歌ウマな中学生
修学旅行から、学校に帰るバスの中。
企画委員が考えた、ビンゴ大会をしてビンゴになった人がカラオケを歌う、そんな、ビンゴすることがあたりなのかハズレなのかよくわからないゲームが、行われていた。
「じゃあー……出ました! 43番!」
「はい、ビンゴ!」
「じゃあ林田さん、何歌う〜?」
「じゃあ、この曲にしようかな〜」
みんなで手拍子しながら盛り上がっている。
おれの隣には大雅が座っている。
「揃わねーなー。ビンゴ運おれよえーんだよなー」
「おれもビンゴ運ねえ。」
バスに揺られながら、ゆらゆらと会話をする。
「フゥー! 林田さん最高!」
パラパラと拍手が起こり、盛り上がる。
「じゃあ、次は〜……63番!」
「「ビンゴ!」」
「お! 2人ビンゴ!!えーっと、岳人と……莉加!」
隣でなぜか大雅が喜ぶ。
「俊太! おれリーチ! やったやった」
小学生みたいに、プチっと空けた。
サッカー部のキャプテンの岳人にマイクが回っていく。
「みんな盛り上がってますかー!」
「イエーーイ!」
ライブ会場みたいになってる。
「なあ、大雅おれリーチ2つあるのに全然ビンゴ来ねー」
「あるあるだよなー」
バスはどんどん進んでいく。
莉加が歌い終わる頃には、インターを降り、もう、いつもの景色になっていた。
「じゃあ、次の人が最後です! ……9番!」
どよどよ、とざわつく。
「……はい」
恥ずかしそうに、隆斗が手を挙げている。その横で、昌磨がケラケラ笑っている。
隆斗、こういうの苦手そうだからなー。昌磨も少し性格悪い。
「じゃあ、トリは隆斗に歌っていただき……お前大丈夫か?」
マイクが隆斗に渡る。
「……あ、うん。絶叫も克服したし! 勇気は出たから大丈夫!」
少し笑いが起こる。あいつ何言ってんだよ。
「絶叫……? まあいいや、そーしたら、歌って頂きましょう! じゃあ、曲選んで……」
隆斗は、曲を入れ、マイクを構え、歌い始めた。
すると、バスの中が、スッと、静まり返った。
綺麗な声。いつもの隆斗とは思えない。
みんなが、隆斗の声を聴き入っていた。
「まって、めっちゃ上手くね?」
小声で、大雅はおれにそう呟く。おれは、こくんと頷いた。
上手い人が歌う時の独特な雰囲気が、バスの中を包み込む。
Bメロに入った。力強くも儚げに歌う隆斗に、バス全体は魅了されていた。たまにSNSに上がってる、歌ウマ高校生、みたいなのを思い出す。あんな風にみんなの前で歌ってる自分をよく想像しながら見てたけど、隆斗がまさに今……。
サビに入った。……めっっちゃうまい! てか、かっけえ! 普段そんな騒がねえのに、去年も同じクラスだったのに、全然気づかなかった! こんなに、歌の才能があったんだ!
一番を歌い切った!
「おおおー!」
バスの中が盛り上がり、笑顔に包まれ、盛大な拍手が生まれた。
「みんなも、一緒に歌おー!」
隆斗が調子に乗ってアーティストみたいなことを言うが、会場は完全に隆斗の世界に包まれている。
「イエーーイ!」
みんな、一緒に歌い始めた。隣で大雅も楽しそうに歌ってる。おれも、歌う!
盛り上がりながら、バスは学校の前の最後の信号についた。
ラスサビ前、隆斗が儚げで綺麗な歌声を出すと、また、静まり返った。真剣に聴き入る。
なんか、本当にライブ会場にいるみたい。
友達に、こんなに魅了されるなんて思わなかった。
大雅も、感動してる。
本当に、すごい。隆斗の隣の昌磨は、相変わらず笑顔だ。
ラストのサビに入った!大きな、強い声で、楽しそうな声で、歌い始めたから、みんなも一緒に歌ってる!
おれも、一緒に、歌ってる!
学校に行く道が、こんなに輝いたことって、今まであったっけ。でも、超楽しい!
歌が終わった。
「イエーーイ!」
バスの中は一気に盛り上がった!
「隆斗上手いね!」
「めっちゃ上手」
「お前めっちゃ上手くね!?」
そんな声が、たくさん聞こえてきた。
「隆斗、ガチうめー!やべー!お、そろそろ学校着いたぜ!最後に盛り上げてくれてありがとう、隆斗!」
司会の天野がそう言うと、バスの中は拍手で包まれた。
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