表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女ユーリカの強欲  作者: 潮騒八兵衛
第二章『やがて哀しき人形師』
22/28

2.15 冷雨、のち晴

 周囲の木々がバキバキと薙ぎ倒されて行く。冬の王が髭を鞭のように振るったのだ。その丘の如き巨体では、些細な行動すらも攻撃と化す。


 ルカは立ち上る土埃を潔癖気味に手で払うと、背後のカイトを見た。さっきまで悪態をついて険しいだけだったその男は、今ではただ茫然とルカと冬の王を交互に見つめている。

ルカはため息混じりに後ろへ呼びかけた。



「動けるのでしたらすぐにここから逃げてください。アンタを庇いながら戦える程、私器用ではないので」


 ルカが手から火の蝶々を生み出すと、その小さな瞬きたちは冬の王とカイトを隔てた。壁としてはたいへん頼りないが、牽制にはなるだろう。相手が生き物であれば、火の壁に突っ込むことなどそうは出来ない。ルカはこれまでの経験でそれを理解していた。


 カイトは火の蝶に驚きの表情を浮かべる。魔術とは基本、式と詠唱を通して事前に決められたアクションを起こすものだ。しかし彼女は無詠唱かつ式も公表されていないものを使っている。それは即ちルカがオリジナルの魔術を生み出したことを表していた。

オリジナルの魔術を作れる魔術師はそう多くない。才能ある魔術師が自身の半生を費やして一つ作れるかどうかといった程度である。



「教会の人間に優しくされる道理はない。それに……お前は誤解している」


すぐにカイトは表情を戻す。それから自身の杖を改めて構えた。引き攣った目に闘志の光を宿らせて。


「嫌いな人間であろうと、それを見殺しにするほど俺は腐っちゃいない!」



 次の瞬間、冬の王は耳をつんざく程の咆哮をあげた。それと同時に湖の水が弾け、空へと多量の水飛沫が打ち上げられる。そして雨のように水が降り注ぎ、火の蝶をかき消した。それが戦いの合図となった。



 まず動いたのは冬の王だ。その怪物は大口の周りを囲う無数の髭を振るわせてると、その内の数本を槍のように真っ直ぐ伸ばして二人を貫こうとする。


 ルカとカイトは互いに顔を見合わせると、それぞれ別の方向へと走り出した。それから間も無く槍髭が二人のすぐ横へ降り注いだ。

バリスタが出鱈目に打ち込まれたかのように陥没する地面。誰もこれを魚の髭のせいとは思わないだろう。


「というか、お前魔術師だろ? なんで杖持っていないんだよ!?」


 冬の王の攻撃を凌ぎ、息せき切りながらカイトは叫ぶ。それにルカはバツの悪そうな顔をした。


「生半可な杖だと壊れちゃうんですよ。魔力を注いだだけで魔法放つ前に」


 暴力的なまでの魔力を身にまといルカが答える。つまりルカの魔力に杖が耐えられないのだ。


「ふざけた野郎だ……」


 カイトはそう言って顔を顰めると、そのまま杖を強く握りしめる。これ以上の問答は不要。まずはこの場をどうにかせねばなるまいと、カイトは頭を巡らせる。


 攻撃を喰らわぬように走り回りつつ、カイトは杖に魔力を込めて詠唱を開始する。杖は込められた魔力を増幅して青く輝き出す。



『汝は夜を滑る光、あるいは獣、豊穣を齎す春の歌』


 異変を感じてカイトを睨む冬の王を、すかさず燃える蝶の群が襲った。ルカが得意とする撹乱である。


 冬の王はわずらわしそうに髭で顔の周囲を軽く薙ぐ。ただそれだけで火の蝶々は掻き消えた。

所詮撹乱は撹乱だ。だがその撹乱はカイトの詠唱が完成するまでの時間を稼ぐのに十分だった。



『そして汝は大地を貫く墓標なり』



『雷法の9』



『ライトニングフルーレ!!』



 詠唱の最後の一節が終わると共に杖先に光が爆ぜ、冬の王目掛けて一直線に雷が迸る。杖により増強された威力は、ルカの火熊にも比肩するだろう。


 カイトの放った全霊の雷は、そのまま吸い込まれるように冬の王の額へと直撃した。

土埃と共に冬の王の呻き声が聞こえる。


「やったか!?」


 カイトが高揚した声でそう叫ぶ。希望と不安が肺の中でない混ぜになり、乱暴に吐き出されたような声だ。それに答えたのは土埃から伸びる二本の髭であった。鞭のようにしなるその髭は、のたうち回るように出鱈目な軌道でカイトを襲った。

慌てて後方へと飛び退るカイトの爪先を一本目の髭が掠め、その脇腹を二本目の髭が打った。


 強烈な一撃を受けたカイトは、体勢を崩して地面を二回転する。鈍い激痛に耐えられずカイトは口を開いた。大きな悲鳴に吸い寄せられるように、三番目の髭が無防備なカイトの腹へと伸びる。人の身など容易く貫く髭の槍である。



『狐火きつねび・二ツ尾ふたつお』



 ルカの指先から現れた炎の狐が、二股に分かれた尻尾を髭の槍へと振るう。一本目の尻尾が突きの勢いを殺し、二本目の尻尾が弱まった髭を打ち返した。


 突きによって尻尾を一つ失った炎の狐は、うずくまるカイトの前へと降り立つ。その後すぐにルカも駆けつける。



「早く立ってください。このままだと死にますよ」


 淡々とそう言ってルカは横たわるカイトに手を伸ばす。


「大丈夫? の一言もなしかよ……」


 悪態をつきながらカイトは一人で立ち上がった。



「心配とかされるの嫌いなタイプでしょアンタ」


「……まあな。だが助かった。ありがとう」



 二人が肩を並べると共に、土埃が晴れて湖の暴君が姿を現す。無数の髭を揺らしルカらを睥睨するその姿は、獲物を狙う獅子のようだ。そしてその頂点捕食者の肉体には目立った外傷はなかった。


 泰然。強力な魔術を喰らってなお見せる圧倒的な余裕は、その巨大魚が人智を超えた怪物であることを示していた。



 呆然。ただ呆然とその怪物を見るカイトにルカが耳打ちする。


「突破口が見えましたね」


 どこに、と訊ねるカイトの視線に答えるようにルカは冬の王の大口、そこから無数に伸びる髭の一本を指差した。その髭は先ほどの雷を受けてか、黒く焦げて先端が千切れていた。よく見ればそれ以外にも何本か傷ついた髭が見える。


「さっきの攻撃は髭に防がれたのか。それが分かったところで突破口になるとは思えんが……」


「防御したということはアンタの攻撃が有効打であるという証明です。髭の守りが薄い側面を狙えば奴を落とせるかもしれません」


 ルカより提示された勝ちの目にカイトは目を見開く。

短時間の対峙にて行われる勝利への演繹。それはルカが一級の魔術師であるだけでなく、一級の戦士でもあることの表れであった。


 カイトは自身の頭に巻いた赤いバンダナをきつく結び直す。そして少しの逡巡のあと口を開いた。


「だったら、側面はお前が攻めろ教会女。俺が奴の気を引く」


 突然の提案にルカは怪訝な顔をする。それを察してかどうかカイトはため息を吐きつつ杖を構える。


「お前、俺より魔力量も魔術の練度も高いだろ? お前が攻撃した方が奴を殺せる可能性がある。それに冬の王は今の攻撃で俺の方を警戒しているようだしな」


「分かったか? 教会女」


 嫌味たらしく訊ねるカイトに、ルカは静かに頷く。




 バッ。


 そこで会話は打ち切られた。

冬の王が髭槍による攻撃を再開したからだ。真っ直ぐに伸びて迫り来る無数の髭槍を、二人は左右に跳んで回避する。


『光よ照らせ!』


 髭の猛撃を走って避けながら、カイトは詠唱を紡ぐ。



『光法の1』


『フラッシュ!』



 短い詠唱の後に、カイトの杖先から強烈な閃光がはしる。

強烈な光を一瞬出すだけの簡単な魔術。光を扱う魔術師が最初に覚える基礎の魔術だ。基礎にして単純、それゆえに使い所によっては強力な効果を発揮する。


 想定外の閃光に冬の王は目を灼かれ悲鳴を上げる。その隙に目を閉じて閃光を躱したルカが、冬の王の側面へと駆ける。



『羽搏一つで空を揺らし』



 間髪入れずカイトは新たな詠唱を始める。フラッシュはあくまで足止めのための足掛かり。本命はその先だ。



『百、千集えば地を翳らせ、万になろうと天地を喰らう』



『闇法の21』



『スウォームストーム』



 詠唱の完了と共にカイトの影は大きく揺らぎ、それは百に分かれて黒き昆虫の群となった。けたたましい羽音を発してそれらは四方八方へ散会して冬の王へと押し寄せる。

それはまるで闇の波濤であった。



「ひいぃぃぃっ!!? むっ、むむむっ、虫!虫!虫!?」


「そういや虫嫌いだったな……。悪い」



 青ざめた顔をしたルカが、速度を上げて駆ける。そして冬の王を蟲の群れが覆うのと同時に、死角である尻尾の方へ辿り着いた。だが、勝負はここからだ。


 けたたましい蟲群により視界と聴覚を奪われた冬の王は、重苦しい悲鳴を上げて身体を捻る。それに合わせて髭や尻尾がしなり、周囲の地面や木を抉る。そしてその内の一本がルカの方へと伸ばされた。


 だが、ルカはそれを避けようとせずにその手に魔力を編む。全身全霊を次の一撃に込めるために。瞬き一つせずに冬の王だけを見る。


『無縫の光よ、縦横交わりて、盾となれ』


 ルカは分かっているのだ。


『光法の4』


 その攻撃は己に届かないと。


『ミルクローク!』



 出鱈目に伸ばされた髭の槍がルカを貫こうとしたその瞬間、それは甲高い音を立てて弾かれる。カイトの詠唱によって生まれた光の障壁が、間一髪でルカを守ったのだ。


「今ので俺の魔力は空っぽだ! あとは頼んだぞ教会女!」


 魔力をなくした喪失感でよろめきながらカイトが叫ぶ。ルカがそれに魔力で応えた。


『火熊・月輪』


 強烈な火花が弾け、灼熱の熊が冬の王の前に顕現する。ルカの持てる最大出力の魔術だ。それが咆哮を一つあげると、王を取り巻く蟲の影は一気に霧散した。

他者の魔術を打ち消す暴力的なまでの魔力。それが炎の熊を象り、冬の王を見据える。


「グオぉォォォっ!!!」


 視界が開けると共に、隣接する強大な力を感知して冬の王は大きな雄叫びをあげる。されど火熊は怯む様子さえ見せずに、その双腕を冬の王の横腹へと振り下ろした。




 爆ぜる。



水が。空気が。音が。



強烈な一撃は周囲に耳をつんざく轟音と、土埃をばら撒いた。


 常人はもちろん、中級の竜門さえも屠る威力を秘めた一撃。それは王の首を捉えたのか。ルカは土埃の先を魔力で探る。

そして、気づいた。いや、気づいてしまった。


「……っ!? まだです!!」


 ルカが叫ぶとともに、土埃がかき消え冬の王の姿が現れる。さきの衝撃から姿を変えた、真なる王の姿が。



 冬の王は、黒光りする鱗の一枚一枚に透明な薄氷を纏い、ハリネズミのような氷の怪物へと姿を変えていた。火熊による一撃を受けた箇所は、焼け爛れて抉れていたが、その上から氷を纏い完全に止血されている。


「攻撃は効いている! そのまま仕留めろ!」


 遠くから聞こえるカイトの声に頷き、ルカはまだ顕現したままの火熊を動かす。容赦のない追撃。炎の牙が冬の王へ伸びる。


 火熊の大顎が冬の王の横腹を喰らう。だが今度は氷の武装に阻まれて本体まで届かない。氷は溶けて水となるが、それより早く次なる氷のトゲが生えてくる。

つまり火熊の攻撃は届かない。ルカの最大出力の攻撃が届かないのだ。


「そんなっ……」


 その事実にルカは一瞬、絶望した。そしてその隙に、冬の王の髭が氷の刃を纏い火熊を薙いだ。

横薙ぎ一閃。火熊の上半身と下半身が分離し、それは形を成せずに空に消える。

だが冬の王の攻撃は終わらない。

 冬の王は身を捩ると、自身の無数にある髭で水面を掬い、大量の水を空へ飛ばした。打ち上げられた水は樹冠を超えて少しすると、ルカたち目掛けて落下する。氷の刃へと変わって。


 一言でいうなれば氷柱の雨。それが半径300メートルもの広範囲に降り注ぐ。冬の王の至近距離にいるルカと魔力切れで座り込んだカイト、両者に逃れる術はない。



「あぁ……寒い」


 冷たい死の雨がスローモーションで自身に降り注ぐ。その光景をぼんやりと瞳に収めて、カイトは誰にも聞こえぬ小さな声で呟いた。


「あの日も、こんな雪の日だったな」



ーーー



 カイトの記憶の最も古いものは、木造アパルトマンの角部屋、六畳一間で母親と過ごしていた時のものだ。


 蚤の住処(ビリオンフリー)。それがカイト親子の住むアパルトマンの通称だった。老朽化が激しく木目の隙間に数億匹の蚤がいると言われたのが名前の由来である。

窮屈で悪臭が絶えず、夜中は無数の蚤に集られて眠れない。なんとも酷い場所であったが、カイトの住む街においてゴブリンが屋根の下で眠れることが稀であることを考えると、比較的恵まれた環境にあったのだろう。


 カイトの母親は魔術の杖職人であり、人間社会の中で杖を売って生計を立てていた。被差別種であるゴブリンが人の中で商売をする、その苦労は尋常ではなかっただろう。身体に痣を作るのは日常茶飯事で、ときには商品である杖を奪われることもあった。

それでも彼女は杖を売り続けた。


 杖は作るのに時間が掛かるもので、本来なら高値で取引されるものだ。しかしカイトの母親はゴブリンという身分から、二束三文で杖を買い叩かれていた。そもそもゴブリンが人の世に出て商売をすること自体が良い顔をされなかった。彼女が歩いていたのは茨の道だったのだ。


 ある日、幼いカイトは尋ねたものだ。なぜ杖を売り続けるのかと。

その質問に、カイトの母親はよれた笑顔で答えた。


「私はかつて杖に命を救われた。そして杖職人の道を志したの」


 その声色は優しかった。


「そして私は自分の技術に誇りを持っている。だから作るの。自分に誇れる自分であるため、杖を作り続けるのよ」


 当時のカイトにその言葉は理解できなかった。首を傾げるカイトに、彼の母親はごめんねと言って笑った。


 その後もカイトの母親は杖を作り続けた。罵倒を受け、痣を作り、ときに杖を奪われても。彼女は杖を作り続けた。だが、そんな生活にも終わりがやってきた。



 雪の日だった。かじかんだ指の痛みと、雪のどうしようもない白さをカイトは今でも覚えている。その日に彼の母親は教会に連れ去られた。

彼女には窃盗の罪が着せられていたのだ。悪しきゴブリンが、どこからか身の丈に合わぬ杖を盗み出し売り捌いていると。

ゴブリン風情にあのような杖が作り出せるわけがない。教会がそのような理由でカイトの母親を盗人扱いし、牢に捕らえた。そしてそのまま彼女は獄中で帰らぬ人となった。勾留から三日。あっという間だった。


 母親の死を書面で突きつけられたその日、カイトは決意した。母親の杖職人としての腕をこの世に証立てると。いつしか彼の母親の誇りは、彼の誇りへと変わっていた。


 それが始まり。


 カイトの杖職人としてのスタートだった。



ーーー



 死の雨が降り注ぐ。無数の氷柱が木々を倒し、地面へ風穴を開ける。幾つも、幾つも、数え切れないほどに。

そんな雨中にあって、ルカとカイトはまだ生きていた。


「どうして俺を見捨てない?」


 カイトは消え入りそうな声で尋ねる。魔力切れで立てないカイトの隣には魔力を最大限に練るルカの姿があった。

二人はいま高密度の炎の天蓋に守られ、氷柱をやり過ごしていた。ルカが全魔力を注ぎ火の蝶を生み出し続けているのだ。ゆえにこの傘は有限。ルカの魔力が切れたときが二人の散り際だろう。


「俺の分の守りをなくせば、その分魔力を自由に使える。そうしたらここから逃げ出すことだってできるだろう?」



「ボッソボソと! うるさいですねぇ!!」


 カイトの力無い問い掛けに、ルカは青筋を浮かべる。そして高らかに宣言した。



「ユーリカなら、こうします!」


「……は?」



 カイトの戸惑う声をよそに、ルカは力強い声で続ける。



「私の最高の親友ユーリカは、この状態だったら絶対にアンタを見捨てない。あの子は目に映るもの全てを救おうとする。そんな子です!!」


「だから私はアンタを見捨てない! あの子に誇れる自分であるために。自分に誇れる自分であるために!」



 自分に誇れる自分であるために。それはいつの日かカイトの母親が放った言葉と同じであった。

カイトは虚ろだった目を見開き、その瞳孔に光を宿す。


 自分に誇れる自分であるために。カイトは心の中でそれを誦じると、地面に落ちていた自身の杖へと手を伸ばす。


 杖の核に希少なルビーを用いた杖。強大な魔術を放つために半年もの月日を掛けて作ったそれは、カイトの最高傑作であった。

そんな至高の杖を力強く握り、そしてルカへと差し出した。


「……使え。俺の最高傑作だ。火力を追い求めた一振り、お前の魔力にも耐えられるはずだ。魔術を放つまでな」


「……いいんですか?」


 カイトはルカの手に杖を押し付けると、力強く頷いた。



「勘違いするなよ。この場限りだ。この一時だけ、俺の誇りをお前に預ける」




 ルカが杖を握ると、二人を覆う火の蝶が力を増して氷柱の雨を押し返した。そしてそのままルカは杖に魔術を流し込む。


「はい。確かに預かりました」


 先端のルビーが眩く煌めき、灼熱の熊が再臨する。先ほどの火熊より三回りほど巨大で、その身に黒き炎を宿した怪物がそこにはあった。



『火熊・灰燼緋熊(グリズリー)



 黒炎の巨獣は雄々しく吼え猛ると、冬の王目掛けて大地を蹴った。踏み締めた地面を焦土へ変えながら、火熊は矢のように疾走する。

一歩進むごとに降り注ぐ氷柱を溶かし、一歩進むごとに冬の王の氷の外装が弱まっていく。死へのカウントダウンに気づいた冬の王は狼狽し、乱暴に氷の棘を火熊へと飛ばした。


「グオオオオオォッ!!!」


 半狂乱となった王の乱撃を全て跳ね除けて、火熊は走る。一切止まることなく、王の喉元へと辿り着く。


 そして、



そのまま




冬の王を炎の衝撃が引き裂いた。

その身が真っ二つに分たれ、湖の水底へと沈んでいく。



「どうだ? 凄かっただろう? 俺の誇りは」



「ええ、とても」



 空から降り注いでいた氷の刃はいつしか雨へ変わっていた。それは、戦いで火照った二人の身体を冷やし、赤く染まる夕の空にかすかな虹を架けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ