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トラとシア

 外もだいぶ暗くなり、零と亜梨沙は電車に乗って帰宅を始めた。2人はクラスメイトのことや二学期に予定されているイベントの話などをして移動の時間を過ごし、やがて亜梨沙が降りる駅へと着いた。



「あ、私ここだから……! 今日はありがとう、零君!」


「いや、僕の方こそ。ありがとう、楽しかったよ」


「うん。また学校でね」


「うん」



 寂しさとかはない。明日またすぐに学校で会えるとわかっているからだ。


 ただ、見送る亜梨沙の笑顔を見て零は複雑な心境だった。慣れない……というより、こういうのは初めてと言えるくらいだったからだ。


 電車の中は座っている人が多く、相変わらず座れる余裕がない。窓の外をぼうって眺めながら駅に着くのを待っていると、思っているよりも早く到着したので降りて駅から出る。



「ん?」



 歩きながらスマホを取り出す。すると着信が2件入っていたのに気が付いた。ロックを解除してみると、相手は長瀬と詩穂だった。



「…………」



 人の波から外れて電話を掛ける。相手は迷うことなく長瀬だ。



『もしもし、鷺森君? さっきは出られなくてすまなかった』


「いえ、気にしていません。それより長瀬さん。さっそく現場へ行って見てきましたよ」


『おっ、相変わらず仕事が早いね』



 全くもっていつもの調子だが、零からすればむしろそれが謎だ。電話に出られなかった程なのだから余程疲れることがあっただろうに、長瀬が疲れたような顔・声を出す方が稀で、今回も全くそれを感じさせない。


 本人にそれを出させる優しさもある。だが、零は長瀬の「大人としての威厳」を尊重すべく、それに気付かないふりをした。



「結論から言うと、犯人は女性です」


『女性!?』



 長瀬はわかりやすく驚いた。事前に貰った情報を照らし合わせて考えると、長瀬の反応に違和感を覚える。



「そんなに驚きでしたか?」


『あ、ああ……。こっちとしては犯人と思しい人物の性別は男だったからね』


「事前に頂いた情報では性別が分かりづらいとのことでしたよね? 犯人に結び付きやすい人がいると?」


『申し訳ないが、今のところそこまでは話せない。その女性の特徴はわかるかな?』


「すみません。フードを被っていたし、そこまでは。……ですが、被害者を恨んでいることに間違いはないです。彼女はそのようなことを呟いて去っていきましたから」


『成る程、わかった。異性の交友関係から交際相手まで当たってみるよ。取り敢えずは協力ありがとう』


「いえ」



 長瀬はすぐにでも行動するつもりだったのだろう。世間話をすることもなくすぐに電話を切った。


 通話が終了したことを画面で確認すると同時に詩穂からも電話がきていたことを思い出す。彼女の用件が何なのかは皆目見当もつかないが、繰り返し着信を掛けてこないということはそこまで急ぎでないということだろう。



「…………」



 詩穂に「気まずい」というような感情、他人に対する関心があまりないことはわかっているが、それでも零は気まずく感じている。


 故に折り返すのは家に帰ってからすることにした。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 《ラグナ》の現総長であるトラはある家の玄関前で、インターホンを鳴らすかどうか躊躇っていた。


 そこはトラの家ではない。幼馴染の家だ。



「…………」



 何度もインターホンを鳴らそうと指を伸ばすが、どうにも押せない。話すべき相手は明確で、それは「自分がやらなくてはならないこと」だという認識はあるものの、幼馴染と会うのを少し怖く感じているのだ。


 後日改めようと踵を返す。しかし、その先でとある女子高生と目が合った。



「やっぱりトラじゃん、久しぶり。何やってんの?」


「あ、ああ。久しぶりだな、四啞(シア)。お前に聞きたいことがあってな」


「ふーん? あ、そうだ。久しぶりにうち寄ってきなよ!」


「いや、俺は……」


「いいから、いいから!」



 トラは幼馴染であるシアに引っ張られて家に上がる。シアの家ではすでに母親が夕食の準備を始めており、シアの母とも久しぶりだったトラは挨拶してシアと一緒に二階へ上がった。


 シアの部屋を久しぶりに見て、トラは唖然とした。



「あれ、部屋こんな感じだったか?」


「いつと比べてんの? この年になればこれが普通だし」


「お、おう。そうか」



 トラが最後にこの部屋へ来たのは小学生の頃になる。中学時代は殆ど話さなかったし、小学校の高学年時代もそれぞれ別の友達と遊んでいたのでこの部屋に来ていない。


 トラはカーペットの上に座り、シアは勉強机の椅子に座った。



「それで? 何でしばらく連絡くれなかったの?」


「それは別にどうでもいいだろ……」


「そんなことないよ! 私、寂しかったし」


「そうか。……まあでも、リュウがいるから大丈夫だろ?」



 シアはキョトンとした目でトラを見る。見られている立場であるトラとしては少し居心地が悪かった。



「な、何だよ?」


「リュウからもしばらく連絡ないよ? 2人とも、幼馴染である私を放っておいてどういうつもりなんだか……」


「は?」



 今度はトラが素で驚いてしまった。今でもリュウとシアが普通に仲良しだと思っていたからだ。


 龍一……リュウもまた、トラやシアの幼馴染だった。



「リュウも何だかよくわからない人達と付き合い始めてから変わっちゃった……。連絡くれなかったけど、トラは変わってないね」


「馬鹿にしてるのか?」



 2人は乾いた笑いを交わした。リュウまで連絡していないのは予想外だったが、今の答えでトラの中で一つの仮説が真実に近付いてしまった。


 それは、リュウが対立組織である《ドラゴンソウル》の長であるということだ。かつてトラ本人も《ドラゴンソウル》の総長を遠目で見たことがあり、リュウと見間違えたと思っていたのだ。


 しかし、連絡が取れていないのは誤算だった。リュウと話をするのがトラの目的であり、仲介役となってもらうためにシアを頼ったのだから。


 それはそれとして、トラはシアに対して心配していることが1つあった。



「……シア」


「なに?」


「あれ以来、大丈夫か? いじめられたりしてねぇよな?」



 シアが虐められる可能性。それがトラにとって懸念事項だった。


 トラのそんな問いにシアは笑う。



「もう大丈夫だよ。そういえばトラ、あの時はありがとね」


「あ?」


「トラのお陰でいじめられなくなったし。それどころか、トラの友達の彼女達が私を守ってくれたから」


「俺は別に何もしてないが、そうか……」



 四啞は中学時代にいじめられていた。しかし、トラが《ラグナ》の総長になったことで、シアは《ラグナ》メンバーの恋人達と仲良くなったり《ラグナ》による報復を恐れたクラスメイト達がシアのいじめをやめた。


 それは当人であるシアも感じていたことだ。



「ずっとお礼を言いたかったからさ。お陰で今、すごく楽しい!」


「そうか。そいつは良かった」



 そう言ってトラは立ち上がる。今日はもう、ここに用がないからだ。



「あれ、どうしたの?」


「いや、もう帰ろうと思ってな。リュウから連絡あったら教えてくれ」


「え? もう? それはいいけど、トラはリュウと連絡取ってないの?」


「俺もない。だからお前を訪ねたんだ」


「ああ、そういうこと」



 中学時代、トラは《ラグナ》の総長となったので一緒にいられなかったが、リュウは違う。彼は殆どずっとシアの近くにいた。


 そしてトラとリュウはそれ以来、連絡を取り合っていない。トラとしてはリュウにシアを譲ったつもりだったのだ。



「殺人事件もあってあぶねぇからな。気を付けろよ?」


「う、うん。わかってる。トラ、また来てね!」


「……気が向いたらな」



 トラはそのやりとりに満足して微笑み掛けた後、この部屋を去る。シアに見送られたトラはそのまま自宅へと入って行った。

読んでくださりありがとうございます。夏風陽向です。


最近は土曜日も仕事だったため、疲れてしまい……。

誤字などが目立つ結果となってしまいました。

働きすぎ要注意です!


それではまた次回。来週もよろしくお願いします!


少し早いですが、メリークリスマス!

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