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トラの決意

 今のところ零には取り急ぐ用事はない。トラとミアのことが気になっているものの、お昼に話したばかりだ。これから調査するところだろう。


 用事を持たない零も亜梨沙は逃さない。



「零君、今日は何か用事ある? 無ければ一緒に帰ろ?」


「うん? 僕は構わないけど……。友達と一緒に帰らなくて大丈夫?」


「いつも帰ってるから大丈夫! 今日は零君のところに行くから先に帰って貰ってるし」


「ああ、そうなんだ。……って、友達に僕のこと話してるの?」


「ん? うーん、まあね!」



 かつて潤が零に話したように、学年内で亜梨沙を知る生徒の間では「亜梨沙と零が付き合っているかも?」という噂が流れている。


 その噂によって亜梨沙も友達に揶揄われているのが現状だが、それを知られるのが恥ずかしくて微妙な反応になったのだ。


 とはいえ、ここで一緒に帰ればある意味で噂が真実だと裏付ける要素になり得ることを亜梨沙は気付かない。それは亜梨沙が噂に対して「嫌だと思っていない」という心理が現れている。


 零と亜梨沙は教室を出た後、亜梨沙の教室にも寄って鞄を取って行き、それから学校を出ようと昇降口に向かう。


 その途中で歩いてくる詩穂の姿が見えた。互いに存在を認識し合い、少しの間だけ目が合った。



「あ、黒山さんだ。やあ、黒山さ……」



 零がそう呟いて彼女に挨拶しようと声を掛けてた。だが亜梨沙は何も反応せず、一方で詩穂も目を逸らして挨拶を受け取ることすらなくすれ違って去っていった。



「ん?」



 そんな詩穂の様子に違和感を覚える零。しかし亜梨沙としてはどこか「抜け駆け」をしているような気まずさを感じていたのが本音だった。



「えっと、無視された……?」


「黒山さんも急いでいるんじゃないかな? 色々と忙しいだろうし」


「まあ、それもそうか。そういう日もあるよね」



 それで納得してしまう零の不思議な鈍感は置いておくにしても、すれ違った時に詩穂はどう思っていたのか。それは亜梨沙も気になったところだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 トラは零からの情報を受け、幼馴染である四啞(シア)と連絡を取って、再び彼女の家へと向かっていた。


 幼馴染であるトラ、リュウ、シアの3人はそれぞれ進学先の高校が異なっている。そもそもトラとリュウは成績が悪く、シアと同じ高校には行くことができない。そしてトラがリュウと同じ学校を選ばなかったのは、シアと結ばれたリュウを見送るのが心苦しく感じると予想していたからだ。


 シアは既に帰宅済み。呼び鈴を鳴らすまでもなく、携帯端末で到着のメッセージを送るだけで済む。


 じき到着するのでメッセージを入力しかけたところでトラの指が止まる。後方から感じる害意に体全身が反応したからだ。


 振り向くと同年代の男が2人立っている。2人ともドラゴンの刺繍が入ったジャケットを着て、金属バットを持っている。



「…………」



 目が合ったものの、2人は気付かれたことに驚かなかった。それどころか、片方が大声で問う。



「ラグナのトラだな!? てめぇをここでぶっ潰す!」



 直後、トラは頭にきて苛立ちながらも言葉を返す。



「うるせぇな声がでけぇんだよ。つーか、男なら喧嘩くらい素手でやれや。んなこともできねぇのか?」



 2人は聞く耳を持たない。特に合図もなく金属バットを構えてトラに襲い掛かった。


 武器を持つ相手2人に対して、冷静な対応をするのであれば逃げるべきだろう。しかしトラには「金属バットにも勝る武器」がある。



「グアアッ!」



 トラの口からは人間が出せるとは思えぬ虎の鳴き声が出る。その直後、半透明の大きな虎が横から2人を襲った。



「うわっ!」


「ぬあっ!」



 あまりの力強さに押し倒され、金属バットを手放してしまった。半透明の大きな虎が素早く2本の金属バットを咥えて回収し、トラの横に並んだ。


 トラが半透明の大きな虎を撫でる。



「流石は相棒。よくやった! ───さてと、こっからが喧嘩の本番だぜ?」



 2人はどうにか起き上がり、トラに対して素手で対抗する。だがそれも虚しく、組織の頭であるトラには手も足も出ない。



「オラ!」



 腹を殴られて衝撃が肺に届き咳き込む。もう片方は蹴りが顎に当たり、脳震盪で倒れた。


 苦しそうに咳き込む相手の前にしゃがみ、トラは問う。



「てめぇらドラゴンソウルだな? リュウの指示か?」


「ゲッホッ! 全面戦争だぁ」


「あぁ?」



 どうにか呼吸を整えた相手は立ち上がり、仲間を起こす。トラはそこを攻撃することもしなければ手伝うこともしなかった。



「てめぇは狙われてる。せいぜい気をつけるんだな!」


「…………」



 去っていくのを見送った後、トラは改めて携帯端末を取り出した。シアへ連絡する前にやることがある。


 メッセージを送るのではなく、電話を掛けた。



『おう、トラ。どうした?』


「ドラゴンソウルに襲われた。皆は無事か?」


『マジか!? 今のところそういった報告は上がってきてねぇが……』


「全面戦争とかほざいてやがる。仲間には必ず誰かと行動するよう伝えろ。メンバー以外、この件に巻き込まねぇよう徹底も忘れんな」


『ああ、わかった。……もう流石にダンマリは通じねぇぞ?』


「わかってるさ。近々、ドラゴンソウルをぶっ潰す」


『ようやくかよ』


「ああ。召集掛けるから、それまで待て。やられんなよ?」


『ああ、伝えておく』



 電話を切り、本題であるシアへメッセージを送る。


 再び歩き出した先には家の前で待つシアの姿があった。既に制服から私服へ着替えていた。



「どうしたの、トラ? 部活だって休んで来たんだから」


「ああ、悪りぃな。ミアと話をしてぇ、出て来れそうか?」


「ちょっ、私を呼んでおいてそれ? ……流石に無理だよ。わかってるでしょ?」


「そうだよな。……最近、ミアが家を出るようなことなかったか?」


「えっ」



 シアが目を丸くして驚いている。一見それは引きこもりである姉が出てきた可能性に対して驚いているように見えるが、それは違う。



「どうして、トラがそれを知っているの? お姉ちゃんはトラと会っていたの?」


「いや俺じゃねぇ。でもやっぱ、ミアは外に出てたんだな……」



 まだ事件に関わっているという明確な証拠はないし、行く先がわかっているわけでもない。この様子ではシアもその行く先までは知らないようだ。


 だが、今までコンビニにすら行かなかったような引きこもりが、急に「ちょっとそこまで感覚」で外へ出るだろうか? 余程の用がない限りは外に出ないだろう。


 それは、誰にも頼めないような、自分にしか出来ない用事が───。



「お姉ちゃん、ある夜に珍しく家から出たようなんだけど、その日以来もっと酷くなっちゃって……。話すらしてくれなくなっちゃった」


「…………」



 シアはわかりやすく落ち込んでいる。だが、一方で期待するような声でトラに問う。



「お姉ちゃんが出掛けた理由、トラは何か知ってるの? 知ってるんでしょ?」


「まあな……。けどよ、ミアがそうなったのは殺人事件が起きてからなんじゃねぇか?」


「えっ!? 確かに時期はその辺りだけど……まさか、お姉ちゃんが関わってるって言うの!?」


「まだわかんねぇ。そもそも刺された奴とミアに接点があるとは思えねぇしよ……」



 そこまで言ってトラはふと思う。もっと言ってしまえば「何故、ミアが不登校になったのか」をトラは知らない。自分よりも学年が上だったし、シアのように仲が良かったわけではないのでただの事象として受け止めていた。



「シア。ミアはどうして外へ出られなくなった? 俺はそれを知らねぇ」



 考えてみれば被害者はラグナのOBなので、現在のリーダーであるトラは被害者の年齢を知っている。そしてそれが、ミアと同い年だということに気が付いた今なら「接点の生まれる可能性」がゼロでないこともわかる。


 もしもその予想が事実となれば、展開として最悪だ。被害者は正直なところ「女性に恨まれてもおかしくない」人生を送ってきている。


 シアは「何を今更」と言わんばかりに淡々と最悪の答えを述べる。



「好きだった人に彼女が出来たからでしょ。その好きだった人はモテる人だったから、お姉ちゃんもライバルから嫌なことされたらしいし」



 確かに大人しいミアが派手な被害者へと好意を寄せ、それが周りに知られれば、あまりの身の程知らずにいじめられる可能性だってある。



「お前は、その好きだった人と会ったことあるか?」


「あるわけないじゃん。私達、小学生だよ? 中学生の恋愛事情とか入り込めないよ」


「それもそうだよな……」



 普通、小学生からすれば中学生が恐く見える。トラはそこに当てはまらない例外だったものの、シアは至って普通の女子だ。



「え、待って。もしかして、被害者はお姉ちゃんが好きだった人……? お姉ちゃんがあの夜、その人を刺したってこと……?」



 ここまで情報が揃えば、その結論に至ってしまうのは自然な流れだ。しかし、まだ現段階で決めつけるわけにはいかない。



「落ち着け、シア。まだ決まったわけじゃねぇ。刺されたのはうちのOBだからな。この件については俺に預けろ」


「で、でも……。警察ならすぐにわかるんじゃ……?」


「どういうわけかミアの存在はまだわかっちゃいねぇ。後輩にサツと繋がりのある奴がいるんだ。動きがありゃ、そいつがすぐに知らせてくれる手筈になってる」



 実際はそこまで約束したわけではないし、零がミアのことを警察に話さない約束も守られ続けるとは限らない。ドラゴンソウルのことも対処しなければならないし、一気に色んなことがのしかかってきてトラは頭痛を感じた。



「わ、私はどうしたら……?」


「お前は何もしなくて大丈夫だ。俺が……俺とリュウが何とかする」


「リュウも関わってるの?」


「いや。けど、俺がリュウと協力して何とかする。へっ、俺達2人が組んでヘマしたことあったかよ?」


「それはあるけど……でも、何とかなってきたよね」


「ああ。だから安心しろ。そんでこのことは一旦忘れろ……な?」


「……うん」



 トラは小さく頷くシアの顔を見た後、沈みゆく夕日を見つめた。


 シアは運動部に所属していることもあって、髪は少し短くしている。だからこそ彼女の表情は見えやすいのだが、そんな彼女を好くトラとしては愛おしくも気恥ずかしく感じる。


 こうしてこの時間を2人で過ごすのは久しぶりのことだ。ずっと自分の手で彼女を守れたらと思うが、リュウの為にもそれを望んではいけないと言う自分もいる。


 この件が片付いたら、もう一度だけ。もう一度だけシアとこの時間を過ごそう。何も心配事がなくなり、笑って穏やかに過ごせたらきっとそれはすごく幸せな時間だろう。


 トラは沈みゆく夕日にそれを誓った。



「じゃ、俺は行くわ。またな、シア」


「うん。またね、トラ」



 彼女の表情を曇らせる心配事は取り除く。その為にトラは動き出した。

読んで下さりありがとうございます。夏風陽向です。


先日、久々にドラえもんのとある映画を見まして。私が小学校1年生の時くらいのやつです。

まあ、声優さんが変わる直前の映画ですので昔の声を楽しめたわけですが、いいですよね。

「今よりも昔の方がいい!」と思っているわけではなく、今と昔では味わいが違うといったところでしょうか。


個人的に一番わかりやすいのは、のび太君だと思います。

昔ののび太は「優しさ」というのが全面的に出ていたように思えます。基本的にいじめられ役となってしまうのは、相手を傷つけてしまうことを無意識に避けているような、そんな感じです。

だから、各映画の作品で出てくるキャラクターと寄り添って苦難を乗り越える。そして仲間が増えていくように思えます。

思いやる優しさが温かくて思わず涙します。


一方で今ののび太君から感じるのは「勇敢さ」です。

友達思い、仲間思いなのは変わりませんが、こちらはどちらかというと勇者に近い気がしてます。

自分や仲間のピンチを前にしても諦めない。悪い状況を打破しようとする姿は少年漫画の主人公としては理想なのだと思います。彼が勇敢に立ち上がる姿に格好良さがあって、そこに感動します。


私はどちらも好きですが「こっちの方が好き」という意見も決して間違いではないと思います。

むしろ、国民的アニメのキャラクターに望むキャラクター像があるというのは、キャラクターに対する愛だと思うからです。


さて、その繋がりで歴代映画の主題歌を調べて聴きました。これもまた懐かしい!

自分が生まれるより前の作品も多くあるわけですが、幼少期は父が買ってきてくれたドラえもん映画のVHSを観て過ごしていましたので、それなりに知っています。

どれが一番好きかと問われるとまた難しい。

でも多分、沢山繰り返して観たのは「アニマル惑星」か「ブリキの迷宮」だったと思います。


それではまた次回。来週もよろしくお願いします!

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