表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/19

11.エピローグ

「わぁ、素敵な仕上がりですね!」


 あ、こちらもお似合いですよ、なんて言いながら、はしゃぐダニエラが次々と新しいドレスを手に取る。


 私は自室内だというのに、どこか居心地の悪いような気分で「そうね」と愛想笑いを浮かべていた。


 やっぱり、どうしても流行り物には疎くなってしまう。


 やけに開けた背中はすーすーとして落ち着かないし、シルエットが浮き彫りになるような形も苦手だ。


 でも自信がないなりに着てみると、ダニエラや採寸と仕立てをしてくれた店主が両手を上げて喜んでくれるのだ。


「早くアルノルト様にも見ていただきたいですね」


 宝石はやっぱりルビーが良いだの、フリルは二重が良いだのとああだこうだ意見し合っていたダニエラと店主は、この仕上がりに大満足のようだ。


「気に入ってくれるかしら」


 私の不慣れな表情に、二人は何をおっしゃると顔を寄せてくる。


「どこからどう見ても、立派なご令嬢、ご婚約者様でいらっしゃいますよ!」


「そうだと良いのだけど」


「もっと自分を信じてください、エリーゼ様。せっかく元が良いのにもったいないです」


「……はぁ」


 私は他人の容姿にも興味がない上、自分にも頓着しない性格だった。だから尚更、社交界から遠ざけられていたのだろう。


 こんなに着飾られたのは初めてで、不思議なドキドキ感に包まれている。


 ――コンコン。


 そのとき、不意に部屋のドアがノックされた。


「あー……俺だが」


「アルノルト様!?」


「準備は終わったのか?」


「え、ええ」


 私は戸惑いながらも返事をする。


 同じ空間にいるのに、店主やダニエラは特に反応せず、にこやかに私を送り出すだけだ。


 開かれたドアから、そっと外に出ると、アルノルト様が私を頭から爪先まで眺めて、よく似合っていると頷いた。


「本当ですか? 自分ではよくわからないのですが……」


「ダニエラにまかせて本当に良かった。あの店主も、君に合う色や宝飾をよくわかっている」


 はぁ、と私は先程ダニエラたちにそうしたみたいに気のない返事をしてしまった。


 褒められるのは嬉しいけれど、やはりどこか自分のことではないような気がしてならないのだ。


 その時、ふいに被っていたローブを脱いだアルノルト様。


 最近はときどき、素顔を私の前で見せてくれることが増えてきたように思う。


 きらめく繊細な模様に誘われた自らの指が、ふっとアルノルト様に捕まってしまった。それからぐいっと引き寄せられ、額にキスをされる。


 こんなことは、最近では日常茶飯事だ。


 あのダンスでの告白以降、ときには人目も憚らずこんな調子だから私はいつも戸惑ってしまう。


 何に、と言われれば、それが嫌でない自分に対して、だ。


 この城に来る前の私であれば、自分のテリトリーが侵された瞬間に顔をしかめていただろう。


 ただこの瞬間、私はもう一歩、彼に近づきたくなっている。


 そのことすらも、いつまで自分の心に留めて置けるかどうかわからない。


「今日はどこに魔法陣を描くんだ?」


「え? ええっと、そうですね。どこにしましょうか」


 最近では、特に城内を便利に魔法陣を描き進めている。


 この城は広くて清潔だが、なによりも古く、少しだけ使い勝手が悪いからだ。


 ただ、一つだけ懸念点があった。


「どうかしたのか? エリーゼ」


「いえ。また、らくがきだらけになってしまうんじゃないかと心配で……」


 私は以前暮らしていた王都近郊の邸宅も、魔法陣でいっぱいにしてしまった。ほとんど発動はしていなかったから、見つかったらすぐに消されてしまうのだが、それでもめげずに描き続けた。


 癖、というよりは執念だ。


 私は、魔法陣に取り憑かれていたといっても過言ではない。


「らくがきだなんて、とんでもない!」


 その時、背後から私たちを見守っていたであろうダニエラが突然割って入る。


「使用人一同、両手を上げて喜んでおります。特に先日起動していただいた風通しが良くなる魔法陣なんかは、大変便利だと評判です。地下室なんかはこれまで、カビだらけでしたからね」


「ワインの貯蔵庫を増やそうという案もあるぞ」


 すかさず、アルノルト様も続ける。


「そういえば昨日も、キッチンに加熱の魔法陣を描いてくださいましたね。たしか……こんこんと水を湧かせる魔法陣も……!」


「料理長が泣いて感謝していたぞ」


「そう、ですか」


 私はひとまず、迷惑でないのならと新しい魔法陣について思いを馳せた。


 描くのは好きだ。それによって皆が笑顔になるのならば、こんなに嬉しいことはない。


「本当にエリーゼが来てからは良いことばかりだ」


「感謝したいのは私の方です」


 こんな私を受け入れてくださって、と言い出そうとした私の口を、アルノルト様の人差し指が遮った。


「俺の台詞を盗るんじゃない」


「え?」


「呪いと恐れられていた暴走するだけの力が、みんなに受け入れられつつあるのはエリーゼのおかげだぞ。わかっているのか」


 そう言われ、また抱き寄せられてキスを落とされる。


「うう……」


 私はいよいよ次の言葉が出てこなくなり、熱い頬を抑えながらうつむくことしかできなくなってしまった。


 まだまだ、これ以上先に進むには時間がかかりそうだ。

これにて第一部完結となります。

第二部は少し書き貯めてから投稿する予定なので、数日後になります。

以降は不定期更新になりそうですが、あまり間が開かないように頑張ります。


ブクマ、評価を頂けると大変嬉しく励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ