愚か者だった私
昔から、しっかりしている子だと褒められ続けて育った。
妹が生まれてからは世話焼き気質が前面に出て、よりしっかり者のイメージが強まったんじゃないかと思う。
私が十二歳の時に両親が亡くなって、さらにしっかりしなきゃって思い始めた。
妹はかわいいし、絶対に守りたかった。親がいないから不幸だなんて思わせたくなくて。
妹も妹で、自分にできることを精一杯がんばってくれた。本当に素直でいい子に育ってくれたよ。そこだけは胸を張って自慢できる。
おかげで両親が残してくれたパン屋は今でも人気店として続けられている。
だけど、気づいたら私は誰にも弱音を吐かない生き方をしていて「一人でも生きていける強い女」と思われるようになっていた。
実際、私は恋人の一人も作ったことがないまま大人になって、ストレスはパンを捏ねる時に発散するようなたくましい女だ。
(別にいい。妹さえ幸せになってくれたら、私の人生は大成功だわ! 私は一生独身でもパン屋と妹を守って生きていくんだから)
そう思っていた矢先だった。物好きはどこにでもいるようで、私は一人のイケメンな青年に愛の告白をされた。
「いつも元気でがんばり屋な姿が魅力的だと思って。どうか俺と付き合ってくれ!」
「え、は、え?」
「あれ、恋人がいる?」
「い、いや、いないけど……」
「やった! じゃあ付き合ってよ!」
人生初の告白にどうしたらいいのかわからず、戸惑っている間に私は気づけば頷いていたのだ。
その男が、恋人がいたことのない女と恋人になり、告白成功率百パーセントを目指しているだけ、という自尊心の塊なクズ男だとも気づかずに。
「はぁ……」
当時の苦い思い出を振り返っては嫌なため息が出る。
二十一歳だった当時の私は未熟者だったのだ。
あいつは本当にクズで、今でも会えば殴ってやりたいくらいむかつくけれど、私も私で初めての恋人という未知の世界に興味を持ってしまったのが愚かだった。
ちょっと顔が良いからって好青年だと勝手に勘違いした過去の私、最高に馬鹿すぎる。
「やっぱり顔の良い男はだめよ。変に自信家になって、勘違いするようになるんだから」
三年経った今でも、あの一件以来イケメンはトラウマだ。
「たとえ今後、そういう人ができたとしても。顔の良い人だけは二度と信用しないわ」
だんっ、だんっ、とパン生地を台に叩きつけながら、私は今日もおいしいパンを焼く。