表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秘密  作者: 藤崎麗奈
14/14

披露宴の花嫁

   綿帽子で顔が覆われ、白い肌のメイクと赤い唇のメイクで、表情があまり表に出ないので気が楽だと、俺はふと思った。 綿帽子と絹の着物の中にいる様なものなので、気持ちは少し楽かもしれない。 「非現実的な世界だ」人に聞かれない様に、小声で俺は囁く。


   「リムジンがお待ちしております」と言う声に促され、担当者に手を取られ、白無垢姿のは俺は、ゆっくりと車に向かう。 衣装が凄いので、担当者の指図を頼りに、新郎に助けられ、何とか車に乗り込むんだ。


   「美憂、俺、神社初めてだから、宜しくな」 「動画は見たでしょう」 「アー、何回か見たよ」 「大丈夫よ、担当の人がチャンと導いてくれるし。 それにあなた要領良いし、大丈夫。 あたしは現場で長時間リハーサルしたしたから、サポートしてあげるわ」と綿帽子の中の、紅色の唇を動かす。


   新郎が手を取ろうとするが、彼女は直ぐに引っ込めてしまう。 「なんだい、帰国してから手も握らせないね、どうしたの?」 「なんでもない、式の前だからよ」と彼女は誤魔化す。 「それにしても、白無化姿凄いね。 とにかく、綺麗だよ!」 「でも着るほうは大変よ。 重いし、何か所も紐で締められて、動くの大変。 なんならあなた、交代してくれない」 「それはちょっと無理だな、俺はおかまじゃないんだし」 「私もそんな気持ちがするのよ」 「・・・・・まあ今日は頑張って乗り切ろう、明日から一週間のハネムーンだ、君と僕の生涯最高の時間にしよう」 「そうね」綿帽子の中の新婦は少し皮肉な笑みをうかべるのであった。

    リムジンは木々に満ち溢れ、紅葉に彩られた神社に到着した。 すでに神職三名と巫女二名が待機していた。   ドアーが開くと、巫女は手慣れた様子で新婦の手を取り、降車を助ける。  『こないだの、可愛い巫女さんだな』と綿帽子の中で俺は思う。

    丁寧な挨拶があり、神職が先を導き、一人の巫女が大きな朱傘をささげ、もう一人の巫女が白無垢姿の新婦の手を取り、境内をゆっくりと進む。 新婦は新郎の少し後を歩むのが作法。 幾つかの大きな鳥居を潜り、社殿の近くに来ると、新郎新婦の親族が居並び、二人を迎える。 親族に丁寧に軽く頭を下げながら、二人は本殿に導かれていく。 親族は、新郎新婦の後を歩む。 留袖姿の上品な女性が、新婦の手を取り、介添えを始める。  「美憂ちゃん、とっても綺麗ね、可愛いわよ、おめでとう」と新婦の耳元で囁く。 白無垢姿の女性は、綿帽子の中の紅色の唇を、僅かに微笑ませる。 『ママ、本当は偽物なんだよ、ごめんなさい。 でも今日、娘の役をチャンと務めるから、許してね』綿帽子の中で、私は思う。

    社殿の近くに来ると、雅楽の演奏が始められ、雰囲気は否が応にも盛り上がってくる。 荘厳かつ神聖な雰囲気、聖なる場所。 神の前で婚姻の誓いを立てるのかと思うと、絹物に覆われた新婦の胸は高鳴りを抑えることは出来なかった。  新郎新婦は社殿の奥、所定の位置に導かれ、二人は神の前に居並ぶ。

   「とうとう夫婦だ、昨日は法的に夫婦に成れたけど、これで完全な夫婦だ。 僕は嬉しいよ、君はどう?」綿帽子に顔を寄せて、小声で囁く。 「まあそうかしら、ここは神聖な場所なのよ」と紅色に塗られた、唇で私は曖昧に囁く。

   『僅かな絹擦れの音、自分を覆う絹の香り、純白の綿帽子の中の白化粧の顔、何だか少し心地よくなってきたかな?  綿帽子から覗く、厳粛な社殿の雰囲気、罪の意識はあるが、それを忘れれば、ある種の快感を覚える。 これをやりたかった、美憂の気持ちが少し分かってきた思いだ。 この白無垢打掛も、一時間着ていれば、抵抗感は薄れ、女性の様な気持ちになってくるのか? しかし、生来の女性でもこんなものを何回も着る人は少ないだろう。 少し前向きな気分になってきた、奴にこの美しい衣装を見せやろう。 どんな気持ちだろう? 美憂だった時の気持ちが完全には消えてはいない筈だ』


   「この神社、安産祈願で有名なんだね。 早く、赤ちゃん出来ると嬉しいね」新婦は驚愕したらしく、綿帽子が少し揺れた。  「・・・・・」 「赤ちゃん欲しって君も言ってたよね。 子供欲しいって話したよね」 「そうだったわね、でも今は止めて、お願い。 儀式が始まるわよ」 「ごめん、ごめん」新郎は気持ちを引き締めた表情に成る。

     『俺は、気に掛かっていたのだ。 式が終了した後、彼と美憂は本当の夫婦になるはずだ。 で、その妻の務めを果たすのは誰であろうか?  それは私がやるしかないだろう。 この花嫁衣裳とは馴染みつつあったのだが、その衣装の中で覚悟をきめつつあったのに、悪意はないが、妊娠、出産の事を彼が言い出したので、驚愕してしまった。 妊娠となると、とても受け入れられない。 まあ、余計なことは考えないで、花嫁の役に徹しよう。 今夜の事はその先だ』


    『親族の入場が終わり、新婦の親族は俺の後方に、彼の親族は彼の後方に着席した。 留袖を着た、彼の母親がちらりと見えた。 退場の時は、彼女に手を取られるのだろう?』


   太鼓の厳粛な音が響き渡り、衣冠束帯の神職が立ち、「御両家の婚礼の儀を挙行いたします。 神楽、豊栄の舞を奉納いたします」

   二人の年若い巫女が、榊を手にして神の前に控え、笙の音が響くと、舞は始まる。 やがて篳篥ひちりき、神楽笛の音が加わり、厳粛な雰囲気は嫌が追うにも高まるのであった。


   「聖杯の儀を執り行います。 新郎新婦様は御起立願います」

   『巫女が捧げる金の杯を、彼は丁重に受け取り、お神酒が三度に分けて、注がれる。 彼は落ち着いた品位のある態度で、杯を三度口にする。  続いて、巫女は金の杯を、私に捧げる。 躊躇する気持ちがもたげるが、まさか拒否できる筈はなく、白無垢から延びる、手の先の細く白い指で、杯を掴む。 巫女は三度に分けてお神酒を注ぎ、手は震えたが、綿帽子の中の紅色の唇に三回、何とか触れることが出来た。 俺は花嫁として、三々九度を執り行い、義務をはたす』




    リムジンは、直ぐに披露宴の会場に到着する。

ドアーが開くと、担当の女性が私を助け降車させてくれる。 紋付袴姿の彼の方はわりと簡単だ。 白無垢を纏う私は、小さな歩幅で、草履を慎重に前に進める。 一度、着付けの部屋に戻り、メイクを少し直され、着物を整えられ、綿帽子を直される。 直ぐに、担当の女性に手を取られ、披露宴の会場に向かう。 彼の少し後ろを進み、新婦の席に導かれる。 隣には、もちろん彼がいて、微笑みを浮べこちらに視線を向ける。  新郎新婦の親族、友人、知人、全部で六十人程が列席している。

     私の近くには、両親や祖父、祖母、叔父や叔母。 彼の近くには、彼の親族が14-15人。  会場の出入り口に近い場所に、三人の親子ずれがいる。 一人は、40位の知的な風貌の男性、美憂が尊敬する人だ。 もう一人は彼の妻で、33-34位の女性だ。なかなかきれいな方だ。 それと、二人の息子、悠人君、4歳と三か月。 母親の膝にいる。

   「塾のお姉ちゃん、キレイだねー。 キレイだねー。 頭いいんだよ」と盛んに繰り返して、列席者を笑わせている。 母親が黙らせようとしているが、四歳児だ。 出入口の傍の席なのは、あんまり騒ぐ時は、外に連れ出す為だろう。 時々塾には連れてこられていて、美憂には良く抱っこされていた。

    

   新郎の短い挨拶が終わると、お色直しの為、私は退出する。 着付けの部屋に戻ると本唐織赤地の打掛や丸帯、和装小物が用意されていた。 何とも絢爛豪華な鮮やかな色彩、美憂はこの着物で装いたかったのだ。 これから、俺がこの華やかな着物を着て、彼に見せる事になってしまった。 綿帽子を外し、白無垢を脱ぎ、掛下の帯を解かれる。 僅かな解放感。 直ぐに、新しい掛下を着せられる。 打掛に合わせた丸帯が胸の高い位置に結ばれていく。 結びの過程で、二度帯板が挟まれ、帯枕は帯揚げで包まれた状態で丸帯の中に装着される。 全ての小物が美しさを感じさせる。 複雑な手順で文庫結びが進められていく。 見ていて、とても、美的だ。 丸帯でキュット胸が閉められると、気持ちよさを覚えてしまう。 女性としての、この感覚を味あわされる。 

    着付けは優雅にしかし、てきぱきと進められる。 当初の嫌悪感は次第に薄れ、美しい着物を着付けされる女性の喜びに共感が生まれてきた。 大体、この体は完全な女性なのだ。 その点から言えば、俺の男性としての意識から、生じる嫌悪感は、間違えなのかもしれない。 この快感を受け入れれば、本当の女性になり、奴の言うとうり、完全に美憂になれるのかもしれない』    

    メイクを修正され、鼈甲の簪を外され、赤打掛に合わせた色簪が附けられる。 華やかな色彩。 「またお綺麗ですね、ステキ、ステキですよ!」と言われ、まんざらでもない気分に成ってしまう。

    豪華な本唐織の打掛を着て、披露宴の会場に戻る。

    

    私が花嫁の席に戻ると、華麗な色彩の打掛に感嘆の声が響く。 俺の中の男性的本質から、羞恥の念が湧き出してしまう。 しかし、美しい衣装が快楽に変貌しつつある自分の変化を認めないわけにもいかない

    

    スピーチが始められていた。

   「北島君と、美憂ちゃんを引き合わせたのは、この私です。 実は、私も北島君を狙っていたのですけど、年下の美憂ちゃんに取られてしまいました。 美憂と私は、S女学院の吹奏楽部に所属していて、フルートを吹いていました。 彼の中学、高校とは、合同で部活動をすることがよくありました、北島君とは、中学のときから、友達でした。 恋人とか、そう言うのではありません。 まだ、ほとんど子供でしたから。 ある時、オーケストラのチケットが手に入り、彼と行こうという話になりました。 曲目は、モーツアルトのフィガロの序曲、フルートとモーツアルトのフルートとハープの為の協奏曲、もう一つが、えーと」 「展覧会の絵」新郎が口を挿む。 「そうですね。 私は家庭の都合で、行けな事に気が付き、そばにいた中一の可愛い可愛い美憂に行くように勧めました。 それから、三人で友達関係でいたのですが、だんだん彼は美憂の魅力に引き付けられ、ここに至ったしだいで、ございます。 御覧のとうり、美憂はスゴークキレイですからね」

    なかなか際どい事を言うがが、彼女には愛する夫がいる。 新郎と同年で、なかなかの美女だ。 S女学院を卒業後、慶応大学に進学し、外資系の企業に勤め、同僚の米国籍の男性と結ばれた。

   

    彼女とは、会った事はないが、写真や動画で顔は覚えている。  美憂に成ってから何度かメールでやり取りした。 彼女の結婚式には、美憂も出ている。 このスピーチを依頼したのは俺ではない、以前の美憂だ。


    花嫁の立場では、食事もあまり摂とれないし、花嫁はじっとして微笑んでるしかない。 視線はどうしても、会場、後方の三人に向いてしまう。 俺の事は、キレイな花嫁としか思っていないのだろうか?






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ