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第一歩

 森は火に包まれ、上は闇夜。前には土色の操り人形。

 石人形(ゴーレム)は次の瞬間、『勇者』によって切り刻まれる。

 何度部位ごとに破壊しようとくっつくことで再生する不死の人形もここまで粉々にされれば再生することはできない。

「テンム。ナイスッ」

 大きな魔導帽を被り、木の根のように巡る杖を持った金髪の女――アルバは軽やかにジャンプをしながら、『勇者』テンムにハイタッチを求める。

「流石うちの『勇者』だね」

 3人でハイタッチしているところに手の甲で応じる銀髪の一見ひ弱な青年――カソウ。彼は杖と剣が一体となった仕込み杖を片手にしていた。

「お前らこそ。援護のおかげだよ!」

 黒髪短髪、小物のような見た目をしながらその髪の流れのよう勢いよく手を突き出している男は――アルバ、カソウから呼ばれるている――『勇者』テンムだ。

 これはこの3人が伝説を倒しに行く話だ。

――

 ベッドが地面のように冷たい……って、地面だ。

「大丈夫かしら? テンム。目を覚ましたようだけど」

 隣には看病してくれていたのか、アルバが居た。

 頬杖をつきはるか遠くを見ているようだった。

「お、おう……っ。大丈夫」

 俺は身体を動かそうとすると激痛が走った。

 やくそうが染みる痛みは延々と慣れない……。

「ほーら、痛いんじゃないの。全く。「防護幕ガードシート」がなかったら全身aaaaaaaaaaa自らが起こしたかまいたちに切り刻まれて塵になっててもおかしくなかったんだから」

 カソウがすぐ来るわ。治して貰いましょ。

 と、彼女は静かに言った。

「やぁやぁ。長老と話ていたら遅くなってしまったよ」

 ゆるりとカソウは現れ、俺とアルバの2人を見てから、すぐに俺の元に手を出した。

「「治光(ヒール)」」

 カソウの右手から白い光が出て、俺の傷ついた部分へと入り込む。

 その光は暖かかった。

 ザ、ザ、ザ

 と、多くの足音がする――その正体は俺達がゴーレムから守り抜いた村の民だった。

「旅の御三方。お話いいかな」

 その村人の中から一人、杖をつき、小さななりをした老人が出てきた。

「彼はこの村の長だ。無礼のないように。特にアルバ」

 カソウは俺らに聞こえるように小声で言う。

「うっさいわよ。私だってちゃんと出来るわよ」

 アルバは不満げに、でも大きな声も出さず大人しくしていてくれている。

「――この度は村を救って頂き誠にありがとう。お主らを信用せず村から一度追い出してしまったのは本当に済まなかった。よければ許して欲しい」

 老人はちゃんお頭を下げた。

 そう、俺らは助けた村に一度追い出されているのだ。

 ただそんなことは正直どうでもよかったのだ。

「『勇者』がこうなので仕方の無いことと言えばそうですよ」

 カソウは俺をイジりながら話を和らげているようだ。

「ところで、ここの近くで『魔王』が出現した可能性があります。誰か心当たりがある方は居ないですか?」

 俺の称号『勇者』は『魔王』クラスの敵の討伐に派遣される。

 今回は砂漠の方で出現したようなのだが生憎砂漠はとても広く、砂嵐も強くて捜索は上手くいかなかった。

 そこで流れ着いたここ、オアシスのコロロキ村では追い出される始末だったのだが、結果オーライとも言えようか、結局こうやって村の人々と和解できた。

 これで情報収集が行える。

 ゴーレムが動いていたということは魔王の城は思いの外近いようだ。

 すると、若者――リ太郎は手を挙げた。

「はい。この前、私はお告げを受けて、砂漠の城、にて竜の王は復活した、と」

 新人の占い師なので信用するかは正直悩むところだが、

「ほう。詳しく聞こ――」

 カソウが言おうとしたときに、

「アヒャアヒャッ……ブッ……フッ!」

 リ太郎は笑い始めた。急に。

「何がおかしかったんだい?」

「いや、そこの『勇者』の女の格好が少し面白くて……ハハッ」

「まぁ彼女は少し変わったところはあるが、彼女の地元の文化なんだ。笑うのは失礼じゃないかい?」

 カソウは怒り――を笑いの面でできるだけ抑えていたが、少しぎこちない笑いなので……そろそろ限界だろうな。

「いやー、ブッ、ごめんなさい。まぁ別に、そんな気にすることじゃないと思ってました。ごめんなさい」

「わかった。とりあえず、質問に答えて貰えるかい?」

 目がぎらついてるよ、カソウ。

 もう、誰も彼を止めることは出来ずその後若者は他人を見た目で判断するのを辞めたそうだ。

――

 村で必要な情報収集をした俺らは村をすぐに出て、『魔王』の城に向って砂漠の道を進む。

「この道を真っ直ぐだそうだ」

 指を指す方向は完全に砂嵐の中だ。

「ふぅん。砂の城ねぇ……。私は聞いたことないわ。――うぉっとっと! 危ない道通るんじゃないわよ!」

 帽子を深く被って前をよく見えてないアルバは、俺の服の裾を掴んで着いてくる。

 いつもは気の強い癖に、こういう時になって女の子らしくなられると少し調子崩される。

「ちなみにその城の名前聞いたことないのは俺もだ。本当に信用していいのか?」

「それしか情報が無いんだ。進むしかないだろう?」

 最早ヤケになってる感じすら伺えたが、一行は道を間違えないよう暑さを凌ぎ、夜の寒さを凌いでやがて――断崖絶壁へとやってきたのだった。

――

 カソウはその断崖絶壁を見て、顔を青白くしてしまった。その口がひらいたと思ったら声にならない音を発し、驚きが隠せていなかった。

「――ねぇ、2人共。この地図の行きつく先は砂嵐にの中にある城なだけじゃない。もっと禍々しいものだよ、ここは」

「「は?」」

 カソウは断崖絶壁の下を指さし、

「絶溝の城――別名、竜の住処だ」

――

 絶壁のへりにて。

「僕は一度絶溝の城に1度行ったことがあるから少し待っててくれ。あの城と繋がる魔法陣を書くから」

 そう言うと、手を震わせながらカソウが書き始める。

 暇なので一服がてら、アルバと俺はそこら辺にある石に座って待つことにした。

「テンム、そういえばあの剣は使えるの? この前貰った勇者の剣は」

 彼女はコップに水魔法を唱え水を出し、炎魔法で温めながらティーバッグを使って紅茶の準備をしていた。

 魔法使いはこういう事が便利だとつくづく思う。

「勇者の剣は――俺には引き抜けなかった」

 俺は腰についた立派な装飾のついた剣を眺める。

「そうなのね……残念だわ。真の勇者しかその剣は抜けないのよね」

 彼女は当たり前のようなことを聞いてきた。

 それはそうだ。なぜなら勇者の剣は勇者が扱うための剣として作られ、その他が使ってもナマクラ以下の力しか出せないようなのだ。

「――ただ、真の勇者は失踪してしまっただろう? 30年も前に。伝説だなんだと言ってる奴は多いが、事実であると俺は信じてる」

 そう、この世にはその昔、勇者は1人だった。

 その勇者が魔王を倒すことで支配から逃れる――はずだったのだ。

「私も信じてるわ。真の勇者はいるって。だって私のお母さんは助けられたと言っていたもん。居ないかもしれないけど、居ると思うもん……」

 ……彼女はくるくると、熱い紅茶を冷ましていた。

 彼女の母は勇者に命を救われだが、もう一度来ると言った勇者を待って村で一人、未だに生活しているそうだ。

 その場所は危なく、今命が危ういと言われてもそうかもしれないと思ってしまうような場所にあるのだった。

 彼女の母にとって勇者は命の恩人であり、母を縛り付ける存在。悩むのも仕方の無いことだと思う。

「君達、出来たよ」

「早いな。乗り込むのはあす――」

 食いかかるようにカソウは言う。

「いや、テンム。ダメだ。そろそろ日が落ちる頃だ。腹ごしらえをしたらすぐにでも行こう」

 青白い顔のカソウは必死そうに言う。

「何が貴方をそこまで焦らせているのかしら」

 アルバが俺が望む質問をしてくれた。

「今はこの程度の力だからいいが、は竜が世界に降りてみろ! 世界の全てが支配されるぞ!」

 カソウが声を荒らして言う――それほどの何かがあるのだ。

「作戦はあるか?」

 俺はカソウと肩を組み、少し抑えて冷静になってもらう。近くに行ってわかったが、過呼吸になりかけていたようだ。難しい奴だ。

「あぁ。とりあえず、腹ごしらえをしながら話そう」

 お腹が空く程度の余裕は出来たようだった。

――

「到ちゃ〜っく!」

 アルバは魔法陣から転送されてから、ジャンプをしてその喜びの大きさを教えてくれた。

「遠足じゃないんだからな。気をつけるんだぞ?」

「はいはーい」

 俺の忠告は聞いちゃいないようだ。

 けっ。

「カソウ。どこへ行けばいい?」

 俺はカソウの方を見て言う。

「カーペットを真っ直ぐ、ずっと真っ直ぐだ」

 何を参考にした訳でもなく、カソウは指さす。

 そういえば一度来たと言っていたから、全て任せればよい――。

「お主ら、侵入してきたのか」

 フシュー、と大きな気体が出る音がする。

 その音の方向を見るとそこには体長10メートル程の巨体に大きな二角。牙はその角の数倍鋭く、翼は鋼鉄のような黒さをもっている。

「竜のお出ましだね」

 冷静さを取り戻したカソウはいつになく白い大きな魔導帽を深く被った。

 一方、

「これが竜ね。倒しがいがありそう」

 アルバは強気で居た。

 その2人を差し置いて俺が縮こまる理由なんてあるか?――あるはずが無かった。

「俺は『勇者』テンムだ!」

――

「お前が誰であろうと我が城に入ったのならば鼠の骨1本すらも残さん! 「獄炎業火(ヘルブレイズ)」」

 黒炎が放たれた瞬間、アルバとカソウは杖を空高く掲げ、

「「防護水膜(ウォーターシート)」!」

 アルバは水で炎の相殺をできる盾を。

「「防護壁(ウォール)」」

 カソウは大きな壁を作り、2人の技はその黒炎をはねのけた。

「少しはやるようだな」

「「神速の剣」!」

 不意打ち。

 俺は竜の首元へと――神の速度で――飛び込む。

 ザシュッ、と鈍い血の音が響く。

 手応えはあったが、違和感がある。

「我が肉体を傷つけたのは褒めてやろう。ただ、そんなものじゃ倒せぬぞ!」

 次の瞬間、竜の影は動き、そのしなる尾を使って急襲した。

「キャァァ!」

「ッ!!」

 アルバとカソウを狙って。

 すぐに聞こえる激しい音――二人は壁にふっ飛ばされた。

「くっそ……」

 うまく足が動かない。

 恐怖――竜のその強さと威圧感に圧倒される。

「ハハハ。仲間の心配をしてよそ見をするとは『勇者』も堕ちたな。仲間がやられてもすくむことなく、その圧倒的な力を振るったものだったのにな。30年前の勇者は」

 二人なら大丈夫なはずだ――特にカソウは回復魔法も心得ている以上生きてさえいれば大丈夫だろうが――

「ッ!」

 また、そのしなる竜の尾を今度は俺にぶつけてくる。

 かろうじて剣で受けたが、それもつかの間。次の瞬間、ふっ飛ばされていた。

 壁に打ち付けられる――痛ってぇ。

 ――でも。

「「神速の剣」」

 めり込んだ状態から壁を蹴り、朦朧とした意識の中、腹のあたりを狙う。

 上からの力――!?

 俺は竜に突っ込んでいったはずなのに、地面に打ち付けられていた。

 もう見切られていたようだった。

 もうボロボロで痛みの限界はとうに迎えていた。

「まだだ……」

 剣を杖のようにし、立とうとするがすぐに足元から崩れてしまう。

「『勇者』、お前は不死身か。なら骨の髄まで燃やすのみ。」

 竜はその口を大きく開け始めた。

――

「待て。僕の仲間をこれ以上傷つけるな」

 誰の声か判別する気力もないが、誰かが立ち上がったようだった。

「誰だ」

 竜は攻撃の構えをやめ、その言葉に反応する。

「テンム、遅くなってすまない。助けに来た」

 俺は暖かなエネルギーを感じる。

 それはいつものあいつの技――「治光ヒール」のようだ。

 霞む目で捉えた銀髪は、カソウだと断定するに事足りていた。

――

「テンム、君はこんな大きさの差もあり、力の差もある相手によく立ち上がってくれた。君のそういう力はどこから出てくるんだろうか。僕にはない力だよ、ほんと」

 男はテンムの腰に携えてある立派な装飾のついた剣――勇者の剣を軽々と引き抜き、構える。

「その構え、その髪。お前……まさか。勇しy――!」

「黙れ」

 その言葉は竜の身とともに切り伏せられた。

 あとに残るは龍の形相をした男。

「カソウ……。おい」

「テンムは無理をして喋るな。傷にさわるぞ」

「……」

 竜が倒れたときに舞った砂埃は未だ舞い続けていて、視界が良い状況とは言えなかった。

 ――だから気づかなかったのだ。

「「獄炎業火ヘルブレイズ」!」

 地獄の業火が2人を襲う。

 勇者の剣と鉄鋼剣はきらめき、光の如き速度で。

「「「天下無双ダブル・バスタード」!!」」

 炎を切り裂き、そのままの速度で竜の首を刎ねた。

――

「おーいアルバ。起きろー」

 崩れきった瓦礫の中、「治光ヒール」によってアルバの身体はキレイに傷が治っていて、一輪の花のようだった。

「ん……。生きてるの? 私」

 目を見開いて驚く彼女。

 俺は笑う。

「ハイタッチするか?」

「ううん、まだなんでしょ。冒険は」

 彼女は今起きたはずなのによくわかっていた。

「宝物庫らしきゲートが開いたんだが、行くだろ?」

「そりゃ勿論。行くわよ」

 俺はアルバとともにその扉へと向かう。

「待ちくたびれたよ。テンム、アルバ。準備はいいかい?」

 足を組み、頬杖をつきながらカソウは言う。

 俺は、

「おう」

 と答え、アルバは、

「えぇ」

 と答える。

 三人で手を伸ばし、次の一歩はどんな場所かなんては、本人たちも知るよしはない。

 

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