表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/190

零の闇

『黒零』は友香のリアクションを待たずして動き出した。詩穂の能力を取り込んでいるため、その移動方法は歩行ではない。足を使っていることに変わりはないのだが、距離を詰めるのであれば軽く跳ぶだけで済んでしまう。



「は───?」



 目の前に迫った『黒零』に驚き、開いた方が塞がらない。反応して防御しようにも今からでは間に合わない。


 結果、思考の暇すらなく飛び込むように地面へ転がった。『黒零』が黒光りする刀を振った時の「ブンッ」という音が転がった友香の耳に届いた。



「化け物かよー……」


「はぁ? 躱してんじゃねぇよ!」



『黒零』は友香を仕留めようとすぐに攻撃を再開した。友香は一刀両断しようと縦に振った刀を転がって躱し、すぐに立ち上がって包丁を振った。



「はっ!」



 そんな友香の攻撃に『黒零』は鼻で笑う。鞭のように伸びた包丁の刃をいとも容易く刀で弾く。すぐさま『黒零』は距離を詰め、横に激しく刀を振った。



「くっ!」



 友香は包丁で防御したが、吸い込んだ負の霊力は一回の攻撃を受けただけでかなり散ってしまった。


 だが、これほどまでの力を『黒零』が持つのであれば、敵意の矛先をミラクル☆アリサや詩穂に向ければ良い。友香は『友愛』を使って、矛先を逸らすことにした。



「同じ霊能力者として争うのはおかしくないかなー。お前を戦わせているあいつらこそ、倒すべきじゃなーい?」


「…………」



『黒零』の動きがピタリと止まる。まずは「霊能力者」という共通点で仲間意識を作れたものだと思い、友香は口角を上げた。



「……効かねぇな」


「───へ?」


「効かねぇ、効かねぇ、効かねぇんだよ! そんな小細工、効くわけねぇだろ!」



『黒零』が纏う『漆黒』の甲冑。それは相手の能力を無効化するためにある。『漆黒』に含まれる『拒絶』が、友香の『友愛』を『拒絶』したのだ。



「意味わからんしー」


「うるせぇよ」



『黒零』が笑いながら刀を振り回す。友香は防御に徹して反撃の隙を窺うが、包丁に取り込んだ負の霊力が霧散していくばかりで状況は好転しない。



「ははは! くたばれ、くたばれぇ!」


「邪魔、すんなよー!」



 妖しく光った包丁が霧散した負の霊力を尖った結晶へと姿を変えさせた。そしてその結晶は『黒零』に向かって飛んでいく。



「あぁ?」



『黒零』は見た目からではあり得ないほど俊敏な動きで結晶を切り落としていく。ただ切り落とすだけでなく、そのまま友香との距離も詰めていった。



「逃げられるとでも、思ってんのかよ!?」


「ひっ!」



『黒零』の化け物っぷりには畏怖すら覚える。友香を支配していたのは『友愛』ではなく恐怖だ。凶器を一本化させず、数使って攻撃すれば良いのかと霊能力を最大限に使って凶器を飛ばすが、全て切り落とされて歯が立たない。



「おらぁっ!」



『黒零』が素早くバツの形で切る。防御し切れない友香はついに攻撃を受けてしまった。



「はっ……」



 肉体にダメージはない。しかし『黒零』の黒光りする刀は『友愛』という能力を斬り、そして友香の意識も同時に断ち切る。


 立つことすらできない友香は膝と両手を地面に着けた。意識が飛びそうになるのを何度も堪えては息切れを整えようとする。



「終わりだぁ!」



『黒零』は刀の剣先を下に向け、そのまま友香に突き刺した。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『黒零』が友香を一方的に追い詰めている様子をミラクル☆アリサと詩穂はただ見ていることしかできなかった。


『黒零』を使うのは2回目だ。詩穂は一度見たことがあるので驚かないが、ミラクル☆アリサは変貌した零の様子にショックを受けていた。


 ミラクル☆アリサが詩穂の隣に並び呟く。



「何、あれ……」



『黒零』が罵倒しながら笑って刀を振るう。普段の優しい零からは想像できない姿を見て思わず呟いてしまったのだ。



「古戸さん……」



 ミラクル☆アリサは既に『友愛』から解放されている。本来彼女は零と共にあることを望んでいるので敵対は望んでいない。その想いがきっかけとなり、詩穂の『拒絶』が作用して『友愛』から解放されたのだ。


 彼女が驚くのも無理はない。詩穂はそう思った。だが、次に出てきたミラクル☆アリサの一言には目を丸くした。



「あんな零君……嫌」


「え?」



 これは戦いだ。良いも悪いもない。詩穂はそう割り切っているので、ミラクル☆アリサの一言が理解出来なかった。



「だって、あんなの零君じゃない。私の知っている零君は……」


「…………」



 確かに『黒零』を使っている時はまるで別人だ。それは詩穂も初見の時に思ったことだが、それを側から聞いていたはつは思わず吹き出してしまった。



「姉さん?」



 腹を抱えて笑っているはつを見て詩穂は困惑した。そしてその理由をはつは語る。



『いやぁ、ごめんごめん。そこな小娘の言うことが面白くってね』


「面白い?」


『うん。だって、あの姿も鷺森零そのものだからね』


「それは、そうなのだけれど」


『ははっ、いやいや、そのままの意味ではないよ。今の鷺森零は普段の不満が爆発しているだけなんだ』


「───え?」



 はつの言いたいことが余計にわからなくなる答えだった。零は確かに優しいが、気に入らないことはすぐに言う。不満を溜め込んでいるだなんて思えなかった。



『優しい性格だなんて所詮は表面的なものだ。物事に対してあまり怒らない者がいるのも事実だが、それは本当に気にならないというだけに過ぎない。鷺森零の場合、気にしないようにしているというのが正しい。そうやって作り上げた優しさを表面に出しているからこそ、押し込めた不満が性格として現れる。興味深いが、ある意味では恐ろしいものだ』



 そう解説しながらはつは笑顔でいる。彼女にとって『黒零』という能力の使い方、そして因縁のある鷺森家の末裔が感情と力任せに刀を振るっていると考えれば、笑みが止まるわけない。



「黒山さん、何を一人でブツブツ言っているの?」



 ミラクル☆アリサには、はつの声が聞こえないし姿も見えない。彼女からすれば、詩穂が独り言を言っているようにしか見えないのだ。



「……いえ、考えを纏めていただけよ。今の彼は、普段隠している彼の闇が表面に出ているの」


「零君の闇……?」


「ええ」



 何となくだが、亜梨沙には零の闇が少しわかった気がした。実際、零は詩穂に対して不満を抱えている。そしてその不満は解消されることなく、今も零の心には残っている。そうした不満の蓄積を闇とするのなら、詩穂の説明に納得できる。


 納得はできるが───。



「それでも、あんな零君を見るのは嫌。あんな形で発散するくらいなら、ちゃんと普段から寄り添って何とかしてあげたい。黒山さんは?」


「私?」



 ミラクル☆アリサは自身の零に対する想いを語る。そして詩穂がどう思っているのか訊ねるが、詩穂にはその意図が理解出来ない。



「私は別に。何であれ、敵を倒せるのなら何も気にしないわ」


「零君は武器なんかじゃないんだよ? 黒山さん、わかってる?」


「わかってるわ、当たり前じゃない」



 しかしそこに気持ちはない。詩穂は零をちゃんと「人間」だと認識しているが、重度の中二病患者と相対して倒したいのであれば、利用するのもされるのも仕方がないと思っている。


 そこがミラクル☆アリサとの決定的な違いだった。



「やっぱり、わかってないじゃん」



 ミラクル☆アリサはそう呟くことしかできなかった。


 詩穂にも十分聞こえる距離と声量だったが、彼女は反応しなかった。これ以上、この話をしても意味がない。詩穂はそう判断して言い返さなかったのだ。


 そしてそれは、ミラクル☆アリサも同様だ。感情を理解出来ない人に感情で訴えても意味はない。それからずっと、心配そうな顔で『黒零』を見つめた。

読んでくださりありがとうございます。大阪から帰ってきた夏風陽向です。


大阪といっても、新大阪駅付近でして。大阪を楽しみきっていない状態で帰ってきているわけですが、それでもたこ焼きが美味しかったので満足してます。


サブタイトルがすごく中二病チック……。

そのくせ、前作に比べたら「中二病らしさ」があんまりなくなってしまっているような気がしています。

まあ、主な視点が主人公たち寄りなので違和感ないかもしれませんが、彼らのやっていることは側からすれば「ヤバい人」だと思います。

ただ、そんなヤバい人の集まりで物語を書くわけにもいかないので「人しれず」が鍵なのかなと思ってます。


それではまた次回。来週もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ