愛の交わり
ブラジャーやショーツ、キャミソール、スカート、シャツの類、タオル、シーツ。 入れ替わる前に、美憂が身に着けた物と、入れ替わり後に俺が着た物が混在している。 体自体は同じであろうから、何方でも同じようなものである。 下着類を専用の洗濯ネットに入れ、キャミソールやスカートも洗濯ネットに入れる。 ブラやショーツは手洗いが良いらしいが、めんどくさいので、洗濯機を使うのが美憂の習慣。 それを俺も踏襲する。
美憂はメイクは殆どしないし、衣服も派手な物は好まない。 半面下着に関しては、ピンクが過半を占め、あとブルー、パープル、赤、グリーン、オレンジ。 白の下着は一枚もなく、色彩に溢れている。 選ぶのに困惑する、最初はとにかく恥ずかしくて、困惑を極めたが、今日はわりと平気になった。 直に「今日はどのブラが良いかしら?」みたいに成ってしまうのか?
洗面所の隣にある、ドラム式の洗濯機に華やかな、衣類を放り込む。 後は、お任せで。 最初こそ、若い女性の下着を弄る、変態おじさん的欲望が巻き起こったが、三日にして完全にそれは消失した。 最初は男性としての記憶に強く支配され、想像力によって変態的快感を受け止めたのだが、実はこの完全な女性の肉体には、変態的快感を感じる、機能が備わっていないらしい。
どんな男性でも、こうした華やかに下着を目にすれば、性的興奮を覚えるだろう。 しかし、この体ではいやらしい興奮とは無縁であるらしい。 少しも興奮しないのだ。 自分の体に着ける、衣類で興奮するのは変で、矛盾を抱える。 自分の下着であり、自分の衣服だと感じる様になってきている。
11月の下旬に美憂の彼は帰国し、二人は晴れて式を挙げ、夫婦になる。 それまでに、元に戻れれば問題はないのだが、もし戻れないとすると? どうすればよいのか? 戻れたとすれば今の事態は、奇妙な夢という事で終えられるだろう。 そうでなければ、アイデンティティは崩壊し、人生は滅茶苦茶になる。 それぞれ家族を失い、人生に根本的変更を求められる。 もしこのまま、結婚し、彼と夫婦になったとすれば、俺のこれまでの人生は終わり、死んだと同じ事かもしれない? 俺は死に彼女に成るのか? 彼女は死に、俺に成るのか?
元に戻れる可能性がある以上、彼女の人生を破壊しないためには、予定されたとうりに、彼女として生活するのが妥当であり、義務だと思う。 あちらの事だが、彼? 彼女? も同様であろう。 今、俺がしなければならない事は、彼女の婚礼の準備である。 本来彼女がやる事だが俺が代行するしかない。 今日、先週彼女が予約した、婚礼衣装の和装小物、日本髪の簪、等々細かいことを決めなければならない。 女性の和装なんてまるで知識はないが、本物の美憂にしても、着物は初めてだし、その点は俺でも、問題はないだろう。
階段をパタパタと降りると、母は玄関の傍にいた。「出かけるの?」 「そう、和装衣装の小物っていうの、決めなくちゃならないの。 式の会場にいってくるわ。 和装とか詳しいこと知らなくて困るけど」「 私も和装とか、成人式の振袖くらいしか着た事ないし、お手伝い出来ないわね。 早く帰るのよ。」 「エー、そうする、ママ」
俺と女房は、俺が二十代半ば、女房が二十歳位で付き合い始め、やがて恋仲になる。 惹かれ合い、愛し合う様になる、精神的にも肉体的にもだ。 俺が31歳、女房が25歳で、自然に結婚した。 夫婦仲は良好であり、性的関係は、すこぶる快調であった。 三十歳を過ぎる頃から、彼女の性感は充実し、俺たちの性生活は充実を極め、最高だった。 妻は俺を満足させ、彼女も幸せそのものだった。
やがて、彼女は妊娠した。 妊娠後期や、出産後、暫くは、あれを控えなければならない。 その時期も、「性欲で苦しむのは可哀そう」冗談めかして「浮気されると困るから」と言い、両手でマッサ―ジして、性的満足を与えてくれた。
息子の首がすわる頃から、また週3-4回のペースで、愛し合うようになった。 30代後半の彼女の性欲は充実していた、禁欲生活を送らせるのは、相当に無理があると思う。 このまま入れ替わりの生活を秘密のまま継続するには、何か対策を打たねばなるまい。 美憂の姿をした俺が関係を持つのは、不可能、論外だ。 俺の姿をしている美憂が関係を持つしか手はないだろう。 妻が性のことで、ストレスを感じるのは心外であるから、美憂が関係する事には異存はない。 止むおえない事であろう。 完全に男性の体なのだから、恐らく性行為は可能だろう、彼女もそう感じている様だ。 問題は、メンタルの面だ。 本来は性経験のない若い、繊細な女性なのだ、その彼女に性経験豊富な中年女性を抱けと言うのだ。 かなり無茶な話である。
俺は、スカートを整え、階段を上る。 見慣れた、事務室には俺の姿をした美憂が一人で、教材の作成に励んでいた。 「塾の事、問題はない?」 「大丈夫だ、心配ないよ、問題は起きてない。 それより、篠原君は自分の結婚の準備が大切だよ」とにやりと笑う。 「今日は、和装小物だとか、簪だとか決めなくちゃならないから、式場にいってくる」
「あ、そうだな、予約したな。 宜しく、頼むよ。 君が花嫁衣裳を着るのが楽しみだ」と美憂は平然と言う。 元に戻れずにその日を迎えると思うと、やはりあせりを感じ、ため息が出てくる、何とかしたいのだが。
「で、あの事だけど、妻が求めて来たとして、もし君が構わなければ、関係してくれて構わない。 しょうがない、これは。 君の姿をした今の俺には、文句を言う資格はない。 万が一、このまま戻れないのなら、妻も息子も。君のものだ。 それも、止むおえない」
「もし、戻れないなら、父も母もそして彼も、そのスカートも君のものだ、やむえない」
入浴をすませ、リビングで寛ぐ、男性の姿をした美憂はある、決断を下していた。 「センセイの許可は、頂いてある。 この秘密を守るには、奥さんと関係を持つしかないだろう。 この関係は途轍もなく奇妙で複雑怪奇だ。 でも私はやり遂げるしかないだろう。 出来ることはみんなやらなくては。 幸い、奥さんはなかなかきれいな魅力的な方で、抵抗感は少ない。 俺はやっちゃおう」と美憂は唾を飲んだ。
「あなた、カゼは大丈夫?」 「アー、大丈夫だよ、何でもない」 「悠人の幼稚園そろそろ決めないとね。 あなた、詳しいんじゃない、その辺の事」 「あんまり、関係はないな。 でも、子供達、幼稚園がいっしょだったとか、聞く事はあるね。 弟や妹が幼稚園生の子は多いな。 小学生だからね」
「悠人、将来あなたの塾に行かせるの?」 父親は暫し、沈黙していたが」 「小三になればそうなるかな?無料だしな」 「ちゃんと指導するのよ」 「大丈夫だ、あいつは必ず、開成か武蔵、あるいは麻布に入れる。 開成、武蔵は遠いから、麻布がいいかな、いや駒場東邦と言う手もあるな」と美憂は本物らしい感じで笑う。
「あなた、今日はしましょうね」 色気に満ち溢れた、瞳で美憂を見つめ、指を絡ませてくる。 覚悟を決めた美憂は妻を抱きよせ、胸に抱きしめる。 こうしてみると、女性って柔らかく、しなやかだ。 筋肉が少なく、相対的に脂肪が多いからだと、数日前まで自分もそうであった事を忘れて、感じていた。 妻の手を取って、美憂は寝室に入る。 どうしてよいか分からぬが、本能的に行動すればオーケーであろうと考える。 彼女を抱きしめ、接吻する。 彼女は熱い接吻を返してきて、舌を入れてくる。 二人はお互いの舌を絡ませ合い、それは数分間続いた。 顔を離すと、妻は少し荒い息をつき、嬉しそうな表情を浮かべている。 美憂は妻のTシャツを脱がせ、乳房を弄り、愛撫を始める。 彼女は女性の体については詳しい、当然かもしれない、また抵抗感も少ない。 半時間程、二人の男女の愛の交わりは続いた。
「あなた、良かったわ、凄く良かった。 なんだか、最初に愛し始めたころ見たいな感じがした。 ネー、もう一人子供作りましょう、今度は女の子が良いわ、そうね、あの美憂さんみたいな女性に成るといいな」「アー、そうだな、考えよう」
隣の美憂は「スゴーク、良かった。 でもこんなことしてしまって、あたし女性に戻れるのかしら? 不安。とても不安。 でもスゴーク気持ちいい、明日もやっちゃいそう」と思った。 「大変な事に成ってきちゃった」




