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《羅愚亡路苦》対《ドラゴンソウル》開戦!

 《ドラゴンソウル》の溜まり場は潰れたホテルの廃墟だった。ここはかつて「心霊スポット」として認識されていた場所で、近づいて来るのは肝試しに来る若者ばかりだったが、ここ最近はドラゴンソウルが溜まり場にしていることから「荒れている青少年の溜まり場」という認識が強くなった。


 溜まり場とは言ったものの、実は《ラグナロク》ほど、ドラゴンソウルはこの場所に集まっているわけではない。彼らの溜まり場として認知されていた一方で、実のところあまり人が近付かなくなったというのは地元に住む大人にとって、都合が良かった。


 それ故に、彼らは警察に通報されていないのだ。


 今夜はドラゴンソウルのメンバーが集結している。通話を終えた友香がすぐ横にいるリュウに声を掛ける。



「今ー、ラグナロクがこっちに向かってるってー」


「…………」



 リュウは虚空を見つめている。そんなリュウを見て友香が微笑む。



「トラがー、こっちに向かっているってことだよー? 決着ー、つけるんでしょー?」


「……わかっている」



 リュウは友香にそう言い捨てて、力強く一歩を踏み出す。老朽化が進んでいる床にはその音が響いた。


 メンバーが一斉にリュウを見る。彼らはリュウの強さやカリスマ性に心惹かれてここにいるわけではない。行き場を失った者たちと集まりというよりも、それぞれ因縁を持ち合わせた者たちの集まりだ。リュウの狂気じみた怒りの顔に彼らは共感と憧れを抱いてここに集まっているのだ。



「ラグナロクがここに向かっている! 時は来た、皆の苦しみを晴らす時が来たんだ! 勝って……勝って明日から明るく生きよう!」


「おおおお!」



 皆が一斉に右手の拳を空に上げる。さながら彼らは傍若無人の国家に反逆する民衆。苦しみから解放される日を夢見て、勝利を掴もうと自らを鼓舞する。


 ただ1人、友香だけは側からその様子を見て笑っていた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 バイクの排気音が鳴り響く。しばらく静寂に包まれていたはずの廃ホテルが騒がしくなったので近隣住民は窓から様子を見るが、すぐにカーテンを閉めて目を逸らした。


 受け継がれ、掲げられたラグナロクの旗は地元民なら恐怖の象徴として忘れもしない。その旗を見て「見なかったことにする」というのは自然な行動だ。


 歴史長いチームであるラグナロク。関わるとロクなことがないことは、その長い歴史から誰もが学んでいること。


 しかし正直なところ、昔に比べれば今のラグナロクはまだマシだ。無意味な破壊行動はトラが禁じているし、誰彼構わずに喧嘩をふっかけるわけでもない。真面目な生徒やサラリーマンから金銭を巻き上げるようなこともしない。極力、迷惑をかけないのが今のラグナロクだ。


 それでも長い歴史が刻んできたラグナロクの印象は良くなることはない。むしろ、そのOB達は決して更生したわけではないのだから、ラグナロクの恐怖そのものは健在している。


 廃ホテルに到着したラグナロクのメンバーはバイクから降りて、下から上へと廃墟を見上げる。


 メンバーが道を開けて、総長であるトラが前に出る。トラはこちらを狙っている敵の戦意を肌に感じた。ここが戦地になると確信した。



「ラグナロク参上!」



 周囲に響く声で名乗るが、反応はない。


 争う前に名乗りを上げるのがラグナロク流の戦いに対する礼儀であり伝統なのだが、トラは唯一この伝統だけは心から気に入っていた。


 反応がないケースは珍しい。名乗り返してくるか、下っ端が出てきて戦いに入るのがいつものパターンなのだが、そんな様子すら見受けられない。


 ならば、総長であるトラが発破をかけてやる必要がある。トラらしい、簡単な一言で。



「…………」



 トラは黙って廃墟に近付き、思いっきり扉を殴って吹き飛ばす。非現実的な威力と演出に、メンバーや扉の近くで待機していた敵が目を丸くするが、構わずトラが叫ぶ。



「続けぇぇぇ!」


「おおおおお!」



 喜びながら咆哮して攻め込むラグナロク。総長が前に出て突っ込むからこそ、メンバーの士気は上がっていた。


 扉付近で待ち伏せしていたドラゴンソウルのメンバーも数の暴力で無力化される。やがてフロントにたどり着くと、そこにドラゴンソウルのメンバーが固まっている。


 しかし、ラグナロクのメンバーは皆、ドラゴンソウルのメンバーを見て驚きを隠せなかった。それはドラゴンソウルのメンバーは誰もが不良だというわけではなく、比較的大人しい格好をした奴等が多かったからだ。そしてその手には鉄パイプが握られている。



「雑魚が群れて何やってんだー?」


「武器が無きゃ喧嘩の一つも出来ねぇのかよ!」


「だからてめぇらは舐められんだろうが!」



 ラグナロクのメンバーがそれぞれドラゴンソウルの在り方を非難する。ただトラは黙ってリュウを睨む。


 リュウは怖気付く様子を見せず、階段を少し登ってからラグナロクのメンバーを見下して叫ぶ。



「しーずーかーに!」



 雷のように落とされたその声を聞いて、思わずラグナロクのメンバーは静まった。リュウは言葉を続ける。



「ラグナロクの皆さん、俺たちドラゴンソウルのメンバーを見て、各々驚いていることだろう! 俺たちは皆、お前達に恨みを抱いている者だからだ! さあ、始めよう。雪辱を晴らす、歴史的な戦いを!」



 ラグナロクのメンバーはそれぞれドラゴンソウルのメンバーに知った顔がいることを認識すると、気持ちで後退りした。報復される心当たりがあるということである。


 しかし、副総長は違った。メンバー同士の隙間を縫って前に出てトラと並んだ。



「はぁ? 知らねぇな! 群れてないと報復出来ねぇような奴らなんざ、ありんこ以下だぜ? そんなありんこ以下にしてきたことなんか、いちいち憶えちゃいねぇよ」



 上半身を反らせて後ろに並ぶメンバーの顔を見る。動揺している顔が見えて、副総長は鼻で笑った。



「おいおいおいおい、なんだ。てめぇらその顔は? まさか、あいつらをボコすことにビビってるなんて言わねぇよな? 蚊を叩き潰す度にごめんなさいしてるなんて言わねぇよなぁ? 相手がなんだろうとラグナロクなら全力で潰す。いつだってそうしてきたろうが!」



 上半身を起き上がらせて、トラを見る。トラは獰猛な笑みを浮かべていた。そして副総長も笑い、最後の言葉を総長に託す。



「最高じゃねぇか。行くぜ、てめぇら!」



 総長と副総長が前に出て突っ込み、相手が武器を持っていようと振り下ろされる前に一撃で仕留める。ラグナロクのメンバーも互いの背中を守るように攻め込み、ドラゴンソウルとの戦いが始まった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 潤から連絡を受けた詩穂が家を出ようとする。だが、時間が時間なので母である詩織がそれを許さない。



「どこへ行く気? 詩穂?」


「…………」



 ちょっとそこのコンビニまで……なんて嘘を吐くことが出来ない。変なところでも真面目な詩穂は面と向かって詩織に告げる。



「いつも通り、無力化。今日はたまたまこの時間だというだけ」


「それは許さない。いつになったらわかるの? 詩穂がそんなことをしなくたっていい」


「でもお母さん。私には……」


「お父さんと私の力を受け継いでいる。そんなことは知ってる。それでも、そんな必要はないって言ってるの」


「私がこれをやらなきゃ、またお母さんのような被害者が増えるでしょう? だから私は戦うの。お父さんの意思を継ぐとかじゃなく、私自身が使命だと思っているから」


「違う。詩穂の使命はそんなものじゃない。詩穂は大人しく私の言うことを聞いて、普通の幸せな大人になる。それが詩穂の使命だから」


「…………」



 絶対に詩織は譲らない。重度の中二病とか関係なく、詩穂を思ったようにコントロールしようとする。



「どうして……私の言葉が届かないの……?」



 詩織は突然泣き出して崩れ落ちる。それを放って置けない詩穂も詩穂なのだが、自分の思い通りにならないと泣き出す詩織を面倒臭く思っているので、出来れば刺激したくなかったのが詩穂の本音だ。



「お母さん、私はここにいるから大丈夫。部屋に戻りましょう?」


「うん……うん……」



 詩織は詩穂に支えられながら立ち上がり、一緒に詩織の自室へと戻った。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 一方で、詩穂を除いた3人は現地に到着していた。残すところ詩穂を待つだけなので待機していたのだが、一向にやってくる気配がない。


 廃ホテルの中から怒号と衝撃音が聞こえてくる。どうやら戦いが始まってしまったようだ。



「零、ここはかつて心霊スポットとして恐れられていた場所だが、何かありそうか?」


「何も無いと言えば嘘になる。無力感と背徳感のような負の残留思念もあるけど、愛とか幸せの残留思念が大多数だから総じて今のところは何も無いって感じかな」


「わかった。他の敵は俺と魔法少女が相手する。お前は『友愛』の友香に集中しろ」


「うん。黒山さんは?」


「もう待てないだろ。俺達だけで攻めるぞ」


「…………」



 賛同は得られない。だが、これ以上待機していたら本来の目的を失いかねないのもまた事実。詩穂が来るのを待たずに3人は歩みを進めた。

読んで下さりありがとうございます。夏風陽向です。


更新時のやらかしにより、今回の後書きは省略。


その代わり、思いつきを久々に更新しましたので、そちらもよろしくお願いします。


それではまた次回。来週もよろしくお願いします!

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