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刺した犯人は……

 祖父は嫌な顔せず待ってくれている。祖母の霰が現役だった頃はきっとこうして同伴していたのだろう。嫌な顔どころか、孫が鷺森家の使命を果たそうとしている姿を見て誇らしさすら覚えていた。


 歴代と零に大きな違いがあるとすれば、刀を出しているか、いないかだろう。歴代の鷺森家当主は難なく「この世ならざるもの」との会話をすることが出来た。しかし、零は重度の中二病という病による能力を使わねば、この世ならざるものと話すことができない。


 既に諸々の現場検証や犯人に繋がるような手掛かりを調べ尽くした後なのだろう。今ではもう誰でも普通に通れるようになっている。


 そして零の予想通り、そこには1人の若い男が立っていた。



「…………」



 ピンク色の携帯電話を取り出すが、まだ通話を掛けない。目の前に見えている存在が「どういった状態」なのかを見極めないといけないからだ。


 もし仮に、今の状態が殺害当時のままであれば、彼の恐怖や痛覚に巻き込まれて零もただではすまない。


 ゆっくり近付くが恐れている様子は決して見せない。心の隙を突かれないようにするのも重要な技術だ。


 男が近付く気配を察知してゆっくりと零を見る。すると、そこには赤黒く血で染まった包丁が握られていた。



(凶器か!? やはり戦うしかない!)



 男の正体はこの場に残った被害者の残留思念がこの世ならざるものとなった姿だった。その証拠に死因と深く結びついている血濡れた包丁を握って零に襲いかかってきた。


 零はすぐにピンク色の携帯電話を打刀と姿へと変えて応戦する。リーチの短い武器相手は不慣れだが、どうにかして乗り切るしかない。


 男が切りつけようと右手に握った包丁を振り下ろす。零は落ち着いて後ろに下がりそれを回避する。


 反撃に袈裟斬りを仕掛けるが、相手の反応速度も速い。器用にも包丁でそれを受け止めた。



「なっ! なんて力だ……!」



 押し返そうとする力は強い。男が生前に持っていた腕力も当然反映されているが、この短期間でここまでの力を出すということは、それ程までに怒りを残していったということだ。



「…………」



 零の刀が月明かりに照らされて輝きを増す。亜梨沙がいないので「黄零」は使えないが、月明かりの効果で少しは近付けることが出来る。


 刃は力を増して包丁さえも切り捨てようと鈍く輝いた。男はそれに気付いて、自らが後ろに下がった。


 逃すことなく零は追撃を仕掛ける。ここで勝てなければ、犯人に関する追加情報を得られないし、この世ならざるものとなった彼がここから離れられず、この場所に不幸が訪れやすくなってしまう。


 武器を失うわけにはいかない男にも動きの変化があった。


 零の剣を包丁で受け止めれば、今度こそ包丁もまとめて斬られかねない。男は追撃も間一髪で躱し、零に包丁を突き刺す。



「あぶなっ!?」



 これは零も間一髪で躱す。鷺森の礼装が零の霊力を高め、この世ならざるものと戦いやすくしてくれている。


 態勢を整えて切り上げる。しかし単純な攻撃故に相手は反応して躱す。それどころか、間合いの外であるにも関わらず、包丁を突き刺す動作をしたと思ったら血塗られた部分が伸びて零に届く。



「くっ!」



 辛うじて躱すが、それでも左腕を掠った。物理的なダメージはないが、生命力は奪われる。いつもの相手ならここまで苦戦することはないが、やはり誰かによって殺された存在は後悔で残る残留思念に比べて力が強い。



「月輪飛ば……し!」



 零は技名を言いつつイメージを固め、刀を5回ほど滅茶苦茶に振る。すると、刀の刃から月と同じ輝きを持つ斬撃が相手に向かって飛び出していく。


 流石にこの攻撃を予想できない相手はその斬撃を喰らう。その結果、見た目にダメージはなく、相手が持つ負の感情が剥がれ落ちて消えてゆく。5発命中しても相手はまだこの世に居続ける。



「どれだけなんだよ……」



 それか犯人に対する恨みがかなり深い証拠だと零は考えているが、どこかで違和感も覚えている。その正体がわからないまま、相手の攻撃に備える。


 相手は変わらず零に向かって走り、包丁の血塗られた部分を伸ばしつつ、切り付ける。


 零は躱すだけでなく、刀で弾きながら隙を窺う。効率的な動きをしていない相手には必ず何処かしら隙がある。そこを狙って零は反撃するが、一向に相手を倒し切れる感触がない。



(ただ切るだけじゃ駄目なのかな? じゃあ、何処を攻撃すれば?)



 攻防を繰り返す中で、違和感の正体に気付きつつある。だが、イマイチそれが何なのかわからないままだ。


 どちらにせよ、少しずつではあるが本体にダメージは通っている。零は一度離れて、大技を使ってみることにした。



「月影の舞……」



 月明かりに照らされて出来る零の影が横に広がり、広がった影から零と姿形そっくりな影分身が生まれる。


 一斉に相手を囲み、順番に攻撃を仕掛けた。


 相手は惑い、1人ずつ対処しようと心掛けるが追いつかない。実は影分身の攻撃そのものには威力がなく、本命である零本人が相手を切り付けることで初めて成功となる技だ。


 最後に零が相手を切りつけようと刀を振るうが、影分身とのタイミングを合わせることに意識し過ぎた結果、相手の動きを予測出来ずに刀は本体でなく血塗られた包丁を切り付けてしまった。



「あっ!」



 零の大技は失敗した。


 しかし、相手の動きに異変が起こる。血塗られた包丁を落として苦しみだしたのだ。



「え? どういうことだ?」



 相手は零の攻撃を血塗られた包丁で受けるのではなく、初手以外は躱すことに専念していた。それはつまり、本体よりも血塗られた包丁に何かあるということである。



「あ、ああ。そうか……!」



 零はすぐに血塗られた包丁を葬ろうと、刀を振り下ろす。しかし、その直後に何者かが割って入り、残留思念の産物であるはずの血塗られた包丁を素早く拾い上げた。



「えっ?」



 零が驚いて声を出す。素早く拾い上げた相手を見ると、そこには髪が肩に掛かるくらいの長さをした茶髪の若い女が立っていた。


 犯人は現場に残した「何か」が気になって戻ってくるというので期待したが、彼女違う。完全に初見だった。



「困るなー、こんなことされちゃー」


「えっ、誰!?」


「人に名前を聞く時は自分から名乗らなきゃだよねー。まー、そんなことされたところでー、名乗るわけにはいかないんだけどさー」


「あっていうか、見えてる? まさか……」


「それは同じくこちらが質問したいことだよねー。まさか、同じように幽霊が見える人がいるだなんてねー、世界は狭いよねー。あたし達、とても良い友達になれそうだよねー」


「……え?」


「まーいいやー。いつか、またーどこかで会えたらねー」



 若い女はそこから走って立ち去る。零は追いかけようとするが、正装である袴姿では上手く走れない。


 それよりもまず、零にはやることがあった。刀をピンク色の携帯電話へと姿を戻し、立ち上がろうとしている男の残留思念に通話を掛ける。



「もしもし?」


『あぁ? 何がどうなってんだ?』


「貴方を刺した犯人を教えてください! 誰なんですか!」


『…………』



 男は黙る。だが、残留思念と心を通わす零の前では黙秘権などない。



『俺を刺したのは三啞(ミア)。俺が気に掛けてた女だ』


「一体、何人と付き合ったんですか……」


『あいつはそういうのじゃねぇ……って思ってたんだが、あの時にあいつの顔を見てわかったよ。あいつはその気だったんだってな。俺はとんだニブチン野郎だぜ』


「三啞さん……それが犯人の正体」


『おい、あいつのこと警察(サツ)にチクるんじゃねぇぞ? こればかりは気付けなかった俺がわりぃ』


「しかし……」


『それより、あいつを(そそのか)したやつがいるかもしれねぇ。こんな程度の用事であいつが出てくるわけがねぇ』


「え?」



 その話を詳しく聞きたかった。だが、男はそれ以上の情報を知らない。今や「この世ならざるもの」としてこの世に居続ける必要が無くなった男は月明かりに照らされて輝き、ゆっくりと姿を消した。

読んでくださりありがとうございます。夏風陽向です。


久々に多忙な毎日です。

「毎年恒例」と「今までにない」が一気に来ているので、そりゃもうてんてこ舞いですよ。


今週は新橋へ出張です。

東京で働かれている方からすれば、新橋に出張というのは少し面白く映るでしょうか。


今週末は桑名です。

交流会があります。とても苦手です。


というわけで、もしかしたら次回の更新が怪しくなるかもしれません。更新出来たとしても、満足いく文字数ではないかもしれませんので、予めご了承くださいいただきたく存じます。


それではまた次回。来週も……更新出来たらいいなぁ、よろしくお願いします!

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