3 アリシアはとても驚いた
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──北歴三五〇年一二月上旬・魔王直轄領パル アリシア=ラ・セルダ邸
昼食をいつものように、アリシアと二人で食べる。
なんだか、ずっと以前から、こうしていたのが当たり前だったかのような錯覚に陥る。
この感覚は、アリシアの魔法の効果だったりするのだろうか。
俺がレジストできていないだけなのだろうか。
なので、試してみた。
【力】を発動し、デバフ系の呪文を打ち払うイメージをする。
結果、頭の中で出てきた文字があった。
それを【詠んだ】。
「全魔法無力化」
ふむ。
全然さきほどと変わらない。
となると、この感覚はアリシアの魔法ではなかったわけだ。
ほっとしていると。
「なっ、なっ、なっ、なんですの?!」
アリシアが素っ頓狂な声を出して、俺に詰め寄った。
「サトルさま! 今、何か強大な魔法をお使いになりましたね? あれはなんなんですの?!」
「何かって、全魔法無力化だね。アリシア、キミがよからぬ魔法で俺に何か精神操作をしているかもしれないと思って、使ってみたんだ。まあ、結果、空振りに終わった。今の俺の【幸福感は魔法ではなかった】。ほっとしたよ」
そう言うや刹那、アリシア及び後ろに仕えていたユイ、アリスがものすごい目で俺をにらむ。
俺はその勢いにタジタジになってしまう。
「なんか悪いこと、したかな?」
「「……」」
ただただ無言で三人がうなずいたので、俺の方がドン引きした。
………………。
…………。
……。
「何からツッコめばいいのか、わかりませんわ」
俺はなぜか、皆の前で正座を強いられていた。
抗議したのだが、私たちをびっくりさせた罰です、とアリシアが主張し、それをメイド二人組も首肯していたので、しょうことなしに受け入れていたのだ。
「つまりあれですの? サトルさまは魔法使い系に特化した勇者の能力をお持ちであらせられると、そういうことですの?」
「まあ、伝承によれば魔法特化、肉体言語系特化、神々の祝福系特化、軍師スキル特化の四パターンが確認されているのだから、今所有している俺の能力はその中で分類するなら、魔法特化なのだろうね」
そう俺は肯定した。
びっくりを通り越し、幾分顔色が悪いアリシアはため息をついて、こう言う。
「覚醒していたのならば、そう仰ってくださいまし。いきなりあなたさまの能力が判明したものですから、そのお力を見せられたものですから本当に寿命が三分は縮みましたわ……」
「申し訳ないです」
「全魔法無力化だなんてそんなものがあることさえ、あたくし存じ上げませんでしたわ。それは第七位高位魔法よりも少なくとも一段階は上と言うことですわ。なぜといって、第七位級までの魔法の中には、その全魔法無力化なんてものはないからです。第七位高位魔法【グレイト・テンプテーション】をレジストできるのも道理ですわね。高位の魔術師であれば少なくとも同位のレベル以下の魔法はレジストできる。本当にすさまじいお方……本当に、底が知れない方ですわ、サトルさまったら」
アリシアはどうやらすねてしまったようだ。
しょうがないので、正座ついでに頭を下げる動作も追加した。
いわゆる土下座である。
「おやめになってくださいまし。おやめになってくださいまし」
必死で止められた。
さらに、後で怒られた。
解せぬ。
◆ ◆ ◆
夜になって、夕食を食べ終わった頃合いに、ハチワレは帰ってきた。
一人のメイド服の女子、とともに。
「そうなのですね、こちらがハチワレさまのお連れした、今日からこちらに同居したいという方ですのね」
「はいであります、よろしくお願いいたします」
ぺこりと、その猫ちゃんはお辞儀をした。
毛並みは三毛である。白、黒、茶の三色のコントラストが愛らしい。
うっとりとしてその生き物を見つめていると、その生き物が俺の視線に気づき慌ててカーテシーをした。
「お初にお目にかかります。私の名前はフィリシア=シャ・ディオと申します。勇者さまにおかれましてはごきげん麗しくであります。本日よりあなた様のご学友として頑張らせていただく所存であります。何卒よろしくお願いいたします」
やたらと堅い口調の人が来た……。
ちょっとがっかりしていると──ハチワレが目ざとくそれに気づく。
「サトル殿、いかがなされた。我が孫娘に何か至らぬ点でもございましたか?」
「いえ、口調がもっとこう、元気いっぱい妹っぽいキャラだったらなおよかったのになぁと、夢を、見ただけです。お気になさらず……」
その発言にフィリシアとハチワレは怪訝な表情を浮かべる。
意味がわかってないらしい。
なので、俺も説明を諦めた。
(今日から一緒に住むフィリシアだよ、よろしくねお兄ちゃん♪ なんて言われたかったとかは、さすがに、言えないな……)
そう思い、さらに肩を落とす俺だった。
アリシアとハチワレとの間で、今日の俺についての情報の共有が行われた。
俺が魔法特化の勇者であることがわかったハチワレは、興味深そうに俺を見つめた。
「なるほどなるほど、これは重畳ですな。サトル殿の適性は魔法剣士ですな。いやはや、まことに結構」
そう言ってガンガン俺の肩を叩いてくるハチワレ。
「魔法剣士サトル殿であらせられますね。なんともかっこいい響きでありますな」
フィリシアもうっとりと俺を見つめてくる。崇拝の匂いも感じる。
どことは言わないが、血のつながりを、感じる。ピクッと頬が引きつる俺だった。
その夜は二人の家族が増えたことの歓迎パーティーが行われた。
楽しかった。
なお。フィリシアだが、何がどう話が転んだのか、俺のことを兄上と呼称することにしたらしい。
あの、だから、ね、お兄ちゃんの方が、俺は……。
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