セシリアサイド 護衛は美形の兄妹です
出掛けたらゲリラ豪雨にあった。
あまりにも見事な護身術にセシリアが目を丸くしていると
「そこ迄だ」
と、鋭い静止の声がした。
その声に、更に攻撃をしようとしていたアリスが苛立ちながら羽山を突き飛ばす。
「お兄様、コイツはセレナに暴力を振るったのよ。制裁は当然です」
人垣から現れた青年にアリスが文句を言ったが、青年は冷ややかに痛みに蹲っている羽山を見ながら首を振る。
「それ以上は過剰防衛になる。安心しろ、天野のおじ様に任せた方が悲惨な末路になる」
青年は警備員に羽山を任せ、セシリアの顔を見た。
「セレナ様、お怪我は?」
「ありませんわ。アリス様が守って下さったもの」
ふんわり微笑むセシリアを見て違和感を感じたのか、チラッとアリスに目をやった。
「後で説明する」
アリスはにやにやしながらセシリアを迎えの車に案内した。
「どう言う事だ?」
「まずは、セシリアさん。此方は私の兄の結城蓮です」
「まぁ、初めまして結城様。お顔はセレナ様の記憶にありますわ」
セシリアは優雅なカーテシーをする。
「セシリアさん?おい、説明しろ」
結城家のサロンは軽いパニック状態になっている様で、話が聞こえている使用人たちも静かに混乱していた。
アリスがセシリアの事を説明しようとした時、ピロン、とメールが届いた。
『明日から学園に通う。セシリアたんに無事シルヴァン卿と婚約したって伝えて』
アリスがメールを読み上げると、セシリアはホッとしながらも不思議そうに首を傾げた。
「入学まで半年ありましたのに?」
「そっちの説明も兼ねて、お兄様に状況を説明しますね」
完全に楽しんでいるアリスを蓮は呆れた顔で見ていた。
ローテーブルに乙女ゲームの設定資料集などを積み上げ、アリスは真面目な顔で説明を始めた。
「乙女ゲームはどんなに長くても1ルートにかかる時間は大体数時間から長くても数日なの」
「えっ、それでしたら、わたくしあっという間にお婆さんになってしまうの?」
アリスの理論にセシリアが驚きの声を上げたが、アリスは慌てて首を振った。
「ゲームに関する時間だけ制約が掛かっていると思うの。だって、セシリアさんこっちに来ても年取ってないでしょ」
強引な理論だが、多分その通りだと蓮は頷いた。
「じゃあ、セレナ様からのメールを待って動いた方がいいな」
「……。ゲームが終わればセレナ様の此方に戻れるのでしょうか?」
何故自分がセレナと入れ替わってしまったのか分からないセシリアの不安にアリスは優しい笑みを浮かべ、セシリアの手を取った。
「きっとセレナとセシリアさんの境遇が似てて、セレナがセシリアさんを救いたいって強く思ったからあっちに行けたと思うの」
アリスの言葉には何故だか説得力があった。
たった10分なのにびしょ濡れって……。