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ペリドットの約束  作者: 冬咲しをり
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第7章

私たちは古都に降り立った。


「わぁぁぁ」


石畳が続く、異国情緒あふれる景色は、私の想像を超えていて、奥ゆかしく美しかった。


レースの不思議な服を着た女の人たちがフリルの日傘をして歩いている。その服はストンとしたデザインで、袖と腰の太いベルトはレースになっている。


「ロベルト、あの服はなんですか?」


「ん?レースの着物だな」


「キモノ?」


「うん。着物。隣国の移民が結構いる影響で、そっちの文化が根付いてるよ」


「そうなのですね」


歩いていると、ピアノの音が聞こえてきた。


行ってみると、レース着物を着た私と同い年くらいの女の子と、お兄さんがピアノを連弾している。お兄さんが伴奏をして、女の子は人差し指で旋律を弾いている。


「ストリートピアノか」


「ロベルト、参加しないの?」


「ふふ。行ってみるか」


ロベルトはその演奏にバイオリンで参加した。お兄さんと女の子は最初驚いた顔だったけれど、楽しく演奏を続けた。


人だかりができてきて、演奏が終わると大きな拍手が起こった。


ロベルトは女の子とお兄さんと握手をした。


「ありがとう」


プリシラも行って挨拶をした。


「初めまして。僕はハルト。こちらは妹のユヅキ」


「ロベルトです。こちらはプリシラ。首都から西回りで旅をしてきた」


「ねえねえハルト、この服なーに?」

ユヅキちゃんは見た目よりかなり幼い話し方で言った。


「ドレスだよ。首都では女の人はドレスを着るんだよ」


「へええ〜そうなんだ!プリシラ!ユヅキの着物、着る??」ユヅキちゃんは言った。


「えっ、いいのですか?」私はちょっとうきうきして言った。


「はい。では着替えてご飯でも行きますか?」


「行きたいです!」



というわけで、私は着物を着せてもらった。ユヅキちゃんはピンク色だけれど、私はブルーの着物を着た。袖から見えるレースと、帯のレースがお気に入り。


私たちはまず植物園に行った。


「薔薇、きれいだねぇ」ユヅキちゃんは言った。


「わぁぁ!こっちにはハスの池がありますよ!」


「ふふ。楽しんでもらえているみたいでよかった」とハルトさん。


「着物ありがとうございます」とロベルト。



次に行ったのはヌードルスープのお店“もののけ屋”だった。


麺をフォークですくっていただく。


「おいしい!おいしいね!」とユヅキちゃん。


「美味しいです!」


「それは良かったです」と、店長さん。

店長さんは絵本に出てくる怪物のような容姿をしていて、ユヅキちゃんは少し怖がっていた。


「すみません。人を探しています。フローラという女を知りませんか?」ロベルトは言った。


「フローラ……!」店長さんははっとして、何かを思い出したように口を手で覆った。


「まさか……手がかりが」私は言った。


「あれは10年前……私は容姿で差別され仕事にもつけず物乞いをしていました……しかし私に優しくしてくれる人がいて、名前をフローラと」店長さんは言った。


「その人はどこに」


「南端に行くと言っていたが……わたしはヌマイ。もし彼女に会ったらよろしく伝えてください」


「わかった。ありがとう」




その後ユヅキちゃんとハルトさんの家に行き、着替えた。



「今日は楽しかったです。お元気で」

ハルトさんは言った。


「こちらこそありがとうございました」



私たちは宿に向かった。



side ロベルト



「じゃあ俺、隣の部屋にいるから。なにかあったら呼んで」と俺は言った。


「わかりました」プリシラは自分の部屋に向かった。


「はぁ……」

俺はベッドに倒れ込み、手で目を覆った。


「フローラ……」

俺は過去のことを思い出していた。





「気持ち悪いわぁ」

「悪魔崇拝の人でしょ」

ひそひそ

ひそひそ


音楽院で気味悪がられるのは当たり前で、

早くに入学して大人になるまでずっといたからそれが普通だった。


「ロベルトーぉ!」バッ

スカーレットがやってきて俺を抱きしめた。


スカーレットは俺を気味悪がらない唯一の学生で、よく伴奏をしてもらっていた。


「ロベルト、あのね、院内リサイタルの伴奏のお礼だけどぉ」


「なに?」


「赤い花がいいなあ!」


「花?」


「うんっ!」



俺は柄にもなく花屋に向かった。



花屋に行くと2人の女性店員がいた。


「イタッ」と1人の店員。

「大丈夫?ちょっと見せて」

もう1人の店員が、手をかざすと光が生まれ、傷が治っていった。


奇跡の力だ……初めて見た。


俺は花を探した。赤い花……赤い花……


「何かお探しですか?」と、さきほど光を出していた店員が言った。


その人の吸い込まれそうな目に見惚れて、俺はその人をじっと見つめていた。


「もうっ。なんですか?私の顔に何かついてます?」


「いや」


「じゃあ何?」


「キレイだ……」


「はぁ?なによ。髪で顔を隠して」


「すみません」俺は髪をかきあげて笑った。


「あら、笑った顔がすごくかわいいね」


「俺はロベルト。あの、仕事終わったらお茶でもどうですか?」




俺たちは交際を始め、どんどん惹かれあっていった。


幸せで、演奏活動にも身が入った。


しかしフローラの両親の反対で、俺たちは結婚できなかった。



「母さん」


「なんだいロベルト」


「俺、フローラとかけおちするから、フローラの両親が怒鳴り込んできても、しらばっくれてくれる?」


「……わかったよ。これを持っておゆき」


「これは……」


「一族の宝の、ペリドットだ。約束してくれ。おまえは幸せになる」


俺たちは住むところを探して、あちこち回った。しかしあるとき、フローラは倒れた。


病院に連れて行くのが早く、なんとかなったが……


「フローラさんには手術が必要です。難しい手術で、手術代は安く見積もって金貨1000枚でお願いします」


「わかりました」


俺は演奏で稼いだ殆どの金貨を支払った。


手術は成功したと医者は言っていた。

しかし、退院の日、フローラは居なくなっていた。


イースティンに戻ると、フローラの両親が亡くなったと聞いた。それをいいことに、俺はイースティンで演奏活動を再開した。


手紙が来たのは、5年前のことだ。


“お久しぶり ロベルト

私はもう 長くないかもしれません

別に余命宣告されたわけではないけれど

奇跡の力でなんとなくわかるの

もう好きにすることにしました

ロベルトのことを忘れられないから

いっそのこと神殿で巫女をしようかな

なんてね

いつまでも愛しています では”


俺はフローラを探すことにした。




side プリシラ


コンコンコンコン




「ロベルト」


「なに?」

ロベルトはドアを開けた。


「ロベルト…….お兄さまが、病気だって……

宿屋の女将さんが言っていたの

司祭様が病気だって」


「プリシラ、ここから首都へは列車で一本だ。明日戻れ」ロベルトは言った。


「いやだ」あれ?私、今、いやだって言ったの?そして自制がきかずに、ぽろぽろと言葉が溢れ落ちる。


「ロベルト、私ロベルトのことが好きです。一緒に旅を続けましょう?ねえ、フローラって人はもう……亡くなってるかもしれないのよ?それなら2人で楽しく……」


「プリシラ」


ロベルトは私を抱きしめて、後ろから髪をかき分けて頭を支えた。そして唇で私の口を塞いだ。


唇を離して、ロベルトはブラウスの下に入れていたペンダントを取り出して私に渡した。


「プリシラ、お前は幸せになれる。約束だ」


「この宝石……私の目と同じ色です」


「うん。ほら。プリシラの家族はもうお兄さんだけなんだろ。行かないと」


「はい」私の目から涙が流れた。





「行くよ、プリシラ」


「はい」


次の日、私たちは最後の列車の旅に出た。新鮮だったボックス席も、もう見慣れた光景だった。

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