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生まれ持った恥

Twitterではいつも通りに水曜で告知してましたが、

予約の日付を間違えてました……。


申し訳ございません……。

 零という存在がいてもいなくても、詩穂と沙希の関係性は変わらない。だが、零がいたことによって避けていた話題が沙希にはある。



「彼に透夜のことは話していないのね」


「はい」


「梨々香の保護に関わっている以上、避けられないことだと思ったのだけれど……」



 沙希は詩穂の父親……透夜を通じて梨々香との面識がある。明確に友人だというわけではないが、同じ重度の中二病患者を無力化していた立場としての仲間意識はある。


 梨々香の失踪については沙希も気に病んでいたし、いくら大企業の令嬢とはいえども、そこに力を注げるだけの余力はないので何も出来ないことに歯痒さを感じていた。


 それ故に、梨々香の発見と保護に至る経緯は聞き及んでいる。梨々香と詩穂の関係性には必ず透夜が関わってくるのだから、自ずと知られるものだと沙希は思っていたのだ。



「失踪の経緯には透夜が関わっているのでしょう? 彼を独占している私も原因の一部だと言っても過言ではないけれど」


「いえ、そんな。沙希さんには本当に父がお世話になっていると思っています。そのお陰で私と母は今日まで生きてこれているのですから」



 詩穂は気を使ってそう言っているわけではない。この言葉は心からの本音だ。高校在学中に親となった透夜は稼ぎを得るのにもっと苦労してもおかしくなかった。


 だから本音の感謝を沙希に対して面と向かって述べた。


 しかし、零のことを言う時には意識することなく窓の外へ視線を向ける。



「鷺森君はまた別の事情があって、梨々香さんの時間に関わっています。父のことなど、鷺森君が知らなくたっていい、そう判断しました」


「それはどうして? 関わっている以上、知る権利はあるはずよ?」


「わかっています。でも、知られたくないんです」



 詩穂は零に対して、事情への介入をわかりやすく拒絶した。その自覚はあり、零の知る権利についてもわかってはいるから申し訳ないという気持ちも確かに持っている。


 だが、それよりも自分の事情を恥じて知られたくなかった。


 父のだらしなさ。母の狂気。それらを恥じているからこそ、零にだけは知られたくなかったのだ。


 沙希にもその気持ちがわからないでもない。だがそれは、詩穂にとって零の存在がある意味で「特別」だということを意味する。


 詩穂の持つ能力『漆黒』は『拒絶』と『黒』という異なる能力が混ざり合って出来た能力であり『拒絶』を含んでいる以上、能力の効果を強めたいのなら、詩穂に対するあらゆる人の思いを拒み続けなければならない。


 だから、詩穂の零に対するその思いを口にするわけにはいかなかった。



「何とも、不便な話ね。それを言葉に出来るだけで無駄なすれ違いも回避出来るというのに」


「言っても仕方のないことです。理解出来なくても、してもらえなくても、私のやることは変わりませんから」


「そうね……」



 不器用な生き方を強いられる詩穂。例え、好きな人と、自分ではない他人の間に出来た子供だとはいえ、そんな詩穂を沙希は愛せずにいられなかった。



「詩穂ちゃん、私は味方よ。いつも言ってるけど、困ったら遠慮なく頼りなさい」


「はい。ありがとうございます」



 話をしている間に、車は詩穂が住む家の近くに来ていた。母である詩織からは見えない場所に車が止まる。



「詩織は、元気かしら?」


「元気ですよ。お陰様で変わりはありません」


「…………」



 詩穂からすれば、母である詩織は「昔から束縛が強く、ヒステリー持ちだ」という認識がある。


 しかしそれは違う。かつては明るく、少し気の強いしっかりとした女性だった。沙希は高校時代に詩織と出会っており、重度の中二病患者で構成された犯罪グループ《クリフォト》によって詩穂や他の4人が誘拐・監禁された際、彼女らの救出作戦にも参加していた。


 高校在学中に妊娠して詩穂を産んだ結果、愛する透夜と引き離されてしまい、育児の負担を殆ど一人で担うことになった。


 そんな人生の理不尽……思い通りにいかないばかりだったことから詩織の精神が病んでしまったのが真実だ。


 そんな詩織からすれば、沙希という存在は「かつての友人ではあるが、愛する人を奪った女」という認識があり、顔を合わせれば詩織は沙希に激昂するだろう。


 実際、過去に沙希が詩織の元へ訪れた際には、高校時代の性格が霞んでしまう程に変わってしまった詩織から怒鳴られている。


 確かに、今の状況を良いことに透夜を独占しているところはあるので、後ろめたくはあるのだが。



「沙希さん、送ってくださりありがとうございました」


「いいえ。こちらこそ、私達のような大人のせいで苦しい思いをさせてごめんなさいね」


「そんな……。沙希さんには助けて貰ってますから。今後も父のことをよろしくお願いします」


「ええ。それでは、またね」



 詩穂を下ろして沙希が乗った車は去っていく。車が見えなくなるまで、詩穂は頭を下げていた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 夕飯時も終え、人々は翌日に備えて寝る準備をする頃。


 《ラグナロク》のメンバーはいつもの溜まり場に集まっていた。すでに招集の理由は誰もが知っており、別のチームを相手に攻め込む決意を固める「決起集会」の為に集まったメンバー達は、怒りと緊張、そして楽しみでいつもと違う雰囲気にチームは包まれていた。


 皆揃って決まった列に並ぶ。特に分隊しているわけではないのだが、いつもつるんでいるメンバーで固まって統制が取れているのが《ラグナロク》の特徴だ。



「トラ、時間だぜ?」


「おう」



 副総長に言われて頷き、トラは一段高いところへ登ってメンバーを見下ろす。廃工場だということもあって、空気はお世辞にも良いとは言えないが、メンバー達の尖りつつもまとまった雰囲気はとても心地の良いものだった。



「みんな、待たせたな! ついに戦争をおっ始めるぞ!」



 待ちに待ったこの時が来た。メンバーは大声を上げて盛り上がっていることを示す。



「敵は《ドラゴンソウル》だ。ちょこちょことちょっかい出してきた新造チームなんざ、相手にする価値もねぇと思って見逃してきた。だが! そろそろヒヨコチームにお仕置きしてやんねぇとだよな!?」


「《ドラゴンソウル》潰すぞ!」



 大声を上げる者、強く地面を踏みつけて音を鳴らす者。盛り上がりの見せ方は人それぞれ。だが、戦意だけは皆統一している。



「いつやるか? 今しかねぇだろ! てめぇらついてこい!」


「総長に続けー!」



 皆、バイクに跨って移動を始める。トラは既にドラゴンソウルの溜まり場を割り出していた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 鷺森露によって霊能力を植え付けられたとはいえ、元々強い霊能力を持っていたわけではない零には、歴代の鷺森家当主のような力は発揮できない。歴代の当主は自らの力で広範囲にわたって「この世ならざるもの」の存在を察知していたが、零が察知できる範囲はずっと狭い。


 つまりは、自分が察知できる範囲で異変が起こらない限りは鷺森家の務めを果たせないということである。一方、戦う能力こそ継承して失っているけれども、祖母である霰には今まで通りに広範囲の異変を察知できる能力があるので、祖母から報せを受けて向かうということも珍しくはない。


 ただ、それはどのタイミングなのかはわからない。だから能力を高めるための正装を身に纏っており、その時が来るのを自室で待っていた。


 零が母の遺品でもあるピンク色の携帯電話を操作し、電話帳を開く。そこには生前、母が連絡を取っていたと思われる色んな人の名前があり、ずっと下へ下げていくとバグでまともに読めなくなったような文字が並んだリストへと辿り着く。それは零がストックしている吸収した能力のリストである。


『友愛』の友香と戦う前に、ある程度戦闘を重ねることになるであろうことは予想できる。純粋な暴力ではとても太刀打ちはできないだろうから、相手に致命傷や後遺症を残すようなことのないように、弱めの能力で応戦する必要があるだろう。


 改めてどんな能力があったか確認をしようと眺めていたのだが、その最中に零のスマートフォンが鳴った。



「……もしもし、潤?」


『やつらが動き出した。俺は黒山に電話をするから、零は魔法少女に連絡を頼む』


「わかった。場所の情報、送ってくれ!」


『すぐやる』



 必要最低限の通話を終わらせ、すぐにメッセージで位置情報が届く。それを同じように亜梨沙へ送った後、電話を掛ける。



『動き出したんだね』


「うん。察しが良くて助かる。現地集合で大丈夫?」


『大丈夫!』


「ん、気を付けて!」


『鷺森君もね!』



 零は通話を切って、すぐに外へ出た。

読んでくださりありがとうございます。夏風陽向です。


寝落ちしてしまって、起きた途端に足がつりました。


めちゃめちゃ痛いです。

それではまた次回。来週もよろしくお願いします!

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