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『思念』と『奇跡』。対するは『友愛』

 大男と女子が潤と戦っている一方、友香は「姿を戻さず」零に対して本性を見せた。


 友香の計画にとって零の存在は邪魔だ。どうせここで倒さなくてはならないのなら、本性を明かしても関係ないと判断したのだ。


 殺害現場で出会った夜のこと。友香自身もあの時は驚いたのだから憶えている。



「……あたしの狙い、知ってるんだー?」



 一段高いところから見下ろす友香。零はそんな彼女を見上げて頷く。



「あの夜、貴方は残留思念で残った凶器を持ち去った。あれは……血塗られた包丁はあの事件で発生した怨恨が形となったもの。つまり貴方は、負の感情を集めて何かしようとしているんですよね」


「その何かー、まではわからないんだー?」


「正直なところ、狙いがわかりません。ですが僕は、貴方が殺人事件の黒幕だと思っています」


「えっ?」



 ミラクル☆アリサは目を丸くして驚いた。零の言っていることを疑いもせず、信じているからこそ、まさかこの場に殺人事件の黒幕がいるとは思ってもみなかったからだ。



「黒幕ー? あたしはただ、そこにあった怨恨を拾って行っただけなんだけどー?」


「偶々ですか? そんな偶然があるとでも?」


「偶然じゃないよー。事件が起こったのは皆が知っていることだからねー。その場に行けばー、拾えることくらい想像できるでしょー?」


「確かにそうかもしれません。だけど、貴方は能力を使って加害者を誘導したのではありませんか? 何故なら貴方は『友愛』の友香なのだから」


「いやいやー、あたしはあの件に関係ないってー」



 動揺を見せない。これはなかなか手強いと、零は思った。


 せめて友香と加害者である三啞の接点が生まれた場所さえ特定できれば、残留思念を読み取って証拠を突きつけることが出来るのだが───。


 それをやってこなかったことに悔やんだ。



「そんなことよりさー、話を戻さなーい? あたしの邪魔をさー、しないで欲しいんだけどー?」


「……貴方の狙いはわからない。それでも、誰かに危害を加えようと企んでいることだけはわかります」


「まあ、怨念とかを集めている時点でそれくらいはわかるよねー。だけどー、そういった意味ではお前も賛同できるんじゃなーい?」


「賛同……?」


「んー、だってあたしの狙いはさー、復讐だもんねー」


「復讐……」



 零はその単語を聞いた時、不思議にも「成る程」と思ってしまった。彼女の言葉に耳を傾けてしまう。



「わかるよー、お前の憎悪がさー。他の誰にもわからなくともー、あたしにはわかるんだよー」


「…………」



 憎悪。それは零にもある感情だ。ずっと隠してきたけれど、本当は自分を裏切った元相棒の女を憎んでいる。


 絶対的な力を得て、彼女に復讐したい。抑えてきた感情が友香の言葉で蘇ってくる。



「ほらー、一緒に復讐しようよー。きっとあたし達ー、同じ目的になるはずだよー?」



 よくよく考えてみれば、自らの役割などどうでも良いように感じてきた。そもそも鷺森家の責務など懐疑的だった。


 よくわからないうちに引き継いだ役割など放って、友香と一緒に復讐を果たす。それはとても魅力的で生き甲斐を感じるような気さえする。


 裏切った時に笑った彼女を、この手で壊してしまえるのなら、過去のトラウマを全て克服して歩き出せる。


 零は本気でそう思った。



「耳を貸しちゃダメだよ! 零くん!」



 ミラクル☆アリサが叫びながらフルーレを振るう。黄色の光が起こす『奇跡』は零の中に芽生えた復讐心を吹き飛ばした。



「あ、あれ? 僕……? ありがとう、亜梨沙さん」



 零が心の底から感謝を伝えると、ミラクル☆アリサは微笑んで返す。彼女が一緒にいてくれて良かったと、零は心の底から思った。



「あーあ、あと少しだったのになー」



 友香はそんな2人を見て、つまらなさそうな顔をした。動揺はわかりにくいが、つまらなさそうな顔はわかりやすく、どこか似合っていると零は思ってしまった。


 しかし、この経験でわかったことがある。



「今のでわかりました。貴方はミアという女性をこれで誘導したんですね!? 加害者にとって被害者は復讐の対象だった。被害者は殺されたことを受け入れていたはずなのに、血塗られた包丁が落ちていたのは、ミアという女性が被害者に対して抱いていた怨恨が形となっていたからだ」


「ふーん?」



 友香は感心した。まさかこれだけの情報で真実に辿り着くとは思わなかったからだ。仲間にできていたら、きっと優秀で役に立ったことだろう。



「残念だなー。友達になれると思ったのになー」



 友香は零を諦め、ここで始末することにした。彼が友香に抱く敵意でさえ、負の感情としては役に立つだろうと思った。


 友香の背後に色んな凶器が顔を覗かせる。零とは少し異なった霊能者である彼女は、負の感情が形となった凶器を自在に操ることができる。


 彼女は血塗られた包丁を選んだ。負の感情を吸い上げ、刀身が伸びる。


 もう戦うしかない。零もピンク色の携帯電話を《妖刀・現》へと姿を変えた。




「へー? 便利だねー?」


「そちらこそ」



 友香がふわりと飛び上がって降りてくる。そのまま上から血塗られた包丁を振り下ろした。


 それを零は受け止める。



「改めて自己紹介。あたしは『友愛』の友香だよー。あたしの復讐、邪魔させないからー!」


「僕は鷺森零。鷺森家の者として、友香さんを止めます」



 零の表情は真剣そのものだ。しかし、友香はまだどこか余裕があるようで笑う。血塗られた包丁の威力は想像を遥かに超えるほど重かった。


 どうにか力強くで零は振り払った。それで怯むこともなく、友香は血塗られた包丁を突きつけるが、零はそれも受け止めて切り払う。



「うんー?」



 友香はどこか違和感を覚えていた。他の霊能者と戦う経験はこれが初めてなのだが、血塗られた包丁と零の刀が触れ合う度に血塗られた包丁の伸ばした刀身が短くなっている。


 つまりそれは、零の持つ刀は友香本人を倒すためのものではなく、負の感情が変換されて霊的エネルギーとなっている血塗られた包丁を葬るためにあるということだ。


 それならば、殺害現場で出会った時、零が血塗られた包丁を切ろうとしていた理由に納得がいく。



「厄介だなー、その刀ー」


「気付いたところで!」



 今度は零が攻撃を仕掛ける。ミラクル☆アリサの『奇跡』による援護でいつもより軽やかで素早く動くことが出来る。


 袈裟斬りで一太刀。友香は背後から顔を覗かせる凶器を前面に出して防御した。鉄が硬いものに当たった時のような衝撃が凶器を襲い、震えて少し小さくなる。



「この結果は舐めていたと認めないとかなー。どうやらあたしだと相性が悪いらしいねー」


「僕がその凶器を全て切り落とします。もう少しお付き合い願いたい」


「はは、そうだねー。これならどうかなー?」



 再び友香が攻撃を仕掛ける。今度は右手に血塗られた包丁。左手に果物ナイフを掴んだ。


 それに対応しようと零は構えようとする。だが───。



「あ、あれ?」



 思ったように身体が動かない。それどころか、攻撃を受けて終わりにすることが正しいとさえ徐々に思えてくる。



「させない!」



 即座にミラクル☆アリサが『奇跡』で金縛りを解除する。間一髪のところで間に合って、零は血塗られた包丁による攻撃を防御できたが、左手の果物ナイフは間に合わない。



「くっ!」


「えいっ!」



 零の身が強張る。しかし、ミラクル☆アリサによる黄色に光る軌道が左手に直撃し、果物ナイフを弾き飛ばした。



「痛いっ!」



 想定外の痛みに怯んだ友香は後方へ跳んで距離を開ける。ミラクル☆アリサのことを「可笑しな格好をした変な女」としか認識していなかったが、想像以上に強敵だったので認識を改めた。


 零だけならともかく、魔法少女は邪魔だ。戦い方を変えるしかない。


 友香はミラクル☆アリサに向かって突撃した。黄色に光る軌道が襲ってくるが、それを何とか避けて掴み掛かる。



「なっ!」



 掴み合った2人がその場で転がった。ミラクル☆アリサにとって予想外の行動だったが、彼女を抑えてしまえば勝ちも同然だと思って力任せに押さえつけようとする。


 だが、転がって揉み合った後、ミラクル☆アリサは友香から離れて零の隣に並んだ。その手にはフルーレが握られておらず、気付けば友香に奪われていた。


 零を見て友香が叫ぶ。



「何してんの!? 離れて!」


「えっ?」



 零は困惑して隣に立ったミラクル☆アリサを見る。しかし、彼女も何を言われているのかよくわからないようで首を傾げた。

って、主人公がバリバリ戦ってるやないかーい!


……読んで下さりありがとうございます。夏風陽向です。


あんまり戦闘しない系の主人公を書くつもりが、役に立たないヒロインのせいで戦う羽目になってますよね。


とはいえ、主人公なのに戦闘中はセリフしか入ってこないというのは如何なものか。

例えば、零が頭脳+支援系の能力だったなら良かったかもしれませんが、そもそも詩穂の「漆黒』は他から干渉されない孤高の能力なので相方の能力としてはあんまり映えないんですよね。


零は調査に特化した能力を使うわけですが、その中で戦闘を単独で対象しなければならない場面もあるでしょうから、どうしても今のように戦闘要員となってしまうのでした。


それではまた次回。

来週もよろしくお願いします!

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