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1 お嬢様は飽きっぽい

「……でね、先週は体育会系のサークルを体験してみたから今週は文化系にしてみようかなって思ってるの。それにしても連休を全部使っても体育会系の半分も回れなくて驚いちゃった。やっぱり学生が全部で1000人も居ない単科大学とは比べ物にならないわね」


 学生食堂でうどんをすすっている僕の向かい側で話し続けている女の子は羽賀(はが)遊子(ゆうこ)さんといって、この関可取(かんかどり)大学に今年入学した同級生だ。近隣の単科医科大学を2年足らずで自主退学した後に入学しているから学年は同じでも年齢は僕より2年先輩になる。


「体育会系も相当だけど文化系になると本当に途方もない数のサークルがあるのね。囲碁とか将棋とかメジャーなのはもちろん、名前だけでは何をやっているのか分からない所も沢山あるわ。でも、そういうサークルこそむしろ見学してみたくなるのよね」


 現役で入った医学部を自主退学して総合大学の文系学部に入学してくる時点でまともな人ではないのだが、相手の反応を見ずに一方的に話すといういわゆるコミュ障だからか女優さんもさながらの美人なのに友達らしい友達がいない。大変飽きっぽい性格でもあり、入学から5月のゴールデンウィーク明けまでに3人の男子学生とお付き合いしてその全員とお友達に戻って今に至るという。



「海江田君はどう? そろそろ入るサークルは決めた?」

「えっ、ああ、僕もまだ決められてないんです」


 急に言葉が飛んできたので僕は慌ててうどんを飲み込んでから答えた。ちなみに羽賀さんは怖ろしいまでに早食いの人なので5分以上前に日替わり定食を食べ終えている。


「それなら今週は私と一緒に文化系を見学して回らない? 放課後はもちろん共通の空きコマがあればその時間も使えるわ」

「僕とでいいんですか? 鳩村君とか、菅山君じゃなくて?」

「聞いてはみたんだけど二人とももう体育会系のサークルに所属してて、バイトもあるから文化系にまで入ってる余裕はないみたいなの。同じ学部なのに最近はあまり見かけることもなくて」


 羽賀さんとお友達に戻った男子学生の名前を挙げてみると案の定な答えが返ってきた。彼女はまだ気付いていないようだが、1学年が5000人以上いる大学でも1か月そこらで彼氏を3人変えれば噂にもなる。


「それなら僕も一緒に行きます。同じサークルに入れたら楽しそうですね」

「ええ。この大学にも卒業まで残るか分からないけどサークル生活を楽しんで損することはないわ。一緒に入れるサークルがあればいいわね」


 にっこりと微笑む羽賀さんはやはり可愛くて、今の状況をありがたく感じつつも僕は例によってあまり本気にならないよう自分を戒めた。彼女は来年の今頃には別の大学にいるかも知れないし、数少ない友達という今の立場を失いたくはない。



「じゃあ早速だけど今日の放課後に第4講堂前で待ち合わせしない? 見学するサークルはそれまでに選んでおくわ」

「はい、お願いします」


 それから羽賀さんは立ち上がってぺこりと頭を下げるとトレーを返却口に返しに行った。椅子を戻してカバンも肘に掛けていったからそのまま講堂にでも戻るのだろう。


 羽賀さんと一緒に学内を歩きたい気持ちはあるが、あまり目立つと4人目の男だとみなされかねないのでこれはこれで助かるような気がした。

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