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秘密  作者: 藤崎麗奈
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プロポーズ

    塾は、中学受験専門の進学塾である。 対象は小3から小6までの子供達である。 中学生は対象にしていない。 他に希望があれば、個別指導の授業も行っている。

    美憂は、午前中から午後にかけては、大学での講義を受け、夕方から塾に行き、9時近くまで、集団授業、個別指導の授業に明け暮れていた。 彼女は最初の頃こそ、18歳にしかならない、線の細い、頼りない、女子高生みたいな先生と言う評価であったが、忽ち指導力をつけ、半年もすると実力を伴う中学受験の教師に成っていた。 教科も、4教科全部を指導する事が出来た。 これはわりと珍しい事で、彼女の敬愛するセンセイと同じである。センセイに負けない教師に成りたいと、彼女は努力を続けた。  大学と塾と自宅を往復する毎日であった。 

     年頃の女性として普通の娯楽には、さほど関心を示さなかった。 メイクは殆どしなかった。 素顔が大変きれいなのでその必要はないと、本人も自覚していたのかもしれない。     

     ファッションにも大して興味は示さなかった。 きちんとした身なりをしていたが、華美な服装は好まなかった。 ブランド品になど興味はなかった。 大学に通い、懸命に塾で授業を行うことに満足していた。  男友達は、例の医学部学生一人だけであった。  その暮らしが、大学一年、二年、三年、四年と続いていく。

     


     

「私には、あの塾に対し何か心理的拘りがあるんじゃないのか? あのセンセイに何かの拘りがあるのではないか? あのセンセイと離れたくない、そんな気持ちがどこかに潜んでいるのではないか?」 センセイは彼女の母親と同年であり、彼女が小学生の時から自分の妻に対する愛情を露骨に口にしていたことなどから、彼女が恋愛感情じみたものを持つという事はあり得ないであろう。


    「私って男性に対する特別な感情を持った事ががない。 まだ、初恋とか言うの知らないようだ。 父が好きだ、あのセンセイは大好きだ、あの医学部の彼も好きだ、でもどれも恋愛感情とか言えるものは皆無だ。何故だろうか?

私とは何者なのだろう? 私の本質はどこにあるのだろうか?」中々の哲学者である。



     美憂の恋人ではない彼は、医学部を卒業し、国家試験に合格し、大学病院で研修医として、厳しい研鑽の日々を過ごしていた。 このころには、彼は美憂に明確な恋愛感情を抱く様になっていた。 酔った彼は「あいつと結婚出来るなら死んでもいい!」などと、口走る様になっていた。

     結婚しても死んでしまえば元も子もないであろうが。 彼は何度も、アプローチするが、真面目な彼には美憂を口説き落とす事は出来ない。 また美憂は彼を完全に突き放すことはしない。


     大学4年時になり、彼女は就職活動を行うが、いまいち積極性に欠け、希望の企業に入ることは出来なかった。  予備校の非常勤講師の採用試験を受けそれには合格した。 

    「卒業後は、予備校とあの塾を掛け持ちして働こう」と彼女は考える。  両親に相談すると、当然あまり良い顔はしないが、娘が進学指導のような事が好きなのを分かっていたので、了承した。


     美憂が23歳の六月、夕日が美しい時刻、二人は代々木公園の噴水広場の芝生を歩いていた。

     突然「僕ら結婚しよう」と彼は発言した。

     彼女は何も答えず、ぼんやりしていたが、やがてただ一言「お受けします」とだけ答えた。


     この日から、新居はどうするとか? 式はやるのか、やらないのか?  どう言う式をやるのか?  生まれた子供の名前はどうするとか? 進学はどうするとか?

    

     色々面倒な話が際限なく続く。 彼は、7月から11月まで、アメリカのボストンの医療機関で研修することになっていたので、準備は彼と相談しながら、美憂が一人で進める事になった。 

     婚約後も彼女は手を握る以上の事はさせなかった。 彼も女性に無理に関係を迫るような人間ではなかった。 

   美憂は幼い頃、祖母から、文金高島田を結い、白無垢打掛で綿帽子を被る、祖母の婚姻の体験を聞き、古い写真を見て、とても憧れていた。 和式の神社での式を希望する。 彼は美憂に溺れているので、当然同意する。 普段の彼女と違い、式での衣装にはとても拘り、とても高価な花嫁衣裳に決めた。 もともとのロングヘア―をさらに伸ばし、自毛で文金高島田を結うことにする。 その為に式の当日には、特別な職人を依頼する。 彼女なりの強い拘りがあるようだ。


      9月の下旬、ある日の夕刻、塾の仕事を退職するに伴い、引継ぎ等の為、塾の来客用ソファーに塾長と対面して、かけていた。  「君はこの六年本当に良くやってくれた。いくら感謝しても、感謝したりない」 「私、小さい時はセンセイに可愛がって頂いて、この六年間はたくさんの子供たちと沢山沢山触れ合い、本当に幸せです。 ここが大好きなんです。 故郷みたい気持ちです。 本当は離れたくないんだけど、婚約者も両親も一度離れた方が良いと強く言うので、退職を決めました、これからも時々訪ねても良いでしょうか」「勿論、大歓迎だよ。 こちらも頼りにしたいのが本心だけれども。 だけど、一度こことは離れた方が良いかもしれないね? なにか、君はここに少し拘りすぎているような気がする。 あんな素晴らしい青年と結婚するんだ、こんな塾の事なんか忘れて、自分達の人生を大事にする事だね」 「私、小学生の時、この塾とセンセイが大好きで、ここに来るのが楽しくて、センセイの為に勉強して、中高の時も、たまにここに来るのが楽しみで・・・」

    美憂は顔を伏せ、目頭を押さえ、泣き出した様に見える。

    「あたし、本当は止めたくないんです・・・」

    「やめてくれよ、女に泣かれると困るもんなんだよ、しかも君みたいな美人に」と軽口を叩いてしまう。

    美憂は顔を上げるが、何だか蒼白になり、目が虚ろだ。  何だこれは?「篠原君大丈夫?」と手を差し出そうとするが、急に私も頭がくらくらしてきて、倒れそう、これは一酸化炭素中毒? でも暖房は使っていないし、とか思いながら意識が朦朧となり、喪失してしまう。   


    この後、驚天動地の事態が巻き起こるのであった。

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