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理科が好きな理由

 隆斗は、笑いながら理科室のドアを開けた。

 いつもの教室よりも少し広い。各班の机は天板が黒く塗られている。窓は大きく、黒板は何故かスライド式のバカでかいものが付いている。

 理科室の座席は、先生が適当に決めた席順だ。一番入り口に近い席に、大雅と隆斗。おれと昌磨は、窓側の一番奥の机の席に座る。

 隆斗が、秋楽園を視野に入れてるのは意外だった。いや、ただ憧れてるだけなのか。校舎綺麗で、制服もおしゃれで、キラキラしてるし。隆斗、そんな、入れるような成績でもないし。でも、それよりも。おれと同じ普通科をずっと目指してたから、というか、ずっとそう思っていたから。

 さっきの発言は、冗談にしても、衝撃だった。

 おれの左横には昌磨が、そして、目の前には、夢佳、夢佳の隣に莉加が座る。その奥には、大きな窓がズラーっと並んでいる。

 机の真ん中には、小さなプラスチックのメスシリンダーみたいな筒が2つセットになったような器具が置いてあり、その下に土台になっているプラスチックの両端から線が出ている。器具には、「電気分解装置」と書かれており、両端から出ている線は、キャンプに持って行ったりするポータプル電源みたいな大きな電源装置につながっている。 

 机には他に、マッチの箱、ろ紙が置かれている。中3にもなると、この2つの扱いはもう慣れている。

 ろ紙には、何故か、青色のペンで書かれた1本の線が引かれている。

 チャイムが鳴った。号令が終わった後、先生が説明を始めた。

「今日は、塩酸の電気分解の実験を行う」

 両方の筒に、うすい塩酸が入っている。左側の筒の塩酸に陰極(マイナス極)、右側の筒の塩酸に陽極(プラス極)の電気が電源装置から流れている。

 難しそうな機械が置いてあるけれど、実験の内容はとっても簡単。まず、左側にマッチを近づけ、次に、右側にろ紙を近づける。ただそれだけ。

 その説明を、先生は5分ほどかけてしている。退屈だ。ぼーっと外の海を眺めていると、船が何個かあって、遠くで飛行機も飛んでて、世界の広さを感じる。

「じゃあ、始め。」

「なにすればいいのー?」

 夢佳がぽけーっとしながらそう昌磨に質問する。

「えー、わからん」

 莉加が真面目モードで話し始める。

「わからんじゃないでしょ、はい、マッチを擦るの。」

 そう言いながら昌磨にマッチを手渡した。

 昌磨は言われるがままにマッチを擦る。スッと火がついた。

 ……そのまま、不安げにおれの方を見てくる。理科って、得意な人と苦手な人で差がすごいと、時々感じる。おれは理系な方でラッキーだった。

「左側の筒に近づければいいんよ。そんだけ」

「オッケー、ありがとう俊太」

 昌磨は莉加の方をチラッと見る。また強めに言われるのではないかと心配そうに。そして、マッチを陰極側の筒に恐る恐る近づけていく。すると。

「ポン!」

 急に音を立てて、火が消えた。

「……すげえ。」

 夢佳がそう呟く。莉加も少し驚いている様子だった。

 なんで、そうなるんだろうか。

 うーん……。

 その後も、他の班の机から、ポン、ポン、と音が聞こえてくる。その間に、夢佳は、陽極側にろ紙を近づけ始めた。すると……。

 ろ紙に書かれた青色の線が、スーっと消え始めた。

 ……なんか、魔法みたいだ。

 理科って、たまに、神秘的に思える瞬間がある。だから、おれは理科が好きなのかもしれない。

 夢佳は、ろ紙を持っていない左手で、ハアッ! ていう感じで、マジシャンみたいに力を入れているジェスチャーを見せた。青色の線がみるみる消えていく。

「イリュージョン!」

「フッ、黙れ」

「はー? 黙れってなんだよ黙れってー!」

 夢佳のキレ芸に莉加は少し笑う。

「莉加酷いよ。私、実験頑張ったのに〜」

 そのまま机に伏せてウソ泣きをし始める夢佳を見て、莉加はさらにケラケラと笑い始めた。

 ポン、ポン、と音が聞こえてくる。周りを見渡すと、みんな、ろ紙を近づけている。その中で、ドアに一番近い机のあいつらだけ。なんか、周りを見ながら、困っている、不安がっている様子だ。

 数分が経過した。

「では、1班の、えー、隆斗。陰極側では何が起こった」

 理科の塚本先生は隆斗の部活の顧問だ。

「えーっと、陰極側ではなんかマッチの火が気持ち大きくなったような気がしました」

「気持ち大きくなった?」

「はい……」

 あいつら。焦ってると思ったけどやっぱ、普通に実験失敗しとるやんけ。気持ち大きくなったって……透明なプラスチックを通してみたからそう思っただけやろ。

「じゃあ、陽極側は。」

「……何も起こらなかったです」

 何も起こらなかった。悲しい。

「他の班では何が起こったか、しっかり聞いておけ」

「はい」

 先生はそう言うと、教壇のファイルにサッと書き込みをする。そして、隆斗が俯く。その一連の流れを見て、一気に現実に戻された感覚がした。

 気のせいだろうか、先生がファイルに書き込みをするその動作の瞬間、クラスの雰囲気がピリッとなった。

「はい、じゃあ次、2班。……誰でもいい、答えろ」

「はい。陰極側ではマッチの火が音を立てて消え、陽極側ではろ紙に書かれた青い線が……」

恐れ入りますが、


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・下段の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


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