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透明なスマホケースとステッカー

作者: 宮野ひの

 スマートフォンを新しくした。ホームボタンがなくなり、全画面のスマホを見ていると気持ちが晴れやかだ。子どもの頃、シルバニアファミリーを親に買ってもらって喜んでいた時の気持ちと似ている。


 先ほど通販で注文していた、強化ガラスとスマホケースが届いた。強化ガラスの方は今まで使っていたものをサイズ違いで購入した。貼り方も問題ない。


 スマホケースはクリアケースを購入した。今までは、手帳型のケースを使っていたけど、今回からはクリアケースにしてみた。早速スマホにつけてみるとジャストフィット。間違って床に落としても衝撃を吸収してくれそう。


 だけど寂しい感じがする。友達や、街で見かける女の子は、クリアケースにはオシャレなステッカーを入れていることが多い。例えば、ロゴマークやオシャレなイラスト、推しのステッカーなどだ。


 うーん、私もステッカー入れたいな。


 自分の机をガラッと開けて、中にある物をガサゴソと漁った。何かステッカーの代わりになるものはないかな。あっ。本を買った時に付いてきた、しおりがある。夜景が描かれていて、淡い雰囲気があってオシャレだ。縦に長いから、ハサミでちょうど良い大きさにカットしてスマホの裏に入れるのも良いかも。確か、リビングにハサミがあったはず。


 2階の自分の部屋から、1階のリビングに行くと、お姉ちゃんがいた。ソファで寝そべってスマホをいじっている。私はそっとスマホの裏側を見た。クリアケースを付けていて、ステッカーが3枚入っている。1つ目はお姉ちゃんが好きなバンドのステッカー。2つ目は、犬のキャラクターが笑っているステッカー。3つ目は、オシャレなロゴマークのステッカーだ。


「うわ、びっくりした」

「ごめん」

「いるなら言ってよ」


 お姉ちゃんは反射的にソファから起き上がり、簡単に座り直した。


「スマホ新しくしたんだけど、ケースに入れるステッカー、なんか良いのないかと思ってさぁ」

「あー」


 ボリボリと頭をかく。お姉ちゃんは、今何入れているっけと確認するように自分のスマホを裏返した。


「じゃあ、この犬のステッカー、泣いているバージョンが余ってるからあげるよ」

「本当!? ありがとう」


 1つ目のステッカーGET。お姉ちゃんからステッカーを貰った後、リビングにある棚の引き出しを開けた。小さな花の形をしたフレークシールを見つけた。バラやチューリップなど種類別の色とりどりの花が入っている。私は少し迷った後、桜のフレークシールを1枚手元に取り、残りを元の場所に戻した。


 今朝の新聞を開いて、広告に描いてあったハムスターがかわいくてハサミで切り取ることにした。スマホカバーに入れるステッカーを探すという名目で、家にはたくさんの宝の持ち腐れがあることを知った。


 ある程度、素材となるステッカーが集まったところで、スマホの裏にきれいに並べてみた。うーん、そのまま使うとダサくみえるなぁ。お姉ちゃんから貰ったステッカーは斜めにしてみるか。あっ、広告のハムスターは、生地がペラペラで浮いて見えるから外そう……。


 ああでもないこうでもないと一人、悩みながら世界に一つだけのスマホケースに仕上げていく。結局、悩んだ末にお姉ちゃんから貰った犬が泣いているステッカーを一枚だけ入れることにした。


 夜。お姉ちゃんとお母さんと一緒にテレビを見ていた。20時台から放送しているバラエティ番組だ。しかし、真剣に見ているのはお母さんだけで、私とお姉ちゃんはスマホをいじるのに夢中だった。そろそろお風呂に入らないとなぁ。お姉ちゃん、先に入ってくれないかなぁ。なんて思いながら、ぼんやりしていた。


 テレビから「みんな、どんなスマホケースを付けてる? まずは街の人に聞いてみたよ!」というナレーションが入った。チラッ。反射的に画面の方に視線が向いた。


 テレビのVTRは、10〜20代の女性を中心にインタビューをしていた。金髪の派手目な女性は、青色一色の衝撃に強いスマホケースを付けていた。黒髪ロングの女性は、手帳型のスマホケースを付けていて、中にたくさんのカードが入っているのを見せてくれた。


 また、クリアケースを使っている子も、たくさんいた。透明なままではなく、ステッカーを入れている子が大半だ。ある子はK-POPアイドルグループの推し、ある子はアニメの男性キャラクターのステッカーを入れていた。


 よくわからないロゴステッカーをひたすら散りばめて入れている子もいた。彼氏とのプリクラを入れて惚気ている子もいた。最後の子は、スマホケースなどを使っていなくて、裸で持ち歩いているということだった。その子が映った後、VTRは終わり、スタジオの様子に切り替わった。


 私は自分のスマホの裏面を見た。犬のキャラクターが泣いていた。


 スマホケースのステッカーは、頑張れば頑張るほど、自分のことをアピールしているように見えた。別にそれで良いのかもしれない。だけど、私は裸で持ち歩いている子に良い印象を持った。


 私のスマホケースは、どんな印象を持たれるのだろうか。ダサく思われたりしないだろうか。あれこれ考えて疑心暗鬼になった。


 隣にいるお姉ちゃんのスマホを見ても何とも思わない。だけど、VTRで紹介された子を見ていると、顔がカッと熱くなる瞬間があった。自分のスマホを堂々とカメラに向けている子ほど、目を逸らしたくなった。


 私はクリアケースを外して、中のステッカーを取った。


「ん? どうしたの」


 お姉ちゃんが不思議そうな顔で私を見る。


「んー、ちょっと。ってか、私からお風呂入って良い?」

「あー、うん」


 考えるのをやめたくて、後回しにしがちなお風呂に直行した。


 スマホケースにステッカーを入れるのが恐ろしくなった。こだわりが強い自分が苦しくなった。


 前のスマホで、一色のシリコンケースを使っていた時にはなかった悩みだ。毎日制服だとコーディネートに悩まなくて楽だけど、私服で良いと言われたら何着て良いかわからなくなる感覚に近い。


 結局、私はクリアケースに何もステッカーを入れずにスマホを使っている。いれない選択をしたら、モヤモヤとした気持ちもスッと消えた。これで良いという正解がないものは、突き詰めるほど自分を追い詰める。考えやすい人は、あえて悩まないために、むやみやたら首を突っ込まない方が良いかもしれない。そんなことを思いながら、シンプルなスマホケースを今日も眺め見る。

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