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内申ゲーム

「で、結局隆斗はどうするんだよ」

 昌磨が聞いた。

「おれなー、迷ってるんだよ。大雅は?」

「おれは絶対秋楽園高校! バスケつええし!」

 私立秋楽園高校は、バスケが強い。というか、部活が全体的にめっちゃ強い。偏差値も、58と高い。そして、当日点重視のこの学校。理系に強い大雅なら、そこで一気に点数を稼ぐことができる。もちろん、文系もそこそこできる。大雅は、頭いい感じ、しないのに。

 でも。

「内申低いからさー」

 そう。成績は良くても、内申が、低い。だからだろう。

「当日点で狙えるとこがいいなーって思って。2年の3学期、数学も理科も、結局『5』取れなかったし。」

「は?マジか! どっちも『4』だったの?」

 昌磨が驚く。

「お前、数学も、理科も、90点取ってたじゃん!なんで!?」

「こっちが聞きてえよー」

「……マジかよ」

 隆斗が、マジな声で、マジかよ、と呟く。

 90点をとっても『5』をくれないってなんか、さすがに……

「じゃあ、隆斗は内申去年なんだったんだよ」

 隆斗は答える。

「『28』。2つ『4』で、それ以外『3』だったんだよ」

 昌磨が少し安心した顔になる。

「よかった。おれと同じだ」

 おれの前回の内申は32。この2人よりも上をとっている。優越感に一瞬浮かれた。

 しかし、少し気になって、聞いてみた。

「じゃあ隆斗、その、『4』だった教科、なんだったんだよ」

「音楽と……理科」

「理科!?」

おかしい。うん、おかしくないか!?

「なんで? お前、去年理科80点以上取ってるところ見たことなかったんだけど!? なんで、90以上よく取ってる大雅と同じ……」

おれは、そこまで言った時に、大雅が、怒っているような、悲しんでいるような顔をしながらおれの方を見ているのに気がついた。


 瞬間、なぜか、先生と仲良くしていた夢佳が頭に浮かんだ。


 しばらく、沈黙が続いた。

「理不尽……」

そう、昌磨は前を向きながら、呟いた。

「内申って、理不尽だよな。先生の裁量によって決まるじゃん」

 おれがそう言うと、大雅が口を開いた。

「じゃあ、お前が見つめてた夢佳ちゃんみたいに、先生に媚びれば、内申上がるのかな?」

にやけながらこっち見ながら言ってくる。少しイジってきたことに腹は立つ。でも、昌磨が、理不尽、と言う言葉をストレートに言ってくれたことで、大雅の機嫌は少し、戻ったみたいだ。

「……知らねえよ。」

「実際、どうなんだろうな、その辺。先生と仲良くすれば内申伸びるとか、授業中頷けばいいとか」

隆斗はそう言いながら、前を向いて歩く。こいつは小学校6年間、ピアノを習っていた。去年の合唱コンで、伴奏者賞を取っている。この学年で1番、ピアノの演奏が上手い。音楽の内申は、『4』。

 誰もが、気にしている。高校受験に、少なからず、内申は関わってくる。高校によって基準は違うが、特に3年の内申はどこを受けるにしてもやはり大きく関わってくる。でも、何をどうすればいいのか、わからない。だからこそ、漠然とした不安に、全員が抑えられているのだ。

 4人で理科室に向かう途中。隆斗は大雅に尋ねた。

「なあ、大雅って秋楽園高校行くんだっけ?」

「いきてー! って思ってる。」

「実は、おれもそこ、いやーいけたらなーって思っててさー」

 隆斗、まじか。全学年で190人、その中で隆斗は、2桁の順位を、未だ取ったことがない。

「お前、その学力で……」

「俊太うるせえ! いけたらなーって話だよ、いけたらなーって!」

 大雅は隆斗の反応に笑いながらも、嬉しそうに話す。

「お前、マジでか! いやー、でも、一緒に目指せたらマジで嬉しい! すげー! 同じクラスになれるといいなー」

 大雅の、冗談だがもう決定したような口ぶりに、隆斗は少し、目を逸らしながら話す。

「いや、同じクラスにはなれなくて」

 続きを話そうとする隆斗。でも、なぜか、少し躊躇っている。

 3秒間の沈黙の後、大雅の方を向き、口を小さく開いた。

「おれ、音楽科のほうに行きたくて……」

おれは隆斗の方をパッと見た。みんなも、一斉に隆斗の方に顔を向けた。音楽科?なんだよ、それ!

「まじか!」

驚く大雅の横で、少し笑顔になる、昌磨。

「何コース?」

「……声楽」

 一瞬の沈黙が走るが、昌磨がみるみる笑顔に、ワクワクしたテンションに変わっていく。

「……まじ!? すげー! すげーじゃん! おれ、あん時、修学旅行の時、マジで感動した!」 

「マジか。お前、すげーな……」

あんまり、言葉が出なかった。でも、成績とか、あと……。

 隆斗が俯きながら話す。

「でも、金が……」

 そう。そこ。私立の音楽科ってなると、お金が、確か結構かかるよな。

「授業料3年間で400万いるって……」

 よ、400万……!? 額が大きすぎて、いまいちピンと来ない。

「だから、ここに入るなら、もう大学には入れられないって親に言われて、でも、この高校って大学進学前提のカリキュラムだし、って考えると結局無理なんだよね〜」

 話を聞き終え、昌磨が笑う。

「マジか〜、無理なら言うなよ〜」

「ごめんごめん」

 笑う2人。その横で、大雅が真顔で下を向き、右手を顎に当てている。

「……いや、1つだけ、金がなくても行ける方法は、あるにはある」

「……え?」

 隆斗が、パッと大雅の方を見た。

「その方法って……」

大雅は、目線は前を向いたまま、口を開いた。


「内申ゲーム」


「……内申ゲーム?」

隆斗は、冗談半分で言った話が、受け止められて、少し笑いながら、動揺している。

「……なんだよ、それ。おれ、内申『30』以上とったことねーぞ」

「……内申点優秀者特待生制度」

「内申点優秀者、特待生……」

大雅は話を続ける。

「卒業式で配られる3学期の通知表で、決められた基準の内申点を取る。その上で、卒業式の一週間後に行われる入学試験で合格をする」

大雅は隆斗に顔を向ける。

「この制度を使って特待生として、入学すれば、学費は、0にできる」

 唖然とする隆斗。

「え、じゃあ、その、決められた基準の内申点って、なんなんだよ。あの学校って確か、当日点重視だよな、なあ、俊太」

 動揺する隆斗に話を振られた。

「あ、ああ。確かに、偏差値は高いけど、内申はそんなに取らなくていい学校だから。確でも、その制度ってのが初めて聞くから、どうなんだろう。なあ、大雅。その、決められた基準、というか、内申って」

 大雅がゆっくりとこっちを向いて、口を開く。


「内申『40』」


「「「は!?」」」

「つまり、卒業式に渡される通知表の内申が『40』より低かった場合、その時点で、不合格が確定する」

 少しの沈黙が走る。そして、隆斗が笑う。

「いやいや、おれ前の内申『28』だぜ? 『40』って! お前そんなん」

「3年の3学期の内申は、3年の1、2、3学期の総合で決まる。だから、今までの内申は受験には関係ない」

「受験には関係なくても、今の学力が」

「……」

 少し黙った後、大雅は笑った。

「おれはただ、金がなくても行ける方法を言っただけだよ」

「あ、ああ、そういえばそういう話だったね」


恐れ入りますが、


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