マイコンパス
x+x²
黒板に書かれた一つの式。
その下に、黄色で、
x(1+x) と書く。
「今、先生が何をしたのか。答えられる人」
先生がペンを構える。教壇には、ファイルと、生徒の座席表が置かれている。
6人の手が上がる。
少し風が吹き、カーテンがなびいた。
そこから覗く左の窓からは、青く染まった空と、真っ白に光る太陽が見える。その光が海に反射して、キラキラと光っている。
窓側の一番後ろ。この席は、景色もきれいで、クラスの様子も見渡せるし、内職もできるし、何より、寝れる。最高の席だと思う。
「はい。じゃあ、岩田」
目の前に座る、岩田隆斗が当てられた。
おれはその陰に隠れ、少し顔を伏せる。
「共通因数でくくりました」
□×〇+□×△=□(〇+△)と、同じものを外に出して違うものをかっこの中にしまう、分配法則を使う。
x+x²は、x×1+x×xだから、x(1+x)と、変形できる。
x+x²をx(1+x) に変える。このようにして、足し算の形を、掛け算の形にする。因数分解の1つ。「共通因数でくくる」という言い方をする。
先生は、ボールペンを持ち、ノックをして、教壇にあるファイルにメモをする。そして、チョークに持ち替え、赤で、因数分解(共通因数でくくる)、と書く。
隆斗が座る。
「ありがとう、岩田。じゃあ、今からマイコンパスを書く時間を少し取る。『学びに向かう力』と『思考』に入れるからなー、しっかり書けよー。他にも因数分解には、x²-y²=(x+y)(x-y)という『和と差の公式』や……」
そして、おれは、A3の厚紙、マイコンパスを取り出す。折りたたまれているその紙を開くと、4つの表が現れる。1つの表には、日付、挙手回数を書くスペース、そして、授業の感想を書くスペースがある。そこに、つらつらと文を書く。
「因数分解の意味について学びました。今回の授業で理解できて、よかったです」
周りを見渡す。頭のいい奴らは、シャーペンを進めている。それ以外は、みんな、暇そうにしている。
そして、先生は説明をする。
「因数とは、整数がいくつかの式の積の形であらわされている……」」
外を見ると、2年がゼエゼエと走っている。そして、廊下から給食のにおいが微かにしてくる。
全中直前トーナメント。これから始まる全中地区予選の直前に、希望した、おれ達と同じ地区の学校が集まって行われるトーナメントだ。
おれらは、ベスト16。そして、隆斗は……あいつは剣道部だったか。チームの結果は知らない。でも、あいつは……試合に、出られなかったみたいだ。
もうそろそろ、最後の大会。でも、おれは正直、やる気がない。だって、この大会でベスト16だった時点で、結果は決まっているから。
恐れ入りますが、
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