第9章
side プリシラ
南端からサウスティンはそう遠くなかった。
サウスティンは海辺の街で、大きな丸くて回る何かや、や灯台をモチーフにしたタワーが印象的だった。
「しかしジークの運営してる施設ってどこだろな」ロベルトは言った。
「あの、すみません」わたしは子供を連れた女の人に声をかけた。
「ここにジークという、医療施設を運営している人はいますか?」
「ああ、光の園のお医者さんね。ここをまっすぐ行って、右に曲がって、右手にある薄ピンクの建物ですよ」
私たちは女の人にお礼を言って、施設に向かった。
「こんばんは。あら、ロベルトさんにプリシラじゃない」受付をしていたエレノアさんは言った。
「こんばんは。兄が奇跡の力で場所を教えてくれたんです。ジークさんに用があります」
「わかりました。急いでいるみたいね。ちょっと呼んでくるから、ソファに座っていて」
数分後、ジークとローゲが待合室に来た。
「プリシラ、それにロベルト。こんなに早く会うなんて驚いたよ。僕たちは施設を始めて腰を据えることにしたよ。今日はどうしたの?」ジークは言った。
「あの……兄が肺の病気で……兄は首都の司祭なんです。それで兄が、後継者にと、ジークさんを選びました。ユリア様のお導きで……」
「わかったよ。お導きだね。でも……司祭様の病気、私なら治せる気がするよ?」
「本当ですか?!」
「うん。だから一緒に首都に行くよ」
とジーク。
「今日はもう遅い。河を渡るなら今日はゆっくりしたら?」ローゲは言った。
「そうします。ありがとう。明日の朝また来ます」
夜。私たちは街を散策した。
「プリシラ、シーソルトチョコレートラテ飲むんだろ。シーソルトカフェがある公園は海辺だよ」
「わかりました。ロベルト。行きましょう」
私たちは散策しつつ、海辺の公園に行った。
タワーが立っており、丸くて大きくて回る何かもある。
「あの回っているのはなんですか?」
「観覧車。乗る?」
「乗るものなのですか?」
「うん。うふふ」
私たちはシーソルトカフェでシーソルトチョコレートラテを買って、観覧車に乗った。
「うわー甘いな」
ロベルトはそう言ったけど、シーソルトチョコレートラテはあまくてしょっぱい味がする。ほろ苦い味もする。私は結構好き。
観覧車はどんどん上に上がってゆき、夜の景色が見え始める。
「うわぁ……街の灯が星みたいです。ロベルト」
「うん……」
とロベルトは何か言いたそう。
「どうしたの?ロベルト」
「キスしたい」
「え?」
ロベルトはそのまま向かいの私の方へ行った。観覧車が傾く。
そのままロベルトは私にキスをした。
甘い甘い、味がした。
次の日、私とロベルトはジークと首都へ向かった。河を舟で渡った。
「お帰りなさい。プリシラ。ロベルト。それに、ジークさん、よく来てくださいましたね。ベッドの上からすみません」
お兄さまは言った。
「いえ、ユリア様のお導きです」
とジークさん。
「それで、ジークさん、あなたには司祭の後継になっていただきたいのです。このノートに全てのことが……ケホッ」
「司祭様、お言葉ですができかねます。すこしじっとしていてください」
そう言ってジークは、お兄さまの肺のところに手を当てた。大きな光に部屋が包まれる。
「司祭様、もうお苦しくないでしょう。完全に治ったはずです」
「……これは驚いた。予知の力がある私でもわかりませんでした。私の命を救ってくださりありがとう」兄は言った。
「ええ、司祭様を続けることができますね」
ジークさんは言った。
「ありがとうございます、ジークさん」
私は言った。
「ええ。それでは私はエレノアとローゲのところへ戻ります」
とジークさんは言った。
「ジークさん。あなたさまを聖人として登録させてください。神殿から支援もいたします」
と兄。
「ありがとうございます。大変光栄です」
ジークさんは兄の部屋でずっと話をしていた。
私はロベルトを自分の部屋に連れて行った。
「かわいい、部屋だな」とロベルト。
「はい。幼い頃、母が好んだように、レースのカーテンに薔薇の花々……私の好きなものばかりです」
幸せな気持ちで、わたしはロベルトとおしゃべりをした。
「俺はイースティンでまたヴァイオリン弾くつもりだけど……これからどうする?」
「私……私は……」
私は自分のやりたいことがわからない。
気落ちして夕餐の席に向かうと、そこにはミルクスープと白いふわふわパンが。
私は幸せな気持ちになった。
「うん。やっぱり店出せる」
ロベルトはパンを食べて言った。
店……そうだ……
「お兄さま、わたし、明日パン焼き係のマリーと一緒にパンを焼いてもいいですか?」
「ん?好きにするといいですよ、プリシラ」
私は次の日、マリーとパンを焼いた。
期待は確信に変わった。
「マリー、私とイースティンに来て!パン屋を開きましょう」
「なんですって?!」とマリー。でも嬉しそうだ。
時が経った。
ロベルトはヴァイオリンで稼ぎ、私はというと……
「お疲れ様です、社長」とマリー。
「プリシラでいいってば」
そう、私はパン屋を経営していた。
パン屋がおわり、
いそいそと愛の巣へ足を運ぶ。
「おかえり。プリシラ」
ロベルトは言った。
「新曲は進んでる?」
「ああ、いい感じだよ」
私たちはキスをした。
ロベルトはもう一度キスを降らせる。
「もう、なあにー?」
ロベルトはまたキスをする。
もう一度。そしてもう一度。
「んふふ」
ロベルトは嬉しそうに笑った。
「今日はキス魔だね」と、私。
「プリシラ、結婚して?」
「もちろんです」
自然な流れに私は即答した。
私たちは結婚式をあげることにした。
「えーと、スカーレットとシモン、アルノルド先生、エレノアとローゲ、ジーク……クリスさんご一家……あとは……」
ロベルトは連絡先を書いたノートを見ながら悩んでいる。
「古都のユヅキちゃんたちと、もののけ屋の店長さん、でしょ?」
私たちは招待状を書いていた。結婚式の準備も大変だ。
「プリシラ絶対ウエディングドレス似合うじゃん」
「ふふ」
「プリシラ、俺についてきてくれて、ありがとう。愛してる」
またロベルトは私にキスをした。
私たちの結婚式の日、首都の神殿で挙げられた。もうひとつの神殿は残念ながら経営がうまくいかず潰れてしまった。私たちの神殿からは受け入れなかったのであのおばあさんはどこに行ったのかはわからない。
正装をした兄、巫女たち、そしてはるばるやってきたスカーレットにシモン、アルノルド先生、クリスのご一家、子供たちもいる。家庭教師のジェーンさん。ジークとエレノアとローゲ。ユヅキちゃんにハルトさん。ヌマイさん。旅でお世話になった人たちが集まってくれた。
「おめでとう」
「ありがとうございます」
「お幸せにね」
「はい!」
フラワーシャワーをくぐる私は、
幸せそのものだった。
ジェーンさんが、わたしたちの旅の物語を本にしたのはそう遠くない未来だった。
おわり