7 魔王はとても喜んだ
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──北歴三五一年一月初旬・魔王直轄領パル アリシア=ラ・セルダ邸
朝食を終えた頃合いに、魔王ヨハンがうちに来訪してきた。
連れは護衛の近衛騎士一人のみである。
魔王は一通り挨拶をすると、さっそく今回の俺たちの婚約発表を言祝いだ。
「勇者殿、アリシア。婚約おめでとう! どのような心境の変化があったかは知らんが、あれほどアリシアに興味がないそぶりだったのに、やるではないか、勇者殿、いや婿殿よ!」
「は、はぁ……ありがとうございます」
なんだかハイテンションの魔王に、やや引き気味に俺が対応していると――。
「もう、叔父さまったら。ダーリンが引いてるのがわかりませんか。叔父さまはぱっと見怖いし、実際そうまくし立てられても、チキンハートのダーリンにはうまく対応しきれないのですわ。控えてくださいまし」
そう言ってぷんすかしている。
それとかばってくれるのは嬉しいが。
ディするかかばうかどっちか一つに絞って欲しいとも、思った。
「ははっ、婿殿、さっそく尻に敷かれておるな。いやはや、これも重畳よの。今後ともこの調子で我が姪っ子のことを頼むのである」
「それはそれは、ありがたき言葉。彼女をしあわせにできるかどうかは、正直自信がないですが、覚悟を決めて頑張りたいと思います!」
「できる、できるとも。貴様には、それだけの力がある」
そう言うと、魔王は無言で俺に手を差し出してきた。
握手かな? 恐る恐る俺も手を差し出すと。
そのまま硬く手を握られた。
「本当に。よろしく頼むぞ、アリシアを」
「……は、はいっ」
それを微笑ましそうに見つめているアリシア。
なんだか婚約発表をした日から、そうなのだ。
彼女は、アリシアは。
大人になったというか。
物腰に落ち着きが出てきたというか。
俺と同じか、それ以上にどっしりするようになった。
雰囲気がね。
「叔父さま、あたくし、もう十分にしあわせでしてよ。ダーリンと一緒に過ごせて、同じ時間を共有できて。同じものを見て、同じ思いを抱いて、同じ道を歩いていられるのだもの。……本当にしあわせだわ」
ううっ、なんだかアリシアが神々しい。
思わずアリシアを仰ぎ見る俺だった。
俺と同じ気持ちを抱いたのか、魔王ヨハンは泣き出した。
静かに。
けれど、嬉しそうに。
しあわせの形が、そこにはあった――。
◇ ◇ ◇
「思えば、アリシアは幼い頃に両親を巨人に殺され不憫な子だったよ。叔父の我にも決して弱みを見せることなく、気高く振る舞い十六年を生きてきた。必死に生き抜いてきた。頑張ってきた。王族として。一人の魔人として。……さらには今、それと同い年の婿殿もでき一緒の道を歩いてくれるという。これ以上の喜びはない。……これからは二人睦まじく、暮らしていくのだぞ」
そう魔王は、俺たちを激励した。
「「ありがとうございます」」
「……さて積もる話は山ほどあるのだが。婿殿にはまだ完全に【カミ枯渇症候群】からエルフ族、ダーク・エルフ族を救ってくれたことへの礼ができておらなんだ。我の小遣いからなのだが、謝礼を授ける。遠慮せず受け取るがよい」
そう言って、後ろに控えていた近衛騎士から大きい袋を受け取ると。
それを俺に渡した。
「! 結構重いですが。……中を見てもいいですか?」
「うむ、見るがよい。我の感謝の気持ちだ」
袋を開けてみると、金貨が山のように、詰まっていた。
お、おう!
正直嬉しい。本当に嬉しい。
だが。
「こんなに大金をもらっても、いいものでしょうか。魔王陛下におかれては勲章と勲章年金も受給されてもらっているのです。これ以上の――」
「婿殿、皆まで言うな。我の感謝の気持ちに嘘偽りはない。婿殿はただ受けとってくれればいいのだ」
「……はい、ではありがたく受け取らせてもらいます。ありがとうございます」
「うむ」
そう言うと。
好々爺のように、魔王ヨハンは俺とアリシアを見つめていたのだった。
それからひとしきり世間話をして。
魔王ヨハンは帰っていった。
「たまには叔父上も魔王らしい振る舞いをなさるのですわ。ダーリン、念願の自分で自由に使えるお金ができてよかったですわ」
「ああ、本当に嬉しいよ」
「あたくしはいつでもあなた様にお金を与えられたというのに、ダーリン、あなたはあたくしからの出資を断り続けた。これぞ男の甲斐性だと、あたくししびれていたのですわよ?」
「あはは。寝床と食事とユイまで提供してもらって。それ以上の好意に甘えるのでは、本当に駄目な人間になりそうだったからね」
「そんなことでは駄目になりませんわ。ダーリンは」
「アリシア」
俺とアリシアは見つめ合う――。
「ごほんっ」
わざとらしく咳払いをするハチワレがいて。
そして、さらにわざとらしく目をそらしているメイド三人組がいて。
なんというか、それに気付いた俺たちは。
ハッとお互いから視線をずらした。
「仲のよいことで、よろしいのであります」とはフィリシア。
「今後ともこの調子でいて欲しいですね」とはアリス。
「旦那さまとアリシアさまにおかれましては、末永く仲良くあって欲しいです」とはユイ。
「そうだ」
と俺は言った。
「アリシア、それにフィリシア。キミらには俺がお金を手にしたらプレゼントを贈ると決めていたんだった。早速今から、街に出て買い物しないか?」
「ええ、あたくしはよろしくてよ。ダーリンからもらえるのならなんだって嬉しいですわ♪」 とアリシアは喜ぶが、フィリシアの方は、
「サトル殿にはそんなに気を遣ってもらわなくても構わないのであります。ネックレスをユイさん、アリスさんが受け取っていた場面を見て、たしかに私もうらやましくは思ったものですが、自分は新参者だし、エルフでもなかったのであります。サトル殿からなにかを受け取る理由などないのであります」
そう言って、固辞しようとした。
だが、俺は、
「だーめ。フィリシアはもっと甘えてくれ、俺に。俺はフィリシアに甘えて欲しい。だって、俺たちは仲間で、友達で、そして家族だろ?」
「……はい、ありがとうございます。それではお言葉に、甘えるのであります」
嬉しそうに、フィリシアははにかんだ。
それをユイとアリスは若干寂しそうに見ていた。
「ああ、そうだ、ユイ、アリス。俺はまだパルの街をよく知らないんだ。案内してくれないか? もちろん、報酬に何か買ってあげるよ?」
そう俺が言うと。
彼女たちもにっこりした。
「では行きましょうか」
「「はい♪」」
というわけで、今日は、買い物の日となった――。
ハチワレも許可をくれた。
アリシアたちの準備がすむと。
俺たちは街に買い物に出かけた。
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