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3.ひさしぶり

 お茶会の翌々日、私はアルノルト様と一緒に王家主催の夜会に参加していた。


 ダニエラも、連日開かれる催しに大忙しのようだった。


 主に、私のドレス選びに難儀しているようで「ツェルンに戻ったらもっと仕立ててもらわなくちゃ」と騒いでいた。


 すっと、私は思わず背筋を伸ばす。


 さすがに一昨日のお茶会よりは独特の緊張感が漂っていたからだ。


 表立って避けられたりすることはないが、それでも遠回しに嫌味を言われたり、逆に利用しようとすり寄ってきているのが丸わかりな相手などもいて気疲れする。


「おお、これはこれは辺境伯殿」


 久しいな、とアルノルト様が挨拶をする。


 それに併せて私も軽く自己紹介をするが、もう何人目かもわからない相手の名前など、覚えられるはずもなかった。


「そういえば、また妖化してしまった者が出たらしいですぞ」


 こそこそと、男が口許に手を当てて伝えてくる。


 妖化とは、刻印が真っ黒に染まり、瘴気を撒き散らしながら錯乱したり凶暴化したりする現象だ。


 私が婚約する前にも、そういった話は聞いたことがある。


 強い負の感情と、強い魔力が反応して起こると言われているが、正しい予防策は未だに解明できていないらしい。


 一説によると、魔力を重視した政略結婚の繰り返しが原因とか。


 私は恐ろしくなって、ぶるりと身震いする。


「若くして強い魔力を持つ者が増えるに従い、この問題は大きくなり始めたと聞きますからな」


 そこでおっと、と口許を覆った男が私の白手袋をちらりと見遣ってすみませんと言葉を続ける。


「魔力の弱い婚約者殿には縁のない話でしたな」


 私がたじろいでいると、一歩前に出たアルノルト様がマントを翻す。


「貴殿が万が一妖化した折には私が直々に対処させていただくとしよう」


「ヒッ」


 笑顔のアルノルト様に驚き、すごすごと立ち去っていく小さな背中を、私はマントの影から見ていた。


「大丈夫か? エリーゼ」


「はい。いつものことですから。でも……」


 そこで私は回り込み、真正面からアルノルト様を見上げる。


「アルノルト様は、寂しくないのですか? やっかみばかりで……」


「関係ない。勤めを果たすのが俺の存在意義だからな」


 俺にはそれくらいしかない、と断言したアルノルト様が、そっと手を差し出してくる。


「それに今は、エリーゼがいる」


「あ、ありがとうございます」


 私はその手を取って、赤くなる頬をもう片方の手で押さえた。それでも、と私は心の中で異議を唱えた。


 お茶会では、魔方陣のことがすんなりと受け入れられたからだ。


 アルノルト様も、もっとみんなに認められてほしい。


 そう願ってしまうのは、私のわがままなのだろうか。


 そのとき、奥の扉が開いて、使用人が声を上げた。


「国王陛下、ご到着です!」


 周囲が一斉に静まりかえり、私も慌てて前を向く。


 悠然とやってきた陛下は、やはり悠然と参加者達を一瞥すると、ゆっくりと口を開いた。


「みな、常からの働き、大義である。こうして労いの場を設けたので、引き続きくつろぐとよい。しかして一つ、皆に知らせがある。我が国の新たな聖女のことである」


 おおっというどよめきに、私の肩も跳ねる。


 今日の夜会の真の目的は、この聖女に関する発表だったのだろう。


「前回の聖女擁立より十余年。時代は変わり、求められる救いの形も変わった。今こそ新しき救いの象徴を擁し、我らの進む道を示すときである。その新たな聖女となるべき者が選定の儀の最中である」


 ごくりと、隣にいるアルノルト様が息を呑んだのがわかる。


 周囲にも、ぴりっとした緊張が走った。


「シャルロッテ・アーベントロート、前へ」


 え、と私は思わず小さな声を上げる。


 皆の前に進み出て礼をとった少女と、そんな彼女の紹介を続ける陛下の言葉が、まるで耳に入らない。


「今、アーベントロート……と」


 アルノルト様の言葉に、私は驚きのまま頷く。


「私の、妹です」


 アルノルト様の仮面の下の表情は窺い知れないが、それ以上は何も言わなかった。


 私ほど魔力のない人間の妹が聖女候補、という違和感はあったのだろうけれど、それを口に出すような人ではない。


「国王陛下。このたびは誠に……」


 気付けば陛下のお言葉も終わって、夜会の参加者たちが、こぞって陛下に挨拶に行く。


 私たちは出遅れてしまったということもあり、一言二言しかお話することはできなかった。


 先ほど紹介されたばかりの妹、シャルロッテは陛下のお側で静かに佇んでいる。


 私の存在には気付いているだろうけれど、視線一つ交わらない。


 やはり、疎ましく感じているのだろうか。


 実家では、幼い頃から迷惑ばかりかけてきた。

 もちろん、私が大好きな”いたずら描き”のせいだ。


 大きくなるにつれ、お兄さまたちと同じくほとんど会話をすることもなくなってしまったが、私としてはまた昔のような関係に戻りたい、という気持ちもあった。


「聖女……候補」


 どこか遠い場所へと旅立っていくようで、一抹の寂しさすら覚える。


 今後はこれまで以上に、簡単な会話すらできなくなってしまうのだろう。


次話は数日以内に更新予定です。

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