娘の部屋
|朦朧《もうろう》 朦朧、朦朧、何が何だかわからない、 少しだけ意識が戻って来た。 何かおかしい、変だ、妙な感じがする。皮膚感覚が違う。 違和感。 スカートの様な感じ? 彼女がはいていたものと同じ色合いで柄。 上半身も違うもの着ている。 髪が長くなって背で纏められている。 前のソファーに、中年の男性が掛けている事に気が付いた。 知らない人だが、見知った顔のようにも見える。 これは、意識が正常には回復してはいないな、と感じる。 美憂が座っていた筈の位置に俺がいる。 彼女は大丈夫か? 気を失う前に、泣いたりしていたな?
前の男性もこちらを見たり、自分の衣服に触ったり、不審な表情を浮かべている。 夢かな? 夢にしては意識は明瞭だ。 どうやら俺はスカートを履き、ヒールのある靴を履き、女性の衣服を着ているらしい? 美憂が着ていた衣服に見える。 美憂の姿は見当たらない、何処に行ったのだろう、帰ったのだろうか? 前にいる男性は、私のスーツらしきものを着て、今日しめてきたネクタイをしている。 妙だ、何故だ? 変だ。 夢か?
前に座る、男も酷く驚いた表情をしている。
「あなたは・・・・・」と言うが、直ぐに止めざるおえなかった。 「美憂・・・」とまた言うが止めるしかなかった、その声は女性のそれに聞こえたからだ。 「どういう事なんだ?」やはりその声は若い女性の高い張りのある声に聞こえた。 聞きなれた声、美憂の声に良く似ている。 「先生どうなってるのでしょう?」と男性も発するが、直ぐに止める。 「あたし、どうなってしまったのでしょう?」とまた発するが、また止める。 「どうしよう?」と中年男は呟く。
「今の状態は大変驚愕すべき事だ」と言うがその声は自分の物ではなく、若い女性、つまり美憂のすんだ透明な声だ。 「冷静にこの特殊な状態を、把握すべきだ」 「私もそう思います、まず冷静に考えましょう」とその男性は男性の声で答えた。
私は給湯室に入り、細くて白い、マニキュアが施された指で小さな手鏡をつかみ直ぐに戻る。 自分の顔を確認する。 若い女性の困惑しきった顔が写る、美憂の綺麗な顔だ!!! 下を見れば、スカートから延びる、白い脚が。
鏡を男性に渡すと、彼も鏡に写る自分を見て、ただぼんやりとしていた。
自分の体を確認する。 細くしなやかな体、筋肉は少なく、背も小さくなった様だ、胸には柔らかな膨らみがある。 これは、この体は美憂の体であると理解するしかないのかもしれない。
向こうの男性も同じ様に自分の体の確認している。
「いや!」と一言、大きな声を上げる。 男性の低い声で。
「この状態をどう理解したら良いのだろう?普通の理解の範疇を完全に超えている。 今、僕の意識は、君の体の中にいるらしい」と美憂の声で発する。 「とても理解不能です。 私は先生になってしまっています。 こんなことって」中年男は泣きそうな顔になり、本当に泣き出しそうであった。 「冷静になろう。 大丈夫さ、頑張ろう」と私は小さいころの美憂を励ますみたいに、美憂そのもの声を発する。 中年男は顔を上げ、女性の様に顔を横に振った。 「いや、こんなの、いや、やめて」と男は泣きそうだ。
「妄想だろうか? 統合失調症でも発症したのだろうか?それにしては、意識は明晰だ、二人同時に発症か?」 「私も意識は明晰です、妄想とは思えない気がします。 前にいる人は私の様に見えて、その人が先生が話す様な調子で話をしています」
「人の意識の入れ替わりとか、くだらない物語の中では良く聞く話だが、現実に起きるとは、信じ難い、でも現実に起きているようだ、受け入れるしかないのか?」
「先生、私どうしたら良いのでしょう?」中年男は困惑してまた泣きそうな顔になる。 「美憂、理性的に行動しよう。 まず、突然起きたことだから、突然またもとに戻る可能性は高いだろう。 それを期待しても良いのでは?」どうしても美憂の声が出てしまう。 「直ぐに戻れば良いけれど、戻らなければどうしたら良いのでしょう? この体では、家に帰れないし、帰らなければそれも騒動になるだろうし」「困ったな、どうすれば良いんだ?」 「私、両親に心配かけたくないし、フィアンセだっているし、困ります」 「僕だって同じだよ。僕にも家族がいるんだ」 「事実を説明して理解を求め、協力を求めたらどうでしょう?」 「そうだな、それもあるかな? でも信じてはもらえないだろう? あまりにも常識とかけ離れている、あまりに突飛だ、皆、困惑して困るだろう、最初はふざけていると思われるか?」 「気が狂ったと思われる? 二人で発狂したと?」 「そんな感じになるかな?」 「よけいに迷惑になりそう。 じゃあ、どうしたら良いのかしら?」と中年男。 「今日、元に戻れないとしたら、止むおえないので、取り合えず、お互いの家に自分の体が合う方の家に戻るしか、ないのかもしれないな、取りあえず」 「先生の家に先生として帰る? 奥さんや子供さんにお会いした事あるけれど、先生のご家庭の事あたし殆ど何にも知らないのよ」 「僕だって同じだよ。 君の家に娘として帰るとか考えると、頭がおかしくなりそうだ。 でも、スマホで連絡できるから、情報は直ぐ交換できるよね。 とにかく巧くごまかして、今夜をなんとか乗り切らないと」 「私、イヤです、そんなの、出来ません」 「でもどうする? 娘が帰らなくて、心配になって、色々な所に連絡して、連絡がつかなければ、深夜に警察に捜索願いを出す、君のご両親ならそうするだろうな? 大事な一人娘なんだからな」 「センセイ、私の姿で家に行きたいんですか?」 「バカな事を言うんじゃないよ」 「ごめんなさい、つい混乱してしまって」二人とも頭を抱える。
「もう八時だから、後二時間位で私、家に戻らないと。 両親はそう言う事結構煩いし、心配するし。 とにかく お互いの生活情報を交換して、なんとかこの事、少なくとも今夜は秘密にしておかないと」
「お互いに立場を入れ替えて、行動するわけだから、練習の為ここからは君が僕として、僕が君として会話する事にしよう」
十時少し前まで、二人は今夜を乗り切るため、必死でお互いの生活情報を交換するのであった。 時間が足りない、時間はどんどん進んでしまう。 彼女のスマホを受け取り、自分のそれを渡し、彼女からバックを受け取り、ヒールのある靴での歩き方を確認し、スカートでの座り方を習い、美憂の動作を少し真似てみる。 決意して塾を出て、美憂が長年歩いてきた道を、彼女として彼女の家に向かうのであった。
彼女の家までは、7-8分程だ。 見知った町であるが、スカートを履き長い黒髪を背で纏めた24歳のきれいな女性として歩くのは、驚愕すべき事態だ。
やがて、何度か来たことのある100坪位はある、ツーバイフォー工法の住宅に到着する。 玄関のドアーを彼女に教わったキイーで開け、渾身の勇気を奮い「タダイマー」と美憂の声を出して入る。 母親が出て来ると「おかえりなさい、遅かったわね」と娘を迎える。 娘と信じている。 母親と会うのは三年ぶりくらいか? 少しだけ年を取った感じだする。 ヒールのある靴をかたずけ、彼女のスリッパを履く。 「ご飯どうする? お父さんはすんでるわよ。直ぐ食べるなら用意するけど」 「ごめんなさい、済ませてきちゃた」 「そうなの、冷蔵庫にケーキがあるから、後で食べなさい」「ええ」と自然に返答する事が出来た。
そのままスカートから延びる脚で軽快に階段を上り、二階にある美憂の部屋に逃げ込む様に入る。 明かりをつけると八畳くらいの広さの部屋は、若い女性の部屋らしく華やかでとても綺麗だ。 べット、勉強机、パソコン、本棚、レースのカーテンは淡いピンク色で、少し気恥ずかしさを覚える。 クローゼットの扉を開けると、沢山のスカートやワンピース、スーツが満載。 見覚えがあるS女学院の制服もある。 まだ、取ってあるのだ。 その時、美憂のホが鳴った。 俺ののスマホからだろう。 「先生、どうなってる?」男性の声。 「大丈夫みたいだ、お母さんには会ったけど変には思われなったみたいだ、今は君の部屋にいる」 「そう良かった。疑われなかった。 私、これから塾を閉めて先生の家にいくわ」 「帰れば直ぐ、女房と飯になるだろうが、テレビをつけニュース番組を見るんだ。 ニュースに注目していれば、あいつあんまりしゃべらないから。 子供はもう寝ているから大丈夫だろう」「あたしの部屋にいるのね、母が突然何か言ってくるから、注意してね、それからお風呂は入らないと駄目よ、変に思われるわよ。 汚いのいやよ、私の体なんだから。 べットの中にキャミソールがあるから、それとショーツね、クロ―ゼットの中の引き出しにショーツがあるからそれを持ってお風呂入ってね、綺麗ににしてよ、ああ早く元に戻りたい。 こんな事って」 「俺だってそうだよ、後でまた連絡しよう、明日の事を相談しよう」
ドアーが半開きになり、「美憂ちゃん、お風呂あいているから何時でも入れるわよ。 塾のお仕事、今日までね?」 「そうだけど、色々あって、今後も行く事があると思うわ」と巧く応える。 美憂は11月に結婚するのだ、それがこんなことになってしまうとは。 早く、戻れれば良いのだが。 明日は戻るだろうか? 戻らなければ、いよいよ大変な事になっていく。
一つの問題が起きる。 尿意らしきものを感じるのだ。 体の仕組みが異なるので、感じが少し違うが、やはり尿意の様だ。 トイレにはいり、スカートを上げ、ショーツを下し、座弁に座る。 良く分からないが、力を抜くと自然に男性とは違う形で排尿される、シャワーみたいな感じがする? 膀胱自体は、同じ様なものだから、尿意は同じ様に感じるのだろう。 しかし男性は尿道から性器内を通過して排尿されるのに対し、女性は膀胱から直接的に排尿されるので、その感覚は大分違うようだ。 大事な処を見ないようにして、トイレットペーパーで処理をする。 土下座して美憂に謝りたい気分だ。 女性はペーパーが必要なのだ、身を持って体験することになるとは。
入浴しよう。 言われたとうりにべットを探る。キャミソールは直ぐに見つかった、透けた生地で鮮やかな紫色。 美憂はこんなものを着て寝るのか? 迷惑な話だ。 これを着るのかと思うと溜息が出る、この体には不自然ではないのだろうが。 ショーツはもっと困る。クローゼットの中の引き出しを開けると、ブラとショーツで目のやりばに困るが、とにかく一枚を何とか手に取る。
バスルームに行く。 バスタオルは直ぐに見つかる。 シャンプー、コンディショナーは浴室にあると言っていた。
長い髪を纏めていたシュシュを解き、フレアースカートを下し、チュー二ックを脱ぐ。 鏡には美憂の裸体が写っているはずだが、目は向けないようにする。 背のホックを外し、ブラを外すと、どうしても胸が見えてしまう。
彼女の胸は形はよく、意外と豊かで、何と形容すれば良いのか、恐ろしい。 女房の乳首と比較してしまうが、子供を産み育てた女性のそれとは何となく違う。 何とかして卑劣な雑念を抑え込まなければならない。 動揺が酷い、動揺を抑える為、この体の柔軟さに注目して見る。 力はないだろうが、しなやかな女性の肉体。 ショーツを脱ぐと、何も見ないで、浴室に入り、そのままバスタブに浸かる。 若く美しい女性の肉体を直近で見てしまい、指で触れてしまい、興奮しな分けはない、しかし興奮する器官はないのだ、頭では滅茶苦茶興奮するのだが、興奮する男性の器官は現在は所持しない。 彼女のすべてを見てしまう、これは彼女に対し、途轍もない侮辱だ、でも私にはどうすることも出来ない。 彼女も男性の肉体に大変困惑していることであろう、とくに男性器には大変な違和感を感じるだろう。
とにかく、体のことには拘らず、体を洗い、長い髪を何とか洗髪して、入浴を済ませる。 バスタオルで美憂の透けるような肌を丁寧に拭き、ドライヤーで髪を乾かし、上を向いたままショーツに脚をいれ、キャミソールを着る。 美憂のやつ何でこんなものを着るんだ、俺の事も考えてくれと愚痴るが、どうしようもない。 お互いの家に戻る行動には無理があったのか? でも、どうすれば良いのだ? もし帰らなければ、俺と美憂が駆け落ちしたとでも、考えられるか? その場合も、俺たちの立場は、滅茶苦茶になる。
部屋に戻る。べットに掛け、彼女のスマホを手にする。 自分のスマホにかける。 直ぐに、応答がある。
「先生、どうなってる?」 「こちらはなんとかなってるよ。 御両親はもうお休みのようだ」私は囁く様に答える。
「こちらも、奥さんお休みになったみたい。 私、リビングにいるわ」美憂は俺の声で囁く。
妻とは週何回か関係してきた、まさか妻が美憂を誘う? まさか?
「僕は君の部屋にいる。 この状況だと、そちらは男性的言葉ずかい、こちらは女性的言葉をすべきだ。 その方が状況に適応出来るだろう」 「そうだな、そうしないと。 明日はどうしよう?」 「10時ごろ息子が起こしに来るので、少し遊んであげて、11時頃三人で食事をする。食事中は息子中心で、面倒な話はないでしょう。 すんだら塾にいくのね」 「君は8時頃、三人で食事をとる、朝は父は急いでいるから、そんなにやっかいな話は出ないと思う。 早く塾に来てほしい、でもあんまり早いと不自然に思われるかも」 「私、何を着ていけば良いかしら? 今日と同じでは変じゃない?」 「そうだな、クローゼットにグリーン地のワンピースがあるからそれで大丈夫だろう、君も見たことがある筈だ。 靴は今日と同じで大丈夫だろう、髪を纏めるシュシュは変えた方がいい、下着の隣の引き出しに沢山ある。 私達、元にもどれるかしら?」 「分からない、分からないわ、突然戻るかもしれないし」 「もどれなかったら、どうしたら」 「戻れる事を期待しましょう、まだ六時間くらいしか経っていない、もう寝ましょう、入れ替わっても生身の体だ寝ないと、明日がんばろう、お休み美憂」
「おやすみなさい、美憂のセンセイ」




