13 一行は塔の攻略に入ってみた 下
(承前)
塔攻略二日目。
「今日から四階からの探索になる。敵の種類が変わるかも知れない。皆、用心していこう」
「「了解」」
俺のかけ声とともに、今日も塔探索が始まった。
「そうだ。昨日俺とアリシアと二人で相談したんだが、実体のないアンデッドがどうやらこの世界には存在しているらしい。レイスとかゴーストとか言うのがそれに該当する。それには普通の武器では一切効き目がない。実体がないからな。よって、倒せるのは俺か、アリシアの魔法攻撃になる。大量のレイスだかがでたら少しばかり大変だが、まあ任せてくれ」
そう俺が言うと、少し皆不安そうな顔つきになる。
「あの……」
「ん? なんだヴァレリー」
「お屋形さまよ、なにかこう、実体のないモンスターであっても、魔法は効くと言うことならば、武器にも魔法をかけて、その魔法の性質を真似ることができれば対処が可能なのではないですかね」
「……ふむ? そんな魔法はあるのかい? アリシア」
俺は寡聞にして聞いたことがなかったので、アリシアに問いかける。困ったときのアリシアである。
「ええ、大昔、いにしえの神話の時代になら、武器に魔法効果を付与できるものがいたとの古文書も残されていますわね。
ですが、今となっては失伝の技術なのです……」とアリシアが申し訳なさそうに言う。
あらまあ、万能超人のアリシアであっても、今回は役に立てなかった感じである。
……。
そうかぁ、そんな技術があったのか。
俺は心の中の【力】になんとはなしに問いかけてみる。
すると――。
あった。武器にいろいろと魔法の効果を伝えることができる魔法、というかスキルが俺の中に内蔵されていた。
「あはは。俺、どうやらその失われた魔法、使えるわ……」
「「!!!!」」
皆がびっくりする。
言葉もないらしい。
皆を代表して、という感じでアリシアが俺に言う。
「貴方さまほどの型破りの方を、あたくし存じ上げませんわ」
皆がこくこくと頷いたので、少し傷ついた。
「とりあえず、霊体にも攻撃可能な属性をつけてみるね」
そう言って、俺は、
アリスの棍に
フィリシアのロングソードに
ハチワレのロングソードに
ヴァレリーのハンマーに
そして、自らのロングソードに
それぞれ、順繰りに霊体攻撃の属性を付与する魔法をかけていく。
「霊体攻撃属性付与」
ついでに、アンデッドだから光属性の攻撃にも弱いだろうと思い、それらも重ねがけする。
「光属性付与」
おまけに、アンデッドだから炎にも弱いだろうと思い、それらも重ねがけする。
「炎属性付与」
「三つの効果を付与してみた。霊体攻撃属性、光属性、そして炎属性――これらの付与だ。あとは実戦でどれだけ続くか試してみる必要があるな、とりあえず、試しに行こうぜ。さあさあ、行こうぜ♪」
「「りょ、了解」」
こうして、俺はあらたなスキルを獲得(?)してほくほく笑顔になるのだった。
皆はなぜか顔が引きつっていた。
解せぬ。
◇ ◇ ◇
やがて、斥候のユイがモンスターを引き連れて戻ってきた。彼女がこうして、モンスターを拾ってきて俺たちの方まで誘導してもらうという戦闘方式が一番しっくりくると、昨日の経験で学んでいたのだ。
「旦那さま、ガイコツ騎士と新種のモンスター、おそらくレイスと思われるものを連れてきました。戦闘準備を!」
俺たちが迎撃態勢に移り終わった頃合いに。
ほどよく、ユイを標的としたモンスターの群れがぞろぞろと湧いて出てきた。
ガイコツ騎士三体にレイスとかいう人魂のようなふわふわした生物が九体ほど俺たちの前に現れる。
ユイを俺は後ろ側にかばうようにして敵と対峙した。
瞬く間にガイコツ騎士三体が、ヴァレリーのハンマーに、ハチワレとフィリシアのロングソードに、それぞろ打ち砕かれた。
一撃で、である。
それには俺たちはびっくりした。攻撃力が三、四倍増してないか? ものすごいダメージが敵に通ったことはわかる。
残りはレイス九体である。青色の人魂? っぽいレイスに果たして物理攻撃は通るのだろうか。
満を持して、というかなんというか。
アリスが思いっきり「えーいっ」とかけ声をかけてレイスに殴りかかった。
アリスの棍がレイスを叩くと――レイスは思いっきり地面にたたきつけられた。どうやら、物理攻撃が実体のないアンデッドにも通ったようだ。
そして、あっという間に「蒸発」してしまった。
「ふむ、消えたな」
俺が言うと、
アリシアもうなずいて、「光属性付与の効果も大きかったようですわ。「鎮魂」をかけるでもなくあの存在が消滅してしまいましたもの」
「……なるほど」
そんなことを言っている間にも。
哀れレイス残り八体も、ヴァレリー、ハチワレ、フィリシア、おまけにアリスの連撃によって雲散霧消してしまうのだった。
一撃で滅ぼされる彼らにいささか同情の念を禁じ得なかった。
◇ ◇ ◇
俺の付与能力が加わったことにより、一気に塔の攻略速度が加速した。
俺たちは二日目にして九階までを攻略してしまった。
そして、十階の攻略に、移る。
十階を上ると、俺たちを拒むように鈍色の門が佇立していた。
「どうやら、最上階かも知れないな、ここが。敵の親玉が、いるものと思われる。皆、疲労はないか?」
俺の問いに皆、大丈夫だとの意思表示をした。
「うん、じゃ、行こうか。アリシア、バフを皆にかけてやってくれ。俺も魔力方向での付与を行うよ」
「承知いたしましたわ」
そうして、皆にバフ、エンチャントがかけおわり、皆の意思も戦闘へと、おそらく最後の戦いへと集中している。
皆を見回す。いい表情だ。
俺は、門を開けた。
◇ ◇ ◇
門を開けると、そこには。
法衣を着たアンデッドがいた。でかい。二メートルはあるな。
周囲を見回した。
赤い文字で書かれた魔方陣が、一個あった。
あの巨大な魔方陣から、どうやらアンデッド共が量産されててきたものと思われる。
なぜわかるというと。
今この瞬間、魔方陣からガイコツ騎士とガイコツコウモリ、それにレイスの三種類がそれぞれ三、四体ほど、計十体以上ものアンデッドが召喚されてきたからである。
どこから召喚されたのだろうね、本当に。
謎だった。
勇者召喚の儀式と同じく、よそさまの世界から引き抜いてきてるのだろうか。
まあ、そんなことを考える間もなく。
モンスター共が襲撃してきた。
瞬間ヴァレリー、ハチワレ、フィリシアの三人がそれぞれ撃退しに向かっていった。
例によって、一撃で倒せるのだから、またたくまに敵勢力は数を減らしていって。
残りは、親玉一匹となる。
魔方陣から自動的に湧いてくるのか、親玉が召喚の儀式をするのだかはわからないが、魔方陣をどうにかする必要があると、俺は判断した。
なので、手早く魔法で魔方陣を破壊することにした。
「水槍」
途端、水でできた槍が魔方陣にぐさぐさっと数百回くらい命中して、魔方陣を洗い流した。あとには、何も残らない。地面だけがむき出しとなって残された。
「やりおる、やりおるな、貴様ら」
二メートルはある売僧くさいアンデッドが声を発した。
「一つ聞いていいか? おまえらの背後には何か別の親玉がいるのか? それともおまえが単独の親玉か?」
俺がそう言うと、きゃつは何がおかしいのか呵々大笑する。
「何を笑う。俺は笑われるのがこの世界で一番嫌いなんだが」
「ふむ。ならば答えるが。貴様にそれを教える義理はないな。どうあってもな」
「そうか、なら、滅べ」
俺は極大の「火炎球」をそのアンデッドに展開、ぶつけた。
滅ぶ瞬間までつづく呵々大笑に俺は、なんとなくうんざりした。
こうして、敵の親玉との戦いは終わった。
翌日、掃討戦として徹底的にアンデッドどもを滅ぼしまくった。
まあ、よくもまあこれだけうじゃうじゃいるわ、と夢に出てくるかと思うくらいに。
その甲斐あって、三日目の夜になる頃合いに、俺たちは塔内の完全攻略を達成した。
宰相さんの元に転移して伝えに行った。
その夜は皆も疲れたようで、あっさりと眠りに落ちた――。
◇ ◇ ◇
それから数日後。
春が近い。いよいよ春が来る。空気が和らいで、ぽかぽかうららかな日差し。
新緑芽吹き。
タンポポに似た植物がところどころに咲いている。
俺はそれをようやくという思いで見つめていた。
春が、くる。
蘭世と、会えるのだ。
もうすぐ。
そんな思いで皆とティータイムをしていると。
魔王がやってきた。
挨拶をひとしきり終え、魔王が本題を切り出してきた。
「姪っ子、婿殿、それに愉快な仲間たちよ。先日は塔攻略を無事成功してくれて、誠に幸甚に堪えぬ。魔族領の平和は今日もこうして守られていくのだな。カカカ」
「俺たちもスキルアップを図れた。魔王もこの国の平和を守れた。ウィン・ウィンの関係だよ。別にそれほどのことでもない」
「相変わらずくえない男よのぉ、婿殿は。して今回の報償は皆に均等に分け与えるべきと判断してきた。……さあさあ、皆のもの、喜んで受け取れ。金一封である」
そうして、魔王は連れてきた近衛騎士から袋をそれぞれ、俺、アリシア、ハチワレ、ヴァレリー、ユイ、アリス、フィリシアに受け取らせた。
皆が礼を言う。
俺も礼を言い、早速中を確認すると、金貨である。
金貨一枚で一月は生活できる。それが三十枚。ほかの皆も同様のようだ。
うーむ、太っ腹である。
「ありがとうございます、閣下」俺が改めて魔王に礼を言うと、
「ふむ、感謝の気持ちである。受け取って欲しい」そう言って、魔王はニコッと笑ってみせる。
それから、例によって世間話をし。
そろそろ帰るという頃合いに、
ちょろっと魔王はこう言った。
「いよいよ、人類圏との戦争が再開される。此度は我が陣営にも勇者がいる。さてはて、婿殿。期待しておるぞ」
そう言って、改めて俺の手を両手で包み込んで。
魔王は帰っていった。
「蘭世」
俺はつぶやいた。
皆の顔が幾分不安げに見える。アリシア、ハチワレ、ヴァレリー、ユイ、アリス、フィリシア。
大丈夫だ、俺は大丈夫だよ。
そう言って、笑った。俺は蘭世と、再び会う。
そんな春が、訪れようとしていた――。
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