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まわるよまわる勇者はまわる  作者: 小鳥遊ロイ
家族成立編
12/16

9 フィリシアは張り切ってみた

◆ ◆ ◆


──北歴三五一年一月中旬 魔王直轄領パル


 空は青く、果てしなく。

 だが、一月の空は、寒い。


 ………………。

 …………。

 ……。


 俺とアリシアは今、空を飛んでいるところである。

 魔法の「飛翔(フライ)」を使用している。「飛翔」を実戦で有効に使えるように、いろいろと試行錯誤しているのである。


 誰と戦うのかというと、祖国にたてつく連中とである。

 そう、俺はもう魔族軍の立派な構成員となっているのだ。

 正確に言えば、魔族国家コスモスの伯爵という身分である。

 勲章年金までもらっているわけで。

 ノーブレスオブリージュというやつだ。

 ハチワレに教わったことだが、身分の高い者はそれに応じて果たさねばならない責任と義務があるのだという。

 まあ確かにただ飯を食らって、偉そうにしているのが貴族ではないだろう、とは思ってはいたのでそれはいいのだが。

 地球に生きていた頃のイメージはそうだったのだけれどもね。



 問題は、俺、伯爵なのに領地を持ってないんだよなぁ……。

 それで本当に貴族なのだろうか、と疑問に思っているのだけれども。

 魔王はそれをあまり気にしているそぶりを見せていないのだ。

 アリシアと結婚可能な身分にまで俺を押し上げる、その一点しか考えてなかったのだろう。

 とはいえ、魔王ヨハンを考えなしの暴君とは言えないのである。

 なぜといって現在において、安定的な領土というものが、そもそも魔族国家コスモスにおいては望むべくもないものだったからだ。


 北からは巨人共が毎年のように襲ってきて、そのたびに領土を削られる。

 南には邪竜が住み着いて、ふとした気まぐれで飛翔してきて国民の命をむしり取っていく。

 西は海。

 東だけが比較的穏やかなのだ。

 人類圏との土地の奪い合いだ。毎年春から初夏にかけて、毎年毎年飽きもせず、小競り合いを繰り返している。

 勝ったり負けたりだが、まあそういうわけで、この東の方面だけが安定している、といえば言える。

 この悲しい現実に俺は同情を禁じざるを得ない。



 俺は貴族になりたくてなったわけではない。

 なったわけではない――のだが。


 領地なしの貴族という考え方にもなじめなかったりするわけだ。

 俺の今のこの国における立ち位置の怪しさを感じずにはいられない。


 いい加減なんだよなぁ、そのへん。魔王とその側近の連中は――。

 俺はそっと手を見る。

 勲章年金と魔王のお小遣いによる報奨金とで生きている、今の俺とはいったい何なのだろう。

 深く考えれば考えるほどむなしくなる。

 働けど働けど、なお我が暮らし楽にならず。


 ……と、そこで気付いた。


 俺働いてねぇ……。


 魔王も俺もどっちもどっちという恐ろしい考えが、浮かんだ。


 そんな考えても答えが出るわけでもないことを考えて、空を飛んでいると――。


(久しぶりに空を飛ぶのは気持ちいいですわね、ダーリン)


(気持ちいいのはいいけども、寒いな……)


(そうですわね。ねえダーリン? もっと高度を低くしてもよろしいのではなくて)


(むう、それだと実戦経験の涵養にはならないと思うのだけれども)


(……なるほど、難しいところですわね)


(アリシアの言うことも一理ある。高度を下げよう。……長旅になるしね)


(はいっ、ありがとうございます♪)


 そんなことを(念話で)話していたのも数十分前。

 時速七十キロメートルくらいの高速で東に向けて飛んでいくこと、二時間ほど経った頃合いに。



 草原に着いた。

 ステップ地帯というやつだ。

 枯れ野と灌木が延延と広がっている。


 目的地に到着である。

 俺とアリシアは二時間ぶりに大地に降り立った。


「ダーリン、ここまでの座標は覚えましたね? 身体で」


「ああ、覚えた。飛ぼうと思えば飛べる、一瞬で」


「それはようございました♪ ではいったん屋敷にまで戻りましょう」


「そうだね、身体が冷えてこれでは戦闘どころではないよ。まずは風呂に入りたい」


「そうですわね」


 俺とアリシアはかじかんだ手をつなぎ合い見つめ合った。

 俺は力ある言葉を発動させる。


「では戻るね、転移(テレポーテーション)


 刹那。

 瞬間的に魔方陣が展開して――。

 俺とアリシアはアリシア=ラ・セルダ邸の中庭に戻ってきていた。


 それからお風呂に入って、かじかんだ身体をようやく温めて。

 復活した。


 いつものように皆で昼食を食べてややまったりして。


「ふう、食べた食べた。生き返ったよ。二時間空を飛ぶだけというのもなかなか、それはそれはしんどいものだったよ」


「あら、そうですか? あたくしはダーリンとここぞとばかりにたっぷり話せて、退屈しませんでしたわ」


「それはまあ、確かに。言われてみれば一緒に二時間空を飛んで、より一層キミのことが知れて有意義だったと言えるかも知れないね」


 そう言って、笑い合う俺たちにハチワレの目が優しい。

 けれど、メイド三人組は若干気に入らなさそうな雰囲気を醸し出した。


 実際、

「サトルさまを独占するのは、誠にうらやましい限りでありますな。私もご一緒したかったのであります」

 珍しく、フィリシアがかまってちゃんアピールをしてくる。

 それにうんうんとユイとアリスが背後からうなずいている気配を感じる。


「フィリシア、それにユイとアリス。あたくしたちが「飛翔」を使って東へ向かったのは遊びではないのですよ。立派な軍事的行動なのです。効率が重要視されるのは当然のことではないですか。「飛翔」は一人で飛ぶのが一番魔力も使わず効率的なのですよ?」

「ブーブーであります。そういう正論は聞きたくなかったのであります」

 それにそうだそうだと背後からはうなずく気配。


 実際はユイとは念話で少なからず話し合っていたんだけどね。

 アリスとフィリシアの二人のヘイトがユイに来ても困るので、沈黙してそこはスルーする。

 というか、メイド三人組も、俺のことを好き好ぎだろうとは、思った。


 これから戦闘力向上作戦及び草原平定作戦を決行するために、さきほどまでいたステップ地帯に「転移」する。

 戦略目標は二点ある。

 

 一点目は、俺とフィリシアの初陣なのでできるだけ良好にそれを成功裏に導くこと。

 パニックに襲われたり恐怖にすくんだりしないようにしようということ。


 二点目は殲滅対象の殲滅もしくは撃退。

 ターゲットは――草原地帯を根城としているアンデッドとゴブリンどもになる。


 メンバーは俺とアリシア、ハチワレ、それにメイド三人組の計六人。


「俺たち六人はチームなんだ。そうあまり不平不満を並べてチームの和を乱さないでくれよ、フィリシア」

 たしなめるように、フィリシアに言う俺に、


「承知したのであります。私も少し大人げなかったのだと反省するのであります」

 反省のそぶりを見せるフィリシア。


 シュンとするメイド三人組に。

 だが、と俺は言う。


「だが、そうやって自分の思いを伝えること、主張するのは大事だと思う。円滑なコミュニケーションで俺たちチームの連携が深まるのは、いいことだからね」


 そうやってフォローするのも大切だ。

 チームリーダーはそういう気配りもしないといけない。

 にこっとフィリシアが表情を緩めた。まあ一定の効果はあったのだろう。


「さあ、準備を始めようか」


 それからしばらくして、俺たち六人は草原にいた。


「これはこれは、本当に枯れ草と灌木以外は何もない広大な大地でありますなぁ」

 フィリシアが物珍しげに、周囲を見回し、そう告げる。


「ふふっ、見晴らしもよくめったに気候も変わらない。出るモンスターは比較的弱いものばかり。こう言ってはなんですが駆け出し戦士のダーリンとフィリシアには格好のフィールドでありますわ」

 そうなぜかどや顔でアリシアが保証してくれた。


 そう、俺たち六人すなわち、俺、アリシア、ハチワレ、ユイ、アリス、フィリシアの中でモンスターとの実戦経験がないのは俺とフィリシアの二人のみ。

 あとはこうみえても魔族軍の幹部とそのメイドさんである。戦闘経験はそれなりにと言うか豊富にあるのだ。


 俺とフィリシアは身震いした。

「あら、ダーリン、それにフィリシア、震えてらっしゃいますわ。気持ちを落ち着けていきましょう」

「いや、アリシア嬢。今の彼らの震えはおびえからのそれではなく、高揚感からの震えであると思われますぞ。いわゆる武者震いというものですな」

 そう言うとハチワレはニヤリと満足げな表情をした。


「が、頑張るのであります」

「俺も……頑張るよ」

「お二方、その意気でございますぞ」

 とハチワレ。


「いざとなれば、あたくしたちのバックアップがあります。慌てずたゆまず、リラックスして参りましょうね♪」


「「了解っ」」


「ではそろそろモンスターのいる場所まで向かいましょう」

 アリシアがそう声をかけると、俺たちはこくりと頷いた――。


索敵(エリアサーチ)

 アリシアが敵発見のための魔法をかけた。

 やがて。


「ふむ、敵影八つほど確認いたしましたわ。ささっ参りましょう」

 そう言って、動き出した。


 さあ楽しい楽しい冒険の始まりだ。


◇ ◇ ◇


「あれですわね」

 アリシアがつぶやき、俺たちもうなずいた。


 たき火を囲み、ゴブリンが八匹ほど火に当たっていた。


「透明」の魔法をかけている俺たちは敵とは一〇〇メートルほど離れたところにいるが、まだ見つかっていない。

「このまま「透明」状態で後ろからバサッと斬りかかりたい衝動に駆られるな」

 俺はなんとなく、そう弱音を吐いてしまう。


「もうっ、ダーリンったら。それでは実戦経験にもなにもなりませんわっ。ただの弱いものいじめです」

 そうアリシアに叱られた。


「そう言わないでくれ、アリシア。わかっているさ。では戦闘準備に移るか。バフかけ行くぞ」

 そういう俺に、フィリシアが待ったをかけた。


「いえ、サトル殿。今回は実戦とはいえ敵は最弱のゴブリンです。私たちの素の戦闘力で、純粋に真っ正面から戦いたくありますっ」

 そう、戦闘マニアっぽい発言をしてきた。


 うーん、と俺がうなっていると。


「それも一興でありましょうな。魔法なしでどれくらい動けるか、純粋に己が技量のみで活きた敵と対峙していく。そういった経験もしておかれるとよいでしょう」

 そうハチワレが言ってきた。


 一理ある。


「バフ(支援魔法)なしの純粋戦闘か。――了解。それで行きましょう」


「ふむ。では事前の話し合い通り、やつがれは戦闘にほぼ手を出しませぬ。アリシア嬢ももしものときのバックアップ要員として今回は参加を見送ります。戦闘参加要員はサトル殿、フィリシア、そしてユイ、アリス嬢の四人。では、健闘を祈りますぞ」

「行ってらっしゃいませ、ダーリン、そして皆さま方。けがをしてもあたくしが治癒の魔法で直して差し上げます、心置きなく戦ってきてくださいませ」


「ありがとうございます。では、透明化を解除しますね」


 俺、フィリシアの初陣がこうして、始まった。


◇ ◇ ◇


 俺たちは陣形も何もなく、気軽にピクニックに行くかのように、四人並んで歩いてゴブリンに近づいていく。


 ややあって、ゴブリン共が俺たちの存在に気付いたようで、木の棒をそれぞれ手に携え、俺たちと遠くからにらみ合う。


「やあ、ゴブリンさんたち。ごきげん麗しく。キミたちには何の恨みもないが、死んでくれ」


 きしゃーー。


 そう言うや刹那、ゴブリン共のうち四匹がそれぞれ俺たちに向かってきた。

 用心深く、慎重に、だがその歩みは決して遅くはない。


 俺は、自分の感情と見つめ合っていた。

 恐怖の感情が訪れるものと思っていたが、案外とそういうものはなかった。

 もしも怖かったら「耐恐怖」の魔法をかけ、強制的に気持ちを鎮めて戦おうともしたが、その心配もなかったようだ。


 ああ、これが実戦の空気か。

 そんな感慨があるだけだった。


火炎球(ファイアーボール)

 そう俺は敵に向けて、放った。威力を最小限に、殺傷能力を抑えて、一発だけ、打ち込む。


 それでも。


 ぎゃーー。


 ゴブリン一匹がそれに被弾。全身がほどなく火に包まれ燃えだした。

 絶命はせず、もだえ苦しんでいる。

 もうすこし殺傷能力を気持ち加えた、それ(火炎球)であってもよかったかな。

 ゴブリン一匹はそれはもう、ころころ転がり苦しんでいた。

 毒気を抜かれた他のゴブリンたち。

 だが逃げない。

 敵愾心をさらにむき出し俺たちに迫ってきた。


 そこへ、

「旦那さま、お遊びが過ぎます。もう少し本気で戦ってくださいませ」

 そうユイが俺を叱る。

「ごめんなさい」


「敵は倒せるときは倒すものです、このように――」


 弓を構えたユイが弦に矢を構え、解き放つ

 シュッ。


 その一撃は正確にゴブリンの頭に命中。

 結果ゴブリンの頭が、はじけた。


 ボンッ。

 スイカのように。


「ユイ……? 殺傷能力の高い「魔法矢」を使ったね? 最弱のゴブリン相手にそんないいものを使わなくても」


「だからこそ、です。ゴブリンにくれてやる慈悲など、ありませんからね」

 そう涼しい顔で言うユイに、俺はこの子を怒らせるのはやめておこうと、密かに決意したのだった。


 一匹は炎で絶命しようとし。

 一匹は魔法矢で頭部をスイカのように破壊された。


 残りは六匹。

 いい塩梅である。


 俺は「火炎球」は使わず、あとは剣で行こうと決めた。

 帯剣用のベルトに留めておいた鞘からロングソードを取り出し、そして構えた。


 フィリシアも肩からたすき掛けにしたベルトに留めておいた鞘から同じくロングソードを取り出し、構えた。


 ユイも弓を背嚢(はいのう)に収納し、今度はダガーを取り出し構える。


 アリスも杖を構える。


 こうして四対六の形となり。

 俺は駆け出した。


 一閃。

 俺の剣はゴブリンの頭をかち割っていた。

 鮮やかな一撃。


 ゴブリンは絶命した。

 これで残り五匹。


 周囲を見回すと。

 ちょうどほどよい具合に。


 フィリシアがゴブリンを一刀両断の元に身体を真っ二つに切り裂いていた。

 ユイがダガーで敵の頸動脈に即死攻撃を加え、意識を、命を刈り取っていた。

 そして、アリスも鮮やかな杖による連続攻撃でゴブリンの身体を、右から、左から、頭から、足から、腕から、胴から滅多打ちにされて、結果、その攻撃がすんだ後、哀れゴブリンは崩れ落ちた。

 もちろん、絶命している。


 残った二匹はちょうど俺の剣の間合いにいた。

 敵の首筋を突き、一匹の命を刈り取り。

 返す動作でもう一匹の胴体に袈裟懸けを打ち込む。

 そのままでも絶命するだろうが、とどめとしてやや強めの威力をイメージした「火炎球」(ファイアーボール)を追撃。

 今度は一瞬でその形骸を留めずチリと化した。


「鮮やかでした」とはユイ。

「無事戦闘終了ですね」とはフィリシア。

「ミッションコンプリートです♪」とはアリス。


 こうして、俺とフィリシアの初陣は、俺たちの圧勝で幕を閉じた。


 そんな俺たちに、ハチワレとアリシアが合流した。

「鮮やかでしたな、二人とも」とはハチワレ。

「力みもなくイイ戦いぶりでしたわ。いい感じでした♪」とはアリシア。


「では、この調子でバンバンお二方には戦闘経験を積んでいただきますわ」


 そう言うとアリシアは嬉しそうに「索敵」の魔法をかけるのであった――。


◆ ◆ ◆


最後までお読みいただきありがとうございます。

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では、次回更新をお待ちくださいませ♪


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