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7.地が固まりました

話の区切り上、少し短めです

 市街各所で、魔力が放出される激しい音がする。

 雨だからだろうか、煙は見えなかった。


 私は戦争というものを体験したことがないけれど、もしもこれがそうならば納得してしまいそうな迫力だ。

 目の前で、歴史の教科書を開いているような気分だった。


「作戦は順調です」


 ユストゥスが、アルノルト様に報告する。


 各所で始まった戦いはすぐに止み、ツェルンの騎士団が逃げるようじりじりと後退していく。


 先程の魔力弾では、到底魔物のすべてを退治することなどできないからだ。派手に魔力を使って、街を破壊するわけにもいかない。


 私たちは今、広場にいる。


 つい先日、魔法陣によって修理したばかりの噴水の影に隠れて、待機しているのだ。

 貸してもらったローブのおかげで私は濡れていないが、アルノルト様やユストゥスはもうずぶ濡れだった。


「来ました!」


 領民の避難を済ませた広場に、続々と魔物が集まってくる。


 すぐに、団員たちは一人ひとり防御の魔法を発動させた。


 もちろん、それだけで街が守れるわけではない。


 自分たちが()()()()()()()()そうしているのだ。


「そろそろ頃合いだな」


 アルノルト様が、集まりきった魔物を見てくすりと笑みを浮かべた。それから噴水の周りを囲うように描いた魔法陣が一気に起動する。


「水よ!」


 呪文というよりも、命令のような口調だった。


 強くなり始めた雨脚などものともしないほどの水が、頭上で巨大な蛇のようにうねる。それから地面へと勢いよく降りてきて、魔物たちを次々に飲み込んでいった。溺れるようにごぽごぽと叫ぶ姿は、野生の動物のようでもあった。


 やはりコントロールが難しいのか、険しい顔をしながら水蛇を操るアルノルト様。

 しかし団員たちは各々防御済みだ。何も心配することはない。


 すべての魔物が腹の中に収まったところで、巨大な蛇が瞬時に凍りつく。

 キン、と辺りに冷ややかな空気が通り抜けた。


 沈黙の後、歓声が響き渡る。


「やったー! やったぞ!!」


「どこにも被害が出ていない!」


 皆が口々に喜ぶが、ユストゥスがすぐに諫める。


「まだ戦いは終わっていない。この氷を粉々に砕くまで、我らの勝利はないぞ」


 団員たちはすぐに気を引き締め、防御魔法を解除して氷の破壊を始めた。



 ***



「結局、また濡らしてしまったな」


 昨日の戦いのことを思い出したのか、アルノルト様がぽつりとつぶやく。


「私は構いません。でも……ダニエラがやっぱり濡れても良い服を、と仕立屋に連絡していました」


 どんな服が出来上がるのか、楽しみですね。

 私はそう言って立ち上がると、すぐに右手を白手袋で覆った。


「これで完成です。どうですか? アルノルト様」


「上出来だ」


 アルノルト様が手を当てると、地面から次々と土人形が生えて動き始める。

 昨日の雨でぬかるんだ土が、ちょうど良い塩梅となっていたのだ。


 集まっていた騎士団員たちが、土人形と模擬戦を開始する。


「手加減がいらない訓練相手というのはいいですね」


 ユストゥスがふっと口元を緩め、そんなことを言う。


 これまでずっと手加減をされてきた側だからこその思いなのかもしれない。


「執務室に戻るぞ」


 立ち去ろうとするアルノルト様の傍に駆け寄って、私も隣を歩く。


「どうした、エリーゼ」


「私も必要かと思いまして」


「何を――」


「今後は、魔法陣を介した連携作戦が出てくるのではないですか? 事前に連携時の動きを決める必要があります。そうでしょう? ユストゥス」


「は、はい!」


 再び歩き出すアルノルト様と、隣をゆく私。そうして少し後ろから、ユストゥスが嬉しそうに駆けてくるのがわかった。


「良いのか? エリーゼ」


 少しして、アルノルト様がふっと立ち止まる。


「それはつまり君が……いや、なんでもない」


 複雑そうに言い淀み、すぐに再び顔を背けた彼の表情も、いずれはわかるようになるのだろうか。

 私たちはひとまず、揃って執務室に向かった。

次話は明日投稿します。

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