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悩めるトラ

黒崎真音さんのご冥福をお祈りします。

 零はトラに連絡し早速、昼休みに落ち合う約束をした。零が2年生の教室がある3階へ行くと変に目立ってしまうので、教室で待つようトラに指示された。


 普段であれば零は潤と昼食を食べる。だが今日はそれが出来ないのでトラと落ち合うことを話した。


 潤が呆れたような顔で言う。



「もう何回目かわからないが……。また妙なことに首を突っ込んでるだろう」


「うんまあ。僕は僕の役目を果たす為に動いているつもりなんだけど、そこにはどうしても重度の中二病が関わってくるようだね」


「黒山も最早わかっていてお前を巻き込んでいるようにしか思えんがな」


「そうかもね」



 あまり深く考えていないように見える零を目の当たりにして潤は深く溜息を吐いた。



「わかってるのか? お前はあの時から何を学んだ?」


「…………」



 重度の中二病患者が起こす事件に関わり続けるということは、ある意味でトラウマと戦っていくということでもある。裏切られたかつての経験から、重度の中二病患者が起こす事件に関わってはいけないのだと零は学んだはずだった。



「わかってはいるよ。ちゃんと、自分に出来ることと出来ないことは分別しているつもり」


「重度の中二病患者を相手取るなら黒山に任せればいいし、最悪は俺がいる。引き際はちゃんと見極めろよ?」


「……うん」



 潤が零を心配しているというのは事実だ。だが、かつて裏切りを経験し、意気消沈とした零を励ましてきたのはずっと近くにいた潤だ。当時の苦労を無駄にして欲しくないという気持ちは強い。


 流石にそんなことは言えないし、零に理解して貰えなくてもいい。ただ「自分の心身は自分で守れ」ということを意識してくれれば、防げる問題なのだ。


 そうこう話をしているうちに廊下が静まり返る。それは皮肉にも「関わってはいけない怖い先輩」として1年生に認識されているトラが現れた証だ。



「……それじゃ、僕は行くよ」


「ああ、気を付けろよ。あと、ちゃんと授業には戻ってこいよ」



 半分本音だが、半分は冗談。笑みを浮かべながら言われた言葉に、零も笑顔で返した。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 トラは下級生からの視線を気にすることもなく、零と気さくな挨拶を交わして一緒に階段を降りていく。やがて昇降口に差し掛かり───。



「ちょっと待ってください? また校外に出るつもりですか!?」


「当たり前だろ」


「いや、校則……」


「んなもん気にすんな。何の為にあるのかわかんねぇ校則なんか守る価値ねぇよ」


「えぇ……」



 校則とは破る為にある。


 というのは勝手な理屈であり、そこに意味などわからなくても校則は守らなくてはならない。重要なのは「校則を守ること」そのものではなく「ルールを守って生活する」ということなのである。


 校則そのものとは小さい世界のルールであり、社会では社則などに加えて法律も守らなくてはならない。


 それを予め練習させているようなものなのだが、トラにとってはそんなこと関係ないようだ。それは自己責任となるわけだが、零にもそれを強要するのは間違っているだろう。


 しかしそれに気付かない。むしろ「話し合いのテーブルに着く」という意味では、零がトラの言うことを聞かなければなない。


 渋々、零はトラについていった。


 上履きのまま外を歩き、トラが零に問う。



「そういや、お前って結構モテるんだってな?」


「え? なんですそれ?」


「あ? 自覚ねぇの? かの有名な黒山って子と、もう1人可愛い子に挟まれてるらしいじゃねぇか?」


「…………」



 固有名詞が出てきたので、それが詩穂と亜梨沙のことを指しているのだとわかった。だがそれは誤解であり、実際にそんな関係ではない。


 否定するのは簡単だが、零は訂正するようなことはしなかった。ちゃんと事実を伝えれば、それは校内男子にとって都合の良い事実だから確実に信じてもらえるだろう。


 しかし、その情報をきっかけに2人を狙う男子生徒が現れたら?


 それを考えた時、零は不思議と「嫌だな」って思ったので敢えて訂正するようなことはしなかったのだった。



「お? 図星か? ははっ、やるじゃねぇか。……けどまあ、半端なことすんなよ? 男だったらただ1人って決めて守り通せ」


「……トラ先輩にはそういった人がいるんですか?」



 トラの助言には何か含みがある。零はそう思ってトラに尋ねた。


 しかし、トラの表情は何か考え込んでいるようなものだった。それはとても甘い青春を連想させるものではない。



「……仲間とはあんましこういう話出来ねぇけど、俺はなんつーか、身を引いてるっつーか」


「…………?」


「幼馴染で好きな女がいんだよ。けど、男でもう1人幼馴染がいてよ……そいつもその女が好きだから、任せようと思ってよ」



 普通なら照れくさそうな話す内容だというのにも関わらず、トラの表情は変わらない。零が話そうとしている内容とは直接関係ないように思えるが、どうしても気になって詳しく聞きたくなる。



「何だか深刻な感じがしますね。トラ先輩の幼馴染2人は上手くいってないんでしょうか?」


「……まあな。女の方はともかく、リュウ……男の方が何を考えてるのかわかんねぇ。例の事件とは無関係だってわかって安心したけど、なんか最近のあいつがよくわかんねぇんだよな」



 その話を聞いて零は点と点が繋がったように感じた。


 残留思念で「犯人が女性」だと判明するより前に疑われていた人。それがトラの幼馴染であるリュウだということだ。



「トラ先輩は、そのリュウさんって方と今も接点があるんですか?」


「……いや、ねぇ。すぐにでもあいつと話して抑えなきゃなんねぇ問題がある。けど何故か連絡が取れねぇ。意図的に俺を避けてるんじゃねぇかと思えるほどだな」


「問題……?」



 そこまで話してトラはふと、我に帰る。零とはまだ会った回数が3回しかない。だというのにここまで身の上話をしてしまったことが不思議だった。



「お前には関係ねぇことだよ。しっかし、ついこの前に出会ったばかりのお前に何か話過ぎちまったな。ってか、むしろお前から話を聞かないとだよな?」


「まあ、そうなんですよね……」



 もっともなことを指摘されて零は困ったように笑う。何だかそれが可笑しくてトラもニヤリと笑った。



「トラ先輩は、友香っていう女性をご存知でしょうか?」


「ん? 苗字は?」


「えっと……」



 聞き返されて、零は友香の苗字を知らないことに今気付いた。思えば恋悟の時も「恋愛の恋悟」という通り名のようなものはあったが、フルネームでは聞いたことがない。



「すみません、苗字はわからないんです」


「ふーん? で、その女が犯人だと?」


「いえ。まだ推測ではありますが、真犯人といったところでしょうか。被害者に対して恨みを持つ女性を(そそのか)して犯行に及ばせた可能性があるかと」


警察(サツ)がそう見てるのか?」



 情報の出所を疑っている。───零はそう思った。


 実際、警察がどう考えているのかは今のところ不明だが、時間の問題ではある。零は肯定しておくことにした。



「そうですね。犯人は現場が気になって戻ってくるとは言いますが、実際にそう思われる怪しい女性が目撃されたことからそう思われてます」


「あ? そりゃ犯人だからだろ? 何でやった奴の他に黒幕が出てくるんだよ?」


「それは───」



 残留思念で見たから、とは言えない。そんなオカルト話をすればトラは間違いなく激昂するだろう。


 ならば、被害者の残留思念が言った「警察には言うな」という願いを叶える為、詩穂や亜梨沙にはまだ言っていない名前を出すことにした。



「それは、実行犯そのものは友香という女性ではなく三啞(ミア)という女性だと判明しているからです」


「───あ!?」



 トラはその名前を聞いて衝撃を受けた。何故なら同じ名前の女性を知っているからだ。

読んで下さりありがとうございます。夏風陽向です。


前書きの件についてですが、Twitterを見ていたら急に出てきたので驚きました。禁書目録をきっかけに知ったアーティストですが、実はそれ以前にアクセルワールドやストライク・ザ・ブラッドで歌声を聞いていたという……。

歌い方が好きだったばかりに悔やまれます……。


さて、今回のお話を。

今回の更新分を書きながら「やらかしたな」って思いました。

結果的に都合が良くなりましたが、先週の更新分で「零はシアのことを詩穂と亜梨沙に話したのか?」というところの記載を忘れてしまったことです。被害者の残留思念と戦った際の内容を改めて書くのはくどいと省略したのが仇となりました。まだまだ修行が足りませんね。


それではまた次回。来週もよろしくお願いします!


今日から3月です。花粉症と頑張って戦いましょう。

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