祖父の助言
この世ならざるものとなった被害者が消え去るのを見届けた零は祖父の車が駐めてあるところまで戻り、車に乗り込んだ。
「ん? 零、終わったのか?」
流石に遅い時間だということもあって、祖父は車内で眠りかけていたようだ。少しばかり寝起きのような声をしている。
「うん。まあ、何とか。思っていたより苦戦してしまったけど」
「被害者がこの世を去ってからそんなに経っていないだろう? そんなに苦戦するものか?」
「え?」
零は祖父に指摘されてから、相手の強さが異常だったことに気が付いた。
鷺森露や詩穂に取り憑いている「はつ」のような長い年月の間、この世に居続ける存在だったのであればまだわかる。彼等は長い年月の間に力を蓄えているからだ。しかし、今回の相手は死んでから1ヶ月も経っていない。それにしては確かに強過ぎる。
そもそも、本人がやんちゃだったこともあって、喧嘩に慣れているという点では強さに影響している可能性は高い。だが今思えば、あの血塗られた包丁そのものに何かしら霊力が込められているという線も考えられるだろう。
しかし、あれは被害者の痛みから出たものではないのか? 最後に現れた女性がそれを持ち去っていったのも理解できない。被害者が持っていた道具を含めて残留思念なのだから、消え去るのが道理だ。
自宅に向かって車が走り出す。静まり返った街を眺めながら、先程の出来事を冷静に分析しようとする。だが、やはり到底理解できない。
少なくとも、被害者が持っていた武器を持ち去ることが出来るのだから、あの女性が何かしら霊能力を持っていることに違いはない。しかし、そんなにホイホイ沢山いるものなのだろうか?
「……爺ちゃん」
「ん?」
「うちや本家以外にも、霊能力者って普通にいるものなんだろうか?」
祖父にそんな質問をしても仕方ないだろうに。だが、祖父は祖母が霊能力を用いていたことを知っているだろうし、本家のことも知っている。全てを知っている一般人として意見を求めたのだ。
祖父の返答は即座に返ってきた。
「そりゃおるだろう。現に俺もそうだからな」
「そっか。……え?」
祖父の発言に目を丸くする。零には言葉のまま受け止めることができなかった。
「え、爺ちゃんは普通の人だよね? 霊能力みたいなのは持っていないはずだと思ったけど」
「いや。普通の人間が鷺森家の婿養子に迎えられるものか。俺の実家は神札……つまり、御札を専門とした家だった。それ故に霰ほどは見えずとも感じることくらいはできる」
祖父は即答で返した。零にとっては驚きの新事実ではあるものの、冷静になって考え直してみれば、確かに普通の人間が鷺森家に迎え入れられるわけがない。祖父母の時代であれば尚更そうだろう。
「えっと、つまりは爺ちゃんみたいに霊能力を持った人がいてもおかしくないってこと?」
「うーむ。今はあまり聞かんし、珍しい話ではあるがな」
今度の返答は少し歯切れの悪いものだった。
というのも、霊能者だからといって祖父がここ最近で同じような能力者を見かけたというわけではないし、噂や話を聞いた記憶でしかないので確かなことは言えない。
だが、零は少しでも情報が欲しいので質問を続ける。
「残留思念が消え去る直前に不審な女性が急に現れて、被害者の痛みによって現れたはずの凶器を持ち去っていったんだ。そんなこと可能なんだろうか?」
「本来、残留思念とは非実体のものだ。となれば、その女性が持ち去ったのは凶器そのものじゃなくて、そこに残った負の感情だろう。何かしら接点のあるものに宿らせることも可能なはずだ。まあ、俺の予想ってだけだから霰に確認するといい」
「うん、そうだね。そうしてみるよ」
その後、零は静まり返った街を眺めながら車に揺られ帰宅したのだった。
読んでくださりありがとうございます。夏風陽向です。
やはり半分程度となってしまいました。
次回はまたまともに投稿いたしますので、よろしくお願いいたします。