10 ヴァレリーは生涯の主君を得た
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──北歴三五一年一月中旬 魔王直轄領パル アリシア=ラ・セルダ邸
昨日の実技戦闘から一晩が経った。
俺はいつものルーティン。
アリシアの寝てる寝床から抜け出して、フィリシアと合流。
ランニングと修練用木剣の素振り。
それから、彼女と剣の型数十パターンを丁寧に実施して、それから皆で朝食である。
今朝はいつものようにやや固めのパン、ベーコンエッグ、サラダ、ウィンナー、スープだった。
アリシアが上機嫌に昨日のことを語り出す。
「ダーリンとフィリシアのコンビネーションはお見事でしたわ。一方がおとりとなり、敵のヘイトを引きつけ、その間隙を縫って自らもカウンター。それにハチワレ卿も加わり、前衛はそれでほぼ完璧ですわね。それに加えて、後方から鬼神のようなユイのシューティング、あれではあたくしたちと出くわした敵が可哀想になる――そう思えるほどの連携ですわ。遠隔からはそれにあたくしもいますしね。それと忘れてはならない、ヒーラーのアリスも。さすがあたくしの専属メイド、打ってよし回復してよし。まさにあたくしたち、鬼に金棒でしてよ♪」
「アリシア?」
「なんですの? ダーリン」
「食べるか喋るか、どちらかにしたら? もう俺とプロフェッサーは食事を終えてるよ。あとにつかえるメイドたちのためにも食べちゃったら?」
「あら、あたくしとしたことが。申し訳ございませんでしたわ」
アリシアはそう言うと手早く、といっても優雅にエレガントにだが、食べ出した。
「それと、提案があるんだが」
「んぐっ、もぐっ、ふぁんですの(なんですの)?」
「だから、食べるか喋るかどちらかにして……。いいよ、もう食事が終わったら話そう」
「……ええ」
食事が終わり。
俺はアリシアと向き合った。
「アリシア。俺たちのメイドなんだが。俺たちはチームを組んだ。名前はまだないけども、れっきとした戦闘ユニット、魔族軍における先鋒隊、もしくは遊撃隊として。そのメンバーと皆で一緒に食事をしたいと思うんだが、どうだろうか。この場合の一緒に食事とは、六人全員で同じテーブルに座り、一緒に同時に食事をする、ということなんだが」
そう俺が提案すると、アリシアはキョトンとした表情をしていたが。
「言われてみますと、そうですわね。あたくしたちはチーム。ならば主人、使用人関わりなく、一緒に食事をするのは道理ですわね」
「だろ? 俺たちは仲間なんだ。食事をする順番が決まってるというのはおかしいと思うんだ……それに、というかフィリシアのことなんだが。彼女はプロフェッサーの孫娘、ということは貴族の令嬢の訳で。そんな彼女がメイドと同じ扱いで、食事をする順番が俺たちのあとというのはなんか変だったし、ね」
それにはハチワレも、
「サトル殿のご学友兼アリシア嬢宅の住み込みメイドとして働かせてもらっておりましたし、給金ももらっておりますし、やつがれとしては食事の順番にこだわりはありませんでしたが。ふむ、サトル殿の、我らはチームというその柔軟な発想には、まこと感心させられますぞ」
と、同意する。
「じゃあ、決まりだ。俺たち六人は今朝のティータイムからでも一緒の食卓を囲もう」
そういうことになった。
それを聞いていたユイ、アリス、フィリシアたちはお礼を言う。
「おそれいります」とはユイ。
「わーい、わーい、なのです。さすが旦那さま♪」とはアリス。
「ありがたい申し出であります。さすがサトルさまなのであります」とはフィリシア。
……。
なにげに、俺の好感値爆上がり?
これ以上上がっても嬉しくないんだが。フィアンセいるしなぁ、もう。
俺、アリシア、ハチワレとで座るでもなく、昨日の実技戦闘の感想や反省会をしているうちに。
ユイ、アリス、フィリシアの食事も終わり。
ティータイムの時間となった。
テーブルに六人が座る。
なんだか少し変だ。
今まで座っていたのが俺、アリシア、ハチワレだったのだが。
それに加え、今はユイ、アリス、フィリシアも座っているわけで。
だが、その違和感もそのうち慣れるにしたがい消え去るだろう。
お茶の用意はユイ、アリス、フィリシアではなく。
別のメイドさんたちがやってくれた。
ハチワレとフィリシアはホットミルク。
俺とアリシアは紅茶。
そして、今回から一緒にティータイムに参加することになったユイとアリスは。
恐縮そうに他のメイドから、紅茶をだされていた。
そうやって、和やかな時間を過ごしていると。
「アリシアお嬢さま、来客がお見えになりました」
「あらどちらさま?」
「はい、魔王ヨハン陛下にございます」
「お通しして」
「かしこまりましてございます」
「「……」」
俺たちは顔を見合わせた。
なんだろうね。
使用人に案内されて。魔王が現れた。
傍らには今日は護衛が二人。いつもの近衛騎士と、もう一人は初めて見る男の人。
精悍そうな小麦色の男、ダーク・エルフだった。
耳が特徴的な葉っぱのような形をしている。
護衛を二人も引き連れて、何か物騒な要件か?
そう怪訝な顔立ちをする俺たちだったが――。
魔王ヨハンはさして俺たちの態度にいぶかることなく、快活な態度そのもので俺たちに挨拶をした。
「ごきげん麗しく、姪っ子よ。それに婿殿、及びその愉快な仲間たちよ。息災にしておったか」
「ええ、おかげさまで怪我一つなく元気にやらせてもらっておりますわ、叔父さま。それで、早速なのですが本日はどのような御用向きで……」
とアリシアは新顔さんのダーク・エルフを見やりながら魔王に問う。
「カカカ。実は今日はな、婿殿。貴様らのパーティーにあらたな仲間を推薦したいと思い、こうして我、自ら紹介しに来たというわけである。ほれ、ヴァレリー。挨拶せいっ。自己紹介も満足にできぬ駄目な男だと思われてもよいのか?」
そう言うと、ヴァレリーとか言う名前の人に目配せをした。
はぁ、とため息をつき。
ヴァレリーとやらは口上を述べた。
ため息一つついた時点で、感じ悪いなとは思った。ここは減点である。
「よおっ、アリシア嬢。俺はヴァレリーって言うんだ。よろしく頼むぜ。それと勇者サトル。おまえさんの噂は城下町一帯とどろき渡っているぜ。魔王ヨハンさまの命に従い、本日をもって、おまえさんの配下に就かせてもらう。よろしく頼むぜ」
そう言って、軽くスチャっと、地球世界の日本でアイドルがよくやるような、片目の上に横にしたヴイの字にした指をかざすようなしぐさをして見せた。
なんとなく、というか、こいつチャラいな。
そんな第一印象を受けた。
ヴァレリーを見やる。
青色の短髪でスポーツマン体型。
がっちりした体型で、平民っぽい服装をしている。
実際、言葉遣いや所作を観察してみるに、平民なのだろう。
やや毒気を抜かれた俺だったが、まあ、そこまで悪いやつではないな、という直感があった。
けれども。
アリシアはそんなヴァレリーという男の態度が癪に障ったらしく、珍しい、というか今まで俺が見たことのない表情で、ヴァレリーに話しかけた。
「あなた、どちらの出身? 下町の出身に見受けられますわ、服装や物腰を見るに。そんなあなたがあたくしや勇者さまと対等な口をきけると――」
「アリシア!」
俺は彼女を止めた。
ヴァレリーにしてみれば挨拶をしたのに、喧嘩口調で返される。
気分のよいものではないだろう。
「なっ、なんですの? ダーリン」
「ヴァレリーとの会話は、いったん、俺に任せてくれ。いいね、アリシア」
「えっ、ええ……ダーリンが仰るのなら」
そう言ってアリシアは引き下がる。
なんというか、アリシアの嫌な側面を見ちゃったなぁ。
残念ながらアリシア、キミにも少し減点だよ。
「やあ、よろしくヴァレリー。俺はこの世界で勇者をやらせてもらっているサトル=オダというものだ。異世界に来たばかりだが、いろいろあって今は魔族国家コスモスの伯爵に任じられている。魔族軍のいち構成員として、職務に励んでいるところだ。よろしく頼むなっ」
そう言って、右手を差し出した。
それにヴァレリーはほっとしたような顔つきで、右手を差し出し応じた。
ちらっと彼はアリシアを見やった。
その表情には若干だが明確なおびえの気配が見受けられた。
あちゃあ、やっちゃった、アリシア。
俺の配下に就いてくれるという男に、そんな態度はないと思う。
あとで叱っておこうと思った。
「アリシアの物言いに若干とげがあったように思うが、それは彼女が王族の令嬢だからで、先ほどのおまえさんの物言いが少しその場にそぐわなかったのは、わかって欲しい。だが、魔王ヨハンが俺の配下に、とおまえさんを紹介してくれたのだから、俺はそれを尊重したいと思う」
そう言うと、俺はヴァレリーに着席するように勧めた。
だが、けれどヴァレリーはそれを固辞する。
「いえお言葉ながら、このヴァレリー、あんた、いやあなたさまの手足となって働くように言われた、いやおおせつかった? ものなんであなたさまの隣に突っ立っております。なんなりとご命令を!」
そう言って、俺の座る席から少し離れた位置に立ってしまった。
「いや、そういうのはなしの方向でお願いしたいのだが」
俺はそう言う。
けれど、ヴァレリーは不思議そうな顔。
「えっと、俺はヴァレリー、キミと対等な関係でありたい、ってことだよ。もちろん、上下関係ははっきりする必要はある。あるにはあるが、そこまで隔意というか距離を置かれると嫌だなぁ、という感じがする。だから、何が言いたいかというと、ヴァレリー、キミも着席して欲しいということだ」
「はっ、ありがとうございます!!」
そう言ってようやく、ヴァレリーは着席してくれた。
やれやれ。
それを面白そうに見ていた魔王ヨハンを、ジト目でにらんだ俺は声をかけた。
「で、魔王。彼、ヴァレリーはいったいどういった方向で俺のためになってくれるというんだ?」
「ふむ。本人に説明させようともしたが、ちと言葉遣いに問題があるようだ。下町出身で気のいい男、優れた才覚をもった偉丈夫であるのだがな。おいおい婿殿、及び姪っ子の指導によって矯正してやってくれ。よろしくしてもらえよ、ヴァレリー」
「はいっ、頑張りますっ」
ヴァレリーが元気いっぱいに答える。
うんっ、やっぱいいダーク・エルフっぽい気がするな。この人。
俺はいい印象を抱いたが、アリシアをちらっと見やると、あまりいい表情はしていなかった。
「で、だ。このヴァレリーという男は何の役立つか、という話だったな。まずは諜報員として役立つな。冒険者の酒場の連中相手の諜報、情報収集能力にかけては文句の付け所がない。戦闘員としても優秀だ。こいつの獲物は普段はダガーだが、実は戦闘においてはハンマーでな。そのチャラい外見に似合わず、猛々しく猛威をふるう怪力男よ。婿殿が先日立ち上げた我が魔族軍の遊撃隊? だったか?」
「チームです。遊撃隊という役割はありますし、先遣隊という役割もあります。俺は転移が使えますのでそれの有効範囲は半径二メートルほどで、一度の「転移」で一〇人前後は輸送可能ですので、その前後の範囲でメンバー数はそろえたいと思っています」
「ふむ、そうか。そのチームでの特攻隊長、切り込み隊長としては申し分のない働きをしてくれると思う。それから、最後に護衛だな。婿殿をいかなる危機からも守ってくれるように、命じてある。身をもってな。全力で婿殿はそいつに守ってもらえ」
そう言ってカカカといつものように馬鹿笑いをした。
ふむ。
ヴァレリーを見やる。
こいつになら後ろを任せられるな、と俺は思う。
普段は後ろを守ってもらい、戦闘の時には切り込み隊長の働きをしてもらう。
いい関係になりそうだと思った。
俺はこうして、生涯に渡る側近ヴァレリーを得たのであった。
股肱の臣となるヴァレリーであるが、アリシアに認められるまでにはかなりの期間を要するのであった――。
「さて、我はそろそろおいとまさせてもらうぞ。所用は達したしな。では婿殿、アリシア、さらばである。……ヴァレリー、信頼を得るには時間と行動が必要となる。我はおまえを信用しているが、婿殿、アリシア、その他チームメンバーに認めてもらうにはそれなりの覚悟が必要であろ。精進するがよい」
そう言ってヴァレリーの肩を叩くと去って行った。
「ははっ、頑張りますっ!」
元気いっぱいなヴァレリーの大声が響いた――。
◇ ◇ ◇
互いの自己紹介を終えて、今日も今日とて戦闘実技である。
今日からは新しい仲間も加わってのことである。
楽しみだ。
「では、行こうか。転移」
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