セレナサイド 波乱の入学式
ゲリラ豪雨にびっくり。
「セシリア様。兄が婚約の証に次の夜会のドレスを贈りたい、と申しておりましたが、ご都合の良い日を教えて頂けますか?」
「えっ!セシリア様とシルヴァン・ロードハイド侯爵令息様、婚約されましたの?」
リリアンとイザベルが驚いて、淑女らしからぬ声を上げた。
「はい。正式な婚約式は落ち着いてからですが」
頬を染め、微笑むセシリアの姿は喜びに溢れている。
当然彼女の声は周りのもの達にも聞こえる。
他の令嬢達は口々におめでとうございます、と言うが勝ち目が無い相手に令息達はガックリ肩を落とした。
「セシリア、本当か」
人垣をかき分ける様にマーカスが現れ、セシリアの腕を掴む。
「マーカス第一王子。お久しぶりでございます」
腕を掴まれ、セレナは思わず振り払おうとしてしまったが、瞬時にセシリアの仮面を被り、淑女らしくカーテシーをした。
「久しぶりも何も無い。お前が王宮の茶会に来ないから」
「行けませんわ、恐ろしくて。いつ池に突き落とされるか、階段から突き飛ばされるか怯えながらお茶会なんて」
悲しげに目を伏せるセシリアの姿に、心当たりのある令息達は目を逸らし、俯いた。
セレナの発言に、王宮の茶会に出た事がない下位の貴族の令嬢、令息達は息を呑みマーカスを見た。
第一王子であるマーカスのセシリアに対する暴力は、王族だからと言って見過ごす事など出来ない悪辣さ。
王宮の茶会に出ていたが、セシリアに対しての非道な行いを知らなかった令嬢達は皆、顔を青くし令息達は不敬と分かっていてもマーカスを睨み付けた。
「お前が悪いんだ。俺の側に侍らず他の奴らの所にばかり行くから」
セシリアの腕を掴む手に更に力を入れたのか、痛みにセレナの顔が歪む。
魂は18歳でも身体はまだ15歳の子供。
華奢な腕がぎしっと嫌な音がする。
「離して……」
痛みに小さく悲鳴を上げ、セレナはふっと意識を失い倒れた。
「セシリア様」
アリアンナが慌ててセレナを支え、周りは大騒ぎになった。
マーカスは投げ出す様にセシリアの腕を離したがアリアンナがキッ、と睨みセレナを支えながら側にいた人に教師を呼ぶ様声を掛け、イザベルやリリアンとマーカスからセレナを守った。
慌てて飛んできた教師がセレナを抱え上げ養護室に走り、セレナ達のいない入学式は騒がしさの中始まった。
雷の音に猫が逃げ出した。




