺を寄せて私に日中何をしているのか問い詰められてしまった。

 そりゃまあ家の中のあちこち掃除して、洗濯して、ご飯の仕込みですけども。

 それらを一個ずつ丁寧に説明してやると、彼は眉間に皺を寄せたまま脱力した。


 器用だなあ。


「本当にどこにも出ないから逆に心配になってきたんだが、大丈夫なのか?」


「とっても満足した暮らししてますけど?」


「引き籠もりすぎも健康に良くない」


 保護者か!!

 なんでそんな心配されにゃあかんのだ。解せぬ。


 こっちゃ蓄財に余念がないんですよ。

 いっくら暗殺者引退の兆しが見えてきたとはいえ、公爵家からお給料をもらって安全に裏社会から離脱するにはやはりいくらあっても足りないと思うんだよね……。

 

 これだから金持ちは。

 お金の心配しない人はいいですねえ!


 こんな私の事情を説明しても理解は難しいだろうと私はにっこり笑うだけに留めておく。

 大人の対処である。


(とりあえず引退後、どこに行くかは目星をつけているのである程度この仕事も目処がつけば地価を調べたりする余裕もできてくるだろうし)


 せっかく安穏な暮らしを送らせてもらっているのだ、喜んで家事に勤しもうではないか!

 言うて二人暮らしだし、そこまで大変じゃない。


 それどころか私にとっては天国だ。

 食材は好きに使っていいって家主のシリウスは太っ腹だし、水は綺麗だし、食材は新鮮そのもの。

 憧れだった調味料他も揃ってて調理器具は綺麗!

 掃除洗濯もこんな素敵なおうちならいくらでもって感じよね。

 毎日だってお布団干してフッカフカにしてやんよ!!

 

 とはいえ、シリウスの意向なのかこの家には家具もあんまりないから掃除もめっちゃ楽なんだけど。


 おかげで優雅にパン仕込んで焼いちゃったり?

 オーブンついてんのよこの家。

 魔道オーブンよオーブン。なんだったら小さい窯もあった。

 庶民の年収三年分はくだらないんだぜ。


 コンロは少しの魔力で大火力が売りの最新式魔道コンロで、しかも三ツ口だよ。

 私がちょっと前まで隠れ住んでいたあのボロアパート、コンロなんてなかったんだぜ……?

 オーブン? 夢のまた夢ですよ。

 こんなに憧れの最新魔道家具に囲まれて悠々自適な暮らし!

 これこそ私が求めていたものなんだって!!


 彼が不在時にのみ書斎は入るなって言われているだけで、各部屋に適当に置かれていた娯楽用の本は好きに読んでいいとかもうココ天国じゃん。


「今日の料理はどうです? 香辛料多めにしてみたんですけど」


「美味い。俺はこっちの方が好きだ」


「なるほど了解」


 シリウスはピリッと香辛料多めがお好き、と。

 雇い主の好みの把握も大事だからね!


「……セレン、お前に聞きたいことがあるんだが」


「なんでしょう?」


 生活を共にするようになって、監視……というよりは観察されているような気はしていたんだよね。

 あちらも隠す気はないようだったし、こっちも秘密はあるけど普通に生活してたらバレる要素なんて何もないので気にしてなかったけど……。


 ほら、転生者であることを明かすようなこともなければ、特殊技能を使う必要性とかないもん。

 美味しく料理を作って掃除をして洗濯をして過ごしているだけだからね! ハハッ!


 だからまあ、ここまで楽しい生活を送らせてもらっているし、契約紋も刻まれちゃってるし、答えられることには素直に答えようと私はシリウスに向き合った。


 彼は少しだけ戸惑う様子を見せて、口を開く。


「お前、本当に暗殺者なのか……?」


 失礼だなあ、もう!

 その哀れみの目はなんだ!!

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