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学年1の体力を持つ男・奥寺俊太

 はあ、はあ。

 あと、1周!よし、目の前には、まだ、誰もいない。

 めちゃくちゃ広いグラウンドで、沢山の人がいるのに、不思議と、それが自分だけのもののように思えてくる。

 独走、それは、選ばれた体力を持つものだけが手にできる、この上のない、自由だと思っている。

 周回遅れの奴を抜かし、ラストのコーナーへと進んだ。



 キュッキュッと、シューズの擦れる音が響く。

 体育館内の時間が、スローモーションになっているみたいだった。

 ネットから、ボールが、智樹に向かって勢いよく飛んでくる。

 智樹は、すぐさまレシーブをする。少し後ろによろける。

 そのボールは、ふんわりと、セッターの勇真へとつながった。

 そして、トスが上がる。

 おれは、後ろにある手を下から前に振り出しながら、右足で思いっきり踏み込み、飛んだ。

 前衛の裕太が、フェイントで、空振りをする。

 そして、おれに、おれの右手に、トスが、ボールが、当たる!

「うおおお!」

 相手のブロックの向こう、リベロの少し右。スペースを見つけた。そこをめがけて、最後の力を振り絞って。おれの、最強の体力を持つ、最高のスパイクで。



 トン、トン、トン、トン、ダン、ダン!!

 後ろから追い上げてくる感じがする。警戒心が、おれを焦らせる。

 少し、思い出に浸っていた。もう、最後の一周だ。

 大体、小学校の頃の栄光を、今でも引きずってるおれがダサいんだよ。

 でも。他のやつが弱かったら、無理だよ。

 どうでもいいよ。もう。練習しても無駄だよ。

 どこのチームに入るかなんて、どこの中学に行くかなんて、生まれた地域、親の転勤、そんなんですべて決まるんだよ。

「いいかー、さっき言ったこと意識して走れー」

 先生の喝が、グラウンド全体に響き渡る。


―15分前

「じゃあ、6組、岩田。持久走で意識することは何だ。」

 だだっ広いグラウンドの端に、3クラスの男子が縮こまって体操座りをする。

 3年も始まったばかり。ジャージから春風がしみるから、足を強めに抱く。

「えっと、良い姿勢でいることです」

「はい、ありがとう」

 目の前に座る隆斗は、答えた後少し下を向いた。

 黒のジャージに首から笛をぶら下げた先生は、左手に持っている、明るい緑色のバインダーに目線を向け、書き込んだ。

「他。ある奴いたら、挙手をしろ」

 2、3人の手が上がる。

「はい、じゃあ、昌磨」

「持久走を行うときは、手は卵を持つようにして少し拡げ、足は中またで走ります。背筋を伸ばし、頭が前後に動きすぎないように注意します」

「素晴らしい」

 そう言うと、先生はまたバインダーに目を向け、チェックをした後、少し文字を書くような動作を見せ、こちらを向いた。

「ペース配分をしっかりと考えて、今の2人が言ったことを考えて走れ。はい、準備」 

 その合図で、みんなが立ち上がり、動き出す。

 おれは、隆斗に自分の計測ノートを渡す。

「なあ、隆斗」

「なんだよ」

「おまえ、結局、受験どうする?」

「あ、ああ。まだ、あんまり。それより、俊太、お前、全中直前トーナメント」

「ベスト16。当たり前だろ」

「……やっぱお前、すげえ!」


―残り半周。

 さすがのおれも、1位のキープに疲れてきた。

 前髪が重めの隆斗が、運動場に繋がる小さな石の階段に座って、おれの走りを見ている。

 その目は大きく見開き、輝いている。

 その視界に、1人、入ってくる。

 前を見ると、もう、ゴールは目前だった。

 おれは、少しペースを速めた。

 もう、おれの後ろにも、横にも、誰もいない。

 おれは、そのまま大きく足を振り、手を振り、そして、ゴールした。

「お前、すげーよ!」

 ラップタイムが書かれたおれの計測ファイルを、隆斗がおれに渡した。

「ああ、ダントツ1位だ!」

 おれは、隆斗から、隆斗の分の計測ファイルも渡された。

「あざ。次は、お前の番だ。頑張って来いよ」

 おれにファイルを渡した隆斗は、少し、下を向いた。

「おれ……」

「なんだよ」

「前の試合、出れなかった。悔しいから、絶対出れるように、全中予選は絶対出れるように、この持久走も、絶対ものにして、それで……」

「早く行ってこい」

 隆斗は広いグラウンドに目を向けた。

「……ああ」

 後半組の持久走が始まった。

 姿勢の良い、ペースを考える、完璧主義みたいな走りが隆斗の特徴だ。

 で、結局真ん中らへんでいつもゴールする。今回もそのパターンだろう。

「なあ、太雅」

「なんだよ」

 隣では、すらっとしたバスケ部の太雅が、昌磨のラップタイムを記録していた。

「隆斗と俊太の走りって、なんか、正反対だよな。」

「……どういうこと?」

「隆斗って、真面目だし。先生に言われた走り、してんだよな。でもお前は、めっちゃ自己流だし。それなのに、お前の方が速いって、なんか……」

 不平等だよな。理不尽だよな。そう言いたげな太雅だった。

「それが全てじゃねえってことだよ」

「……やっぱお前はちげえな」

 太雅は笑う。


恐れ入りますが、


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・下段の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


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