8 皆でお買い物をした
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──北歴三五一年一月初旬・魔王直轄領パル 城下町パル
賑わいがあった。
道行く人々は、いろいろな種族だ。
獣人がもっとも目につく。
人類圏では亜人と蔑称されているらしい――ハチワレの授業で学んだのである。
ハチワレやフィリシアのようなケット・シー。
ウサギ族、ネコ耳族、タヌキ耳族のように耳の形状や尻尾をのぞけばほぼ人のようなものもいる。
一方、キツネ人族、イタチ人族、ネズミ人族、ヒョウ人族、ウマ人族などのように半身半獣のいい具合にどうぶつと人が混ざり合った種族もいる。
また、小人族やエルフ族、ダーク・エルフ族、ドワーフ族、ホビット族などの外見がほぼ人類という人種の人たちもいる。
それからほぼ人類と外見が変わらない魔人。
人と見分けがつかないけれども、魔力検定眼や種族見分け眼などがあれば、わかる人は人との違いを見いだす――そんな存在。
アリシアがその種族に該当する。
文明レベルは中世より少し前の水準、ローマ帝国が終焉を迎えた頃のような、そんなイメージが正しい。
町中を時折、馬車や、ロバやウマが引いている荷車が走っている。
けれども、糞尿の匂いはあまりしない。
なぜかと思い観察していたのだが、どうもそれら糞尿を収集している種族がいるらしいとわかった。
ウマ人族である。
自分たちの眷属のせいで街に悪臭が漂うのをよしとしないという見上げたひとかどの種族であると思ったものだが、そういう立派な動機もあるにはあるらしいのだが、ちゃっかり肥料の原材料収集のためにも行っているのだとハチワレが語っていたのを思い出し、なるほどと苦笑したものである。
レンガ造りの家々。
アスファルトで舗装されたか石畳で覆われた道。
帆を張った店先。
ペンキか何かで壁はいろいろなカラーで溢れている。
全体的に雑多で、都市計画はうまくなされているようには思えないが、かといって生活しづらいと言うこともない――ほどよいバランス感覚。
街の所々に噴水やベンチも常設されており、水道も用意されている。
下水道もほぼ設置されており、たまにくみ上げ式のところもあるのはご愛敬とのこと。
ゴミ箱もきちんと配置されてある小綺麗な町。
街灯もずらりと設置されている。
子供たちの笑い声と、商売人たちの声かけが響き合っているほどよい喧噪感。
露天商や屋台なども建ち並ぶ通りもある。
そんなような文明的な町、それが城下町パルだった――。
まずはウィンドウショッピングとしゃれ込む。市場の辺りをうろちょろ俺たち一行――俺、アリシア、ハチワレ、ユイ、アリス、フィリシア――は見て回った。
自分の店に引き込もうと、買い物客らを呼び止める商人の声がかまびすしい。さてさて、とりあえず何を買おうかな。
「フィリシア、アリシアの二人は結構高級なものでも買いたいものがあれば、俺に言ってくれ。ユイとアリスはまあほどよい具合の商品を選んでくれると嬉しいな」
「「はいっ」」
俺たち一行はかなり目立っている。
というか、確実に俺たちの素性はばれているようだ。
さきほどからなにげに警備員や民兵たちが遠巻きに俺たちの周りをガードしてくれている。
変な人、おかしな輩が近づこうものならば、彼らに誰何されて下手すれば、留置所にぶち込まれるだろう、と推察された。
まあ、もっともそれらの警護を突破したとしても、俺たち六人はかなり、強い。
というか無敵なのではないだろうか、と思っていたりするが。
そう、俺たちは強い。
屋敷の中庭でともに切磋琢磨をしてきたのだから、お互いの力量は、知れている。
魔術の達人のアリシアに。
ダガーの使い手ユイに。
武闘術のかなりの使い手アリスに(戦闘時の役割はヒーラーである)。
剣に関してマスターレベルのハチワレに。
そして、新進気鋭の剣士フィリシアに。
さらには、第七位高位魔法以上の魔法の使い手である魔法剣士であるところの俺。
こうして俺たちの戦力を客観的に分析してみると。
オーバースペックという言葉が、ふと浮かんだ。
ともあれ。
メイド三人組は楽しそうにキャッキャ言いながら、ウィンドウショッピングを楽しんでくれているようだ。何よりである。
アリシアは俺の腕にひっついて楽しそうに、市場をともに見て回っている。
ハチワレはそれを好々爺のように見つめている。
けれど、眼光は鋭い。よからぬものがいれば、切り捨てる、そのような不気味な威圧感が、俺にも感じられた。
そうして、何を買うでもなくぶらつく俺たちだったが。
小腹が空いてきたので、何かを食べようという話になった。
市場を抜けて、食料品店がずらりと立ち並ぶ通りにやってきた。
「ダーリン? このお店なんかいい感じじゃないかしら? ここで軽くつまめるものを買いましょう」
「うん、そうだね。じゃここで何か食べていこう」
俺たちは洋菓子店っぽい、美味しそうな食べ物のイラストが店先にたくさん書かれてある店に入店した。
「いらっしゃいませ~」
売り子が声をかけてくる。
「さて、何が欲しい、皆は」
そう俺が言うと。
うーんと、うなりはじめる五人。
好きに注文して欲しい、お代は俺持ちでと、声をかけた。
それからしばらく。いろいろ悩んだようだが、それぞれ選んだ。
ユイはクリームチーズとバターで作られたような生地のマフィンとコーヒーを選び。
アリスはチョコレートパフェとアイスクリームを選び。
フィリシアとハチワレは、肉串をたくさん選んで、それを皿に載せてもらっている。猫ちゃんは肉食だったっけ?
そして、俺とアリシアはドーナツと温かいスープを選んだ。
お代を払い、大きめのテーブルに案内される。
「ではいただくとしようか」
「「はい♪」」
皆でわいわい言いながら食べる食事は本当に美味しく、そして楽しかった。
しばらくして、皆が人心地ついた頃合いを見計らい俺は言った。
「皆は何か買いたいものが見つかったかい?」
「普段見たことのないようなものばかり見ているだけで楽しいのですわ」とはアリシア。
「私もとくには……」とはユイ。
「私はやっぱり髪留めなどがいいかなぁ」とはアリス。
肝心のフィリシアはというと、
「……」
黙り込んでいた。
「フィリシア? 何か買いたいものは、なかったのかい?」
「えっと、買いたいものは、今食べた肉串なのですが……」
などと欲のないことを言うフィリシアさん。
俺は決めた。フィリシアにはいいものを買ってあげよう、と。
俺たちは店を出て、次はユイとアリスのために小物屋に立ち寄った。
今時の流行のアクセサリーが揃っているようだとアリスが言っていたので、彼女の意見を採用し、じゃあここで買おうということになったのだ。
あれこれ髪留めを見ているアリスに、俺は声をかける。
「アリスには、これなんかいいんじゃないかな。元気なキミにはこれくらい落ち着いた雰囲気の髪留めがいいんじゃなかろうか」
そう言って選んだものを店員さんに仮につけさせてもらうと。
「はいっ、これにしますっ」
即決した。
アリスはニコニコしているので、それでいいのだろうが、もう少しじっくり選んでもと思った。
ユイは何を買うでもなくまたもやアリスのそばにいたり、俺のそばにいたりして、何を買うかを選ぶようにはみえない。
「あの、ユイ?」
「はい、なんでしょう」
「キミは欲しいものがないのかな?」
「特にこれがいいというのはありませんが、旦那さまは何がいいと思いますか?」
と逆に問いかけてきたので、俺は悩んだあげく。
やや明るめの雰囲気のブレスレットを見繕ってあげた。
彼女は微笑んで、じゃあこれにします、とやはりこれも即決してしまった。
うーん、それでいいのかな、と悩んでいると。
ハチワレが小声で俺に語りかける。
「お二方は、サトル殿好みのものを選んでもらい満足なのでしょう」
「そ、そんなものですか?」
「そうですとも。あとはフィリシアとアリシア嬢のものですな。頑張って、彼女らにぴったりなものを選んであげてくだされ」
そう言うと、どことなく茶目っ気のある表情をして見せた。
さて、ユイ、アリスの欲しいものは買ってあげた。残りは本日のメインイベント、フィリシアとアリシアへの贈り物である。
二人に再度何が欲しいのかと聞いたのだけれども、やはり、アリシアは俺が選んでくれるものなら何でもいいらしい。フィリシアもそうだと言う。
なら。
少し俺はわがままを言ってしまうことにした。
「俺が二人に選んでもいいかな?」
そして、俺が選んだ店は――セレブが通うような店だった。
フィリシアもアリシアも絶句している。
「ダーリン、大丈夫? こんな高級そうな店……」
とアリシア。
「入店するだけで緊張してきたのであります」
とフィリシア。
「まあまあ、任せて任せて」
そして。
見つけた。
うん、やはり、これだな。
そう言って、まずはフィリシアへの贈り物を彼女に試しにつけてみるように言った。
「! これはっ。私には本当に過ぎたものであります。……でも、とてもいいですねっ」
店員さんにつけてもらうと、やはり映えた。
俺がフィリシアに選んだのはルビーの宝石がついたネックレスである。三毛猫ちゃんのフィリシアには赤い宝石が似合うのではないかと前々から思っていたのだ。
鏡で自分の姿を見たフィリシアもうっとりしている。
「うん、似合う似合う。……では店員さん、こちらを買いますね」
「かしこまりました。お嬢さま、とてもお似合いになられます」
そうやって、フィリシアへの贈り物は確定、購入した。残りは、アリシアへのもの。
これも、婚約発表をした日から、これにしようと決めていたものだ。
俺が選んだものは。
ダイヤの指輪だった。
「ダーリン……」
「婚約指輪、まだ贈ってなかったからね。これは俺のキミへの気持ちだよ。是非、受け取って欲しい」
「ありがとう、ございます――」
アリシアのうれし涙を、そっと拭ってあげた。
いい買い物をした。
「一生大切にしますわ♪」
そう言って、にっこりと微笑んだアリシアは、とても綺麗だった。
◇ ◇ ◇
無事女性陣へのプレゼントがすんだ。
「そろそろ帰宅するか」
そう俺が言うと、
「「はいっ」」
皆が皆満足そうに、俺に答えた。
帰宅して、なんとはなく皆で談話室に集まる。
今日の買い物に関する話題で盛り上がる。
「そうだ、忘れないうちに」
そう言うと、俺はユイに目配せした。
「はいっ、旦那さま。……こちらでございますね」
そう言って、包みを持ってくる。
「なにげにもう一人の分のものを購入していたんだ。……どうぞ、プロフェッサー。受け取ってください」
そう言って、ハチワレに渡したものは。
「こ、これはっ。やつがれのものだったのですか。てっきりサトルどの個人のものかと」
それは、筆記用具一式だった。それも高品質の、使い勝手のよいものだった。
万年筆、インク、紙、手紙の封筒、便せん、封筒の開封用ナイフなどが詰め合わさったものだ。
「いつもプロフェッサーにはお世話になっている。今後ともよろしくお願いします」
そう言うと、俺はぺこりとお辞儀をした。
なぜか俺と一緒に座学、実技を一緒に受けるようになっているアリシア、及びメイド三人組もならってお辞儀をした。
「「いつもありがとうございます」」
皆の声が、ハモってしまった。
それだけのことが、なんともおかしくて。
笑い合った。ハチワレだけは――ただ受け取ったそれらを、愛おしく見つめていて。
「かたじけない。今後とも老骨にむち打って貴殿らに教鞭をとらせていただきますぞ」
そう言うと、目尻に浮かんだ涙を拭い取った。
「「お手柔らかに……」」
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