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仲良くしたい。だからこそ……

「ん……?」



 電話を掛けたが繋がらない。いつもはすぐに繋がるのだが、タイミングによっては稀に繋がらない時がある。


 やがてコール音からお留守番サービスへと切り替わったので零は伝言を残すことなく、一度電話をやめた。



「あれ、繋がらなかった?」



 亜梨沙が意外そうな顔をして零の顔を覗き込む。零は驚いて後退りした。



「わっ……あ、うん。会議中だったかな?」


「大丈夫なの? なんか焦ってた感じじゃん?」


「うーん……。本音を言えば急ぎたいところだけど、多分電話掛けられる状況になれば折り返してくるだろうし。今日中に伝えられれば多分大丈夫だと思う」


「そっか。……今日はもう終わりにするの?」


「そうだね。犯人の特徴さえ掴んでいれば、あとは長瀬さんが探してくれるだろうし。あとは警察に任せるよ」


「うーん。じゃあ、時間あるしどっかで遊ばない?」


「……え?」



 零は被害者の残留思念がこの世ならざるものとなり得る可能性を考えながらも帰ろうと思っていたので、亜梨沙からの誘いに驚いた。



「え? じゃないでしょ! まだ明るいんだし、遊ぼうよ!」


「僕はいいけど……」



 亜梨沙ならこの後、事件を起こしそうな重度の中二病患者を無力化しに行くと零は思い込んでいた。重度の中二病に関係している人間となると、潤や詩穂のように遊んでいる時間もなく忙しい印象がある。


 しかし、亜梨沙は零の答えに満足したようで笑顔で手を取る。



「よし、決まり! じゃあ、行こ!」


「う、うん」



 零は亜梨沙に手を引かれ、駅の方へ向かって歩き出した。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 殺人事件の情報は《ラグナ》にも既に伝わっていた。彼らの溜まり場ではその話題で持ちきりだ。



「どうすんだよ、トラ!」


「何がだ?」


「やられちまった件だよ! 《ドラゴンソウル》が関わってたら……。それにOBだって黙ってねぇだろ!? 絶対、また来るぜ?」



 彼らの中では既に被害者の情報もわかっている。今回の殺人事件における被害者は《ラグナ》のOBである。


 メンバーにとって不安要素となっているのは、彼らにも犯人がわからないことと、被害者がOBであるばかりに他のOBがかつてのように《ラグナ》という組織を利用して抗争を起こそうとすることである。


 トラの絶対的強さによってOBからの不干渉を勝ち取ったが、ただでさえ《ドラゴンソウル》と揉めているのに、OBとも揉めなくてはならなくなる可能性があるのはどのメンバーにとっても放っておけない状況だ。



「俺がいる以上、OBには《ラグナ》を利用させねぇ。確かにやられたのは俺達のOBだが、やったのが《ドラゴンソウル》だとしても俺達には関係のねぇことだ。それとこれとは別に考えるよう、皆に伝えろ」


「けどよ、いつまで《ドラゴンソウル》を泳がせるつもりだ? OBはどうでもいいが、流石に俺も舐められっぱなしは気に入らねぇぞ?」



 横に立つ副総長が珍しく口を開いてトラに意見する。今まで幹部クラスの意見に対するトラの答えを黙って聞いてきたが、流石に今回ばかりは副総長も黙っていられなかった。



「今回はOBだったが、今度は仲間がやられるかもしれねぇんだぞ? 総長として放っておけるのかよ?」


「仲間には手出しさせねぇ。だが、狙われる可能性があるかもしれないのも事実。しばらくは単独行動は絶対禁止にしねぇとな」


「総長はどうする?」


「俺は大丈夫だ。皆には単独行動禁止と抗争の準備を続けるよう伝えておけ」


「わかった。……いつ攻めるのか、決めたのか?」


「いや、まだだ。……後は頼むぞ」


「あ? おい!」



 トラは副総長にそう告げて、溜まり場である廃工場を後にした。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ひと通り遊んだ零と亜梨沙はファミレスでドリンクバーとデザートを頼んで一休みしていた。



「ふふ。零君、疲れてる?」


「う、うん……。こんなに遊び回ったのは久しぶりだから……。亜梨沙さんは流石だね、全然疲れている気配がしない」


「まあねー!」



 ショートケーキを一口、亜梨沙は口に運んで幸せそうな顔をする。零はやはり、そんな彼女の姿を見られることに幸福を感じていた。



「零君は……」


「ん?」



 じっと見てしまっていることに気が付いた零はそれを亜梨沙に悟られまいと目を逸らした。しかし、亜梨沙自身は話す言葉を真剣に考えていたのでそんなことに気付かない。



「零君は黒山さんとコンビ組んでるの?」


「え?」



 唐突な質問に零は目を丸くする。彼女に目を合わせると、先程までの表情が嘘のように真顔だったので思わず零も真顔になった。


 重度の中二病と戦う者達にとって、コンビを組むことは珍しくない。むしろ詩穂や潤のように単体で戦力になってしまっているケースの方が珍しい。



「いや、僕と黒山さんはコンビを組んでないよ。誘いはあったけど、断ってる」


「……今の感じじゃ、コンビ以前の問題っぽいもんね」



 亜梨沙は零と詩穂の間で何があったのか知っている。それどころか、詩穂が零に隠している情報さえも知っているので余計に仲直りが難しいこともわかっている。


 同情してすぐ、亜梨沙は明るく一つの提案を持ち掛けた。



「零君、私とコンビ組もうよ!」


「…………」



 何となくだが、零には話の展開がこうなると予想出来ていた。むしろ、亜梨沙の母親と交わした約束を考えれば、もっと早くそうするべきだったのだろう。


 しかし、零にはトラウマがある。



「せっかくの提案だけど、僕は誰とも組む気は無いんだ」


「じゃあ、私のこと放っておくってこと?」


「そういうわけじゃないよ。亜梨沙さんのお母さんとの約束もあるから、君の手助けは絶対にする。だけど僕は、コンビを組む気は無い」


「私の活動に協力してくれるのなら、それって実質組んでるってことじゃん? 何が違うの?」


「極力、僕の案件に君を巻き込まない。僕は最初から僕に出来ることだけをやるつもりだからね」


「どうして、組まないの?」


「……あ」



 零は答えようと口を開いた。だが、そのことを語ったところで何だというのか。


 亜梨沙は優しい。きっと零の過去を受け入れてくれるだろう。


 だが、だからこそ亜梨沙には話したくないし、コンビを組みたくない。亜梨沙に裏切られたくないって気持ちが強いからだ。


 仲良くなったと思っていた。一緒に数多くの困難を乗り越えてきたと思った。思いが通じ合っていたと感じてた。いつまでもずっと肩を並べて戦っていくのだろうと思っていた。


 だが、裏切られたのだ。裏切りという言葉さえ出てこない程に心を通わせた相手に裏切られた経験はそう簡単に決別できない。


 そんな苦しい過去を思い出して自他共に気分を悪くするくらいなら───。



「……この話はもうやめて欲しい。僕は亜梨沙さんと普通に仲良くしたいんだ。相棒とかそういうの、関係なしに」



 一見、脈がないような発言に聞こえる。零は亜梨沙とただ「友人でありたい」と願っているような発言だ。


 しかし、亜梨沙にはその発言に「重度の中二病とか関係なしに、1人の人間として仲良くしたい」という意味が込められていることに気が付いている。


 だから悪い気はしなかった。亜梨沙としても、しつこくして零に嫌われたくない。



「わかったよ、これ以上は聞かない。でも、いつまでも待っているから話したくなったら教えて欲しいな」


「うん、わかった。約束するよ」



 そんな日が来るのかはわからない。だが、零は亜梨沙の優しさに応えるべく、彼女の真剣な瞳の中にある温かさと勇気。そしてその約束を忘れないでいようと心に決めた。

読んで下さりありがとうございます。夏風陽向です。


先週、出張に行ったという話を少ししましたが、バスの移動で4時間でしたので本を読みました。


以前から読みかけだった、森鴎外の「ヰタ・セクスアリス」と太宰治の「パンドラの匣」を読み切りました。


鴎外の方は元々「性欲」をコントロールする方を学ぶために買った本でした。私が思い描いていたものとは違っ丸ものでしたな……。


それではまた次回。来週もお楽しみに!

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