11 一行は塔の攻略に入ってみた 上
◆ ◆ ◆
──北歴三五一年冬
ヴァレリーが俺たちと一緒に住むようになって。
俺たちパーティーのメンバーになって三週間ほど過ぎ去っていた。
その間、俺たちは毎日のように「転移」でステップ地帯に飛んで、ゴブリンやアンデッドを殺しまくった。
ヴァレリーは正直、使えるやつだった。
彼がハンマーでまずは敵陣に突っ込み、それに敵が慌てふためいたところに、ハチワレとフィリシアが冷静に敵を切り捨てていく。
時折討ち漏らした敵は、中衛ポジションにいる俺とユイの二人でさばいていく。
後衛に位置するアリシアとアリスがバフかけやデバフ解除をしてくれて。そして、ごく稀にメンバーが負傷すると、治癒魔法でいやしてくれる。
――そういった、一種の必勝パターンが形成されるのにさして時間はかからなかった。
ヴァレリーはほどほどに敬語も使えるようになっていき、アリシアの彼への白眼視も少しずつ和らいでいっている。
最初はおっかなびっくりでアリシアに接していた彼も、それほどつっけんどんにアリシアに対応されることはなくなっていって、少しずつ苦手意識を取り除いていっているかのようだった。お互いに、ね。
もっとも、それでヴァレリーが調子に乗り、アリシアがキレて、その仲裁に俺が乗り込むというパターンも度々繰り返された、という事実も付記しておきたい。
ともあれ、俺たちの練度は上がっていった。
俺も初級を脱し、中級魔法剣士にはなっただろうと自負している。
フィリシアも、なかなかの剣士になってくれている。
チームの名前はまだ決まっておらず、そのままネームレスで行こうかとも思ったのだが。魔王やアリシアがそれでは駄目だという。
なら命名権を譲るから名前をつけてというと尻込みしてしまうという、そういうていたらくであったのだが。
充実感があった。
日に日に俺は自分が強くなるのがわかった。
パーティーも強くなっていくのがわかった。
自分が成長していくのは、嬉しいことだな、と強く思った。
◇ ◇ ◇
その日の朝、皆で朝食を食べ終わり、さて、ティータイムの時間というときに。
魔王がアリシア邸に訪れた。
はて。なんだろうね。
「よおっ、姪っ子、及び婿殿、それと愉快な仲間たち。息災にしておったか」
いつものように軽い口調で、魔王が俺たちの前に現れ、挨拶をした。
「おかげさまで。順調に俺たちのチームは練度が上がっております」
「叔父さまにおかれましては、無事毎日を怪我なく過ごせておりますわ」
「ほお、それは重畳よの。時に婿殿、貴様らのチームの名前はいい加減決まったのか?」
「うーん、いまいちいいのが思いつかないのですよねぇ……」
そう言うと、場に沈黙が訪れる。
「婿殿、名前なんてテキトーにつけてもいいのではないのかね」
「はぁ……というと?」
「いや、そうやって体よく丸投げしようとするでないわ。婿殿が考えねばならんのだよ」
「うーん……まあ候補はあります」
「おお、あるのか、なら疾く我に教えよ」
「俺のいた地球という星の、俺たちのいた国からは外れに当たる国の言語から、候補を探してきました。英語という言語なのですが。それで俺の名前暁という名前をその英語という言語で訳すと、デイ・ブレイク となります。なので、そのデイ・ブレイクというのをチーム名にしてはどうかな、と思うのですが、いかんせん安易かつ自分大好きという感じがしてあまり採用したくは……」
「婿殿! デイ・ブレイク――その名、いい響きではないか。採用でいいのではないか?」
「うーん……」
と俺は乗り気でなかったのだが。
「ダーリン、デイ・ブレイクで行きましょう♪」とはアリシア。
「よくぞ、素晴らしい名付けをしてくださった……」とはハチワレ。
「いいチーム名だと思うのであります」とはフィリシア。
「結構、イケてますね。それ採用ですよっ」とはヴァレリー。
「旦那さまのセンスは素晴らしいと思います」とはユイ。
「デイ・ブレイクで決まりですね」とはアリス。
「う、うーん……それほどいうのなら、それで行くかぁ」
艱難辛苦の末、俺の名付けたやや中二病っぽいチーム名、【デイ・ブレイク】が本採用となってしまった。う、うん。それでいいのならいいんだよ? む、むう。
「本日はとてもいい日になりそうですわね。で、叔父さま。本日はどのような御用向きで参られましたの?」
「いかんいかん、うっかり、我は満足して帰るところであったよ」
「「……」」
「いや、無言でスルーするような、そういう不敬はやめよ。……まったく、我の渾身の諧謔(ジョーク)をこうも軽く受け流されるとは、心外よ。さて、なんの用向きか、とのことであったな。実はな。今朝、宰相の非常連絡網にて、厳重警戒対象であったアンデッド共の棲み着いておる巣穴の塔から、いよいよアンデッドが湧き出てきたとの報が入ったのだよ。あいにくと我が精鋭のチーム三組が三組とも、長期休暇中でな。呼び戻してもいいのだが、それでは我、いざというときにその連中から突き上げ食らうかもしれぬ。それは我も望まぬゆえ、ちょうどお手すきであったそなたらのチームに討伐を依頼しようとしたのだよ」
「「……」」
頼み方が、あまりにも雑だ。
その内容も、あまりにもひどい。
断ろうかとも思ったが――。
俺は皆を見回す。なんだか気持ち、ウキウキしている気配があった。
そうか、そうだよね。
短いつきあいだが、俺は彼女ら彼らのことをよく理解していた。
戦闘民族だよ、この人ら!
「……わかりました、お引き受けいたしましょう」
「おお、引き受けてくれるか、それでこそ、勇者一行よの。重畳限りなし」
そんなこんなで。
俺たちは、アンデッド共の巣くう塔の攻略を、引き受けたのだった。
◇ ◇ ◇
その塔は魔王直轄領パルの郊外、端っこも端っこのところにあった。
そこに行くまで、俺は土地勘もなかったので、案内をヴァレリーに頼み、彼を背中におぶってナビゲートしてもらいながらたどり着いた。
座標を覚えた。この作業を通さないと、この魔法は駄目なのだ。
一回その座標を覚えるという作業をしないと「転移」が使えない――それは、その魔法の欠点と言える。
まあ、この欠点を補いあまる便利な魔法ではある。
そして。
「転移」でアリシア邸に戻ると、今度もまた再び「転移」でチームデイ・ブレイクのメンバー全員を連れてきた。
「皆、事前に説明したとおり、目的は敵アンデッド勢力の無力化もしくは殲滅である。宰相さんが俺たちに教えてくれた情報が有効であれば、敵勢力の無力化までにはかなりの日数を必要とするだろう。質問はないか?」
俺を一同を見回すと、
「サトル殿、よろしいか」
「プロフェッサー、なんでしょうか」
「ふむ。日数を必要とするとのことだが。それはもしも仮に三日ミッション完了までの時間がかかるとして、このまま現地滞在を維持したまま、つまり、各自交代で仮眠しながらの無力化を狙う、ということでありましょうか」
「いや、そうではないな。夜まで来たら、つまり空が暗くなれば、いったん家に帰るよ。俺たちは、俺は「転移」が使える。だから、そこまでギュウギュウに詰める必要はない。それにいったろ? 目的は敵殲滅の無力化もしくは殲滅って。ある程度間引いたら、ミッション完了だとして帰ってもいい」
「ふむ、なるほど。委細承知いたしましたぞ」
ハチワレがうなずく。
「ほかには質問ないかな?」
「はいはい! 質問です」
アリスがその愛らしいツインテールを揺らさんばかりに、俺に質問を投げかけてくる。
「はい、アリスさん、なんでしょうか」
「あの、お花を摘みに行きたいときは、どこへいけばいいのでしょうか。皆様方のいないところへ行って、それで敵襲を受けた際、かなり恥ずかしいお姿を、晒す羽目になるかと……」
「いい質問ですね、アリスさん」
そう言って、アリスをなでてあげる。
えへへ~♪
そんな感じで、嬉しそうにしているアリス。
む。皆のヘイトがなぜかアリスと俺に向かってくる、気配を感じた。
じ~。
ごほごほ。
慌ててアリスの頭をなでて上げていた手を離し、彼女の質問に答える。
「えっとだな、それは俺も少しどうしようかと考えていた。そして、己が心に潜む【力】を覗いてみた。そしたら、答えはあったよ。メカニズムはよくわからないが身体の消化機能関係の働きをコントロールして「トイレに行く回数を劇的に減らすことが可能となる魔法」があるんだ。それを皆にかけて、それでできるだけトイレに行くことのないようにして、進んでいこうと思う。もしもそれでもトイレに行きたいというのならば、俺かアリシアの空間転移魔法、俺なら「転移」アリシアなら、その下位魔法「時の回廊」を使用して、アリシア邸に戻り、そこで用を足してもらう、という形になる。どうだろう、理解してもらえたかな」
「はーい、承知いたしました、旦那さま♪」
そう言って、アリスはもう一度なでてアピールをした(ように、なんとなく感じた)もので、俺はアリスをナデナデしてしまった。
しあわせそうなアリスだが――。
周囲を見た。じーっ。
視線がやはり怖かった。
なのでほどほどにしておいた。
やれやれである。
「ほかに質問はないか? ……ないようなら、さっそく塔攻略を開始する、行くぞっ」
「「了解!」」
「それではまず、塔の外に出てしまったというアンデッドの殲滅から入る」
そう言って、アリシアにうなずきかけると、あうんの呼吸で、
「かしこまりましたわ。では行きますわよっ、索敵」
しばらくして――
「ふむ。敵影二十体ほどを確認。速度は異様に遅く、停滞しているかのようです。その移動速度からかんがみるに、ガイコツ騎士かと思われますわ」
「承知です。では斥候にユイ、頼みます。いつものように俺たちが攻め込む最適の場所を見つけてきてくれ」
「承知」
そう言うやいなや、ユイが移動を開始する。
俺たちは彼女が戻ってくるのを待った。
やがて、ユイが戻ってきた。
「ガイコツ騎士の存在を確認。数は二十ですね。森に入るところですので、急いで殲滅いたしましょう。……付いてきてください」
「「承知」」
俺たちは、ユイに従い、速やかに行軍を開始した――。
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