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混乱誘発

 一方、詩穂は母である詩織が眠りにつくのを待っていた。玄関から家を出るとバレてしまうので、自室の窓から出ようとしている。


 しかし、詩穂は「ただ待っていた」というわけではなかった。そろそろ出発しろうかと思った矢先、様子を見に行った『はつ』が戻ってきた。



『ただいま、詩穂』


「姉さん! 向こうの様子はどうだった?」


『うーん』



 はつは見てきたものを全て語ろうか悩んだ。彼女にとって、零と友香……つまり、霊能者同士の戦いがとても興味深く映った。そのまま勝敗の行く末を見てこなかったのは、気になりこそすれど、詩穂のことも放っておけなかったからだ。


 重度の中二病という能力に限って話をすることにした。



『相手の能力が零達を苦しませているね。一般人の陰に隠れて能力を使っている者がいるみたいだから、なかなか有利にはなれなさそうだ』


「能力? それはどんな?」


『零の反応からして姿を変える能力にだろう。前に、防犯の映像と残留思念が食い違っていた理由じゃないか?』


「成る程。姉さん、急ぎましょう。場合によっては鷺森君との連携が必要かも知れない」


『……そうだね』



 はつはそれが『黒零』のことを指しているのだと思った。彼女にとって「表に出る性格すら変容させる現象」は興味深く、面白いものだからそれを見られるのが楽しみだった。


 詩穂はゆっくりと窓を開けて外へ出る。スリッパから靴に履き替え、スリッパを室内に入れた後、窓を閉めて道へ出た。


 このまま現地へ向かうだけではとても間に合わない。自身の身体的な限界を『拒絶』し、人の域を超えた速度で現地へと向かった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 友香にミラクル☆アリサから離れるよう言われた零は混乱した。声を発したのは友香のはずだが、その声と言い方はミラクル☆アリサのものだ。


 混乱した零は取り敢えず2人から離れて交互に見る。フルーレを握った友香はどこか焦っているようだが、ミラクル☆アリサの方は落ち着いて友香に敵意を出し続けている。


 ミラクル☆アリサが友香に襲い掛かった。その攻撃方法は『奇跡』による魔法ではなく、物理的な方法だ。服の襟に掴み掛かり殴ろうと右手を振りかぶる。



「ちょっ……今は相手してる場合じゃ!」



 友香の方はそう言いながら、どうにかミラクル☆アリサのパンチを防御する。今すぐにでも引き離したいところだが、相手の力が強くてなかなか引き離せない。



「えっと、何がどうなって……?」



 姿形、声と性格が入り混じっていて、零の脳内は今も混乱している。目に映るものを信じらならばミラクル☆アリサに加勢して友香を倒すべきだが、目に映る友香は敵に思えない。


 だがそれは、この戦闘においての経験上、友香の能力による洗脳に近い効果が出ているからにも思える。それこそが『友愛』の効果。体感した零だからこそ、彼女の能力が何なのかを理解していた。


 ならば尚更、ここはミラクル☆アリサに加勢して友香を倒す必要があるだろう。


 零は《現》のまま呼び出し機能を使い、刀身を木刀に変えた。この能力はあらゆるものを木刀に変える能力ではあるものの、強度そのものは元の素材に由来する。鉄パイプのようなものこそ能力の真価を発揮できるのだが、零の《現》も例外なく物理攻撃手段として十分な効果を発揮した。


 木刀を構えた零が迫り来る。ミラクル☆アリサの掴みと攻撃から抜け出せない友香はそんな零の姿を確認して咄嗟に叫んだ。



「魔法少女の娣子!」


「…………!」



 零が振り下ろした木刀は軌道を変えてミラクル☆アリサに向けた横薙ぎとなった。想定外の攻撃を受けたミラクル☆アリサはあまりの痛みに顔を強張らせた。



「痛いなー……」


「亜梨沙さんの姿に化けるとは。お陰で騙されるところでした」



 魔法少女ミラクル☆アリサは魔法少女ミラクル☆リリカの娣子である。


 それは梨々香失踪の事件に関わった者のみ知っている話だ。それを堂々と名乗れるのはミラクル☆アリサ本人しか有り得ない。


 零は友香の姿をしたミラクル☆アリサを庇うようにして前に立ち、木刀の剣先を向けて構える。



「ふーん……。流石に行動を共にしてるだけあってー、お互いにしかわからない情報もあるってわけかー」


「そういうことになりますね。亜梨沙さんが機転を利かせてくれたので助かりました」


「そっか、そっかー。でもお前、あたしが今まで捕まっていない人だって認識ー、薄くなーい?」


「え?」



 言葉の意味を理解する時間は与えない。零は背中に強い衝撃を受けた。



「ぐあっ!」



 吹っ飛び、転がる。何とか受け身は取れたので骨折は無さそうだが、攻撃を受けた背中と地面に擦った身体の至る所が痛む。



「ま、まさか……」


「その通りー。立ち位置、間違えたねー」



 零は背後にいたミラクル☆アリサによって攻撃を受けたのだ。自身が受けたことによって『友愛』を理解していたつもりでいたが、その効果はミラクル☆アリサにも影響する。


 零が受ける分にはミラクル☆アリサが正気に戻してくれるが、逆は出来ない。流石に零の能力に保存されたストックには「能力の効果を無効にするもの」はない。


 そうなる可能性を失念していたのは零のミスだ。何とか立ち上がって挽回しようとするが、背中の激痛でなかなか上手く立ち上がれない。



「脆い、脆いねー。あとはトドメを刺して終わりだねー。あたしの仲間が『瞬殺』と戦っている間にー、用事を終わらせるからさー」


「くっ……」



 友香は自らでトドメを刺したがるようなこだわりを持っていない。むしろ、味方同士で潰し合う結末がそれはそれで美しいと思っている。


 故にトドメはミラクル☆アリサに任せた。鷺森零こそ「倒すべき敵である」と『友愛』で暗示をかけられたミラクル☆アリサは黄色に輝く光をフルーレに集める。



「ミラクリウムチャージ!」


「亜梨沙さん! 僕だよ、鷺森零だ!」



 零は必死に自分が鷺森零であることをアピールする。それに気付けば亜梨沙の動きが止まると思ったからだ。



「うっふふ」



 しかしそれは大きな間違い。ミラクル☆アリサが零を零だと意識すれば意識するほど、その敵意は大きくなっていく。それに気付かず訴え続ける零の姿が滑稽だったので、友香は思わず笑ってしまった。


 ミラクル☆アリサは深く息を吸い込み吐き出しながら、弓を引くようにフルーレを握った右手を後ろに引く。



「亜梨沙さん!」


「スーパーミラクル☆アリサマジック!」



 強大な黄色の光が零を襲う。これを喰らえば、良くて気絶。最悪は死だろう。眩しい光に目を細めながら大技を喰らう。



「悪いけれど、思い通りにはさせない」



 聞き覚えのある声。待ちに待ったその人がいるであろう方向を見ようとした瞬間、ミラクル☆アリサが放った大技は『漆黒』に包まれて霧散した。



「えっ? 何が起きたー?」



 友香とミラクル☆アリサは倒れている零を凝視する。明らかにただでは済まない一撃だったはずだ。それを無効化できるだけの力を持っていたとは信じ難い。


 零の前に降り立つ詩穂。その姿を見て零は深いため息を吐いた。



「遅いよ、黒山さん」


「ごめんなさい、鷺森君。やはり、友香の能力に翻弄されたようね」


「予想出来ていたなら集合に間に合って欲しいな。大遅刻もいいところだよ」


「わかっているわ。遅れた分、ここから巻き返す」



 詩穂は高見の見物をしている友香を睨んだ。一方、友香は詩穂の姿を認めて納得が出来た。



「成る程ー。噂の黒山詩穂がやったなら納得だー。流石は全ての能力を無効化するだけのことはあるー」


「その通りよ。『友愛』の友香。私がここに来た以上、恋悟と同じく治療行きにするわ」


「ふーん?」



 恋悟や友香は『愛の伝道師』として一括りにされるが、仲間だというわけではない。お互いにその活躍(悪事)を知っているだけであって、目的が違う上に殆ど面識がないからだ。


 相対する詩穂と友香。


 しかし、これからだというところでパトカーのサイレンが鳴り響き、この祭もお開きであることを報せた。

読んで下さりありがとうございます。夏風陽向です。


何だかんだでアクセス数が気になって毎日チェックしてしまいますが、ここのところ誰かしら遊びに来て下さっていて、とても嬉しいなって感じてます。

たまにTwitterとかで見られるほど大きなアクセスはないけれど、それでも誰かしらに楽しんでいただいてるのが見えると、今まで書いてきて良かったなって思えます。ありがとうございます!


さて、本編の話になりますが……。

今回の展開はかなり悩みました。最初は零が絶対に間違えない展開で書いていましたが、なんか違うなと感じたので今回の展開になっています。

ただやはり、零に味方を攻撃させるようなことは出来なかったというのが本音であり、私の臆病な証拠です。


友香の能力そのものは結構単純ではあるものの、単純な能力こそ応用出来ると思っています。

意外と友香の能力を書くのは楽しいです。恋悟よりも楽しいかもしれません。


それではまた次回。来週もよろしくお願いします。

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