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思念と漆黒の組み合わせ  作者: 夏風陽向
魔法少女の娣子
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残された者

 夏休みの課題を終え、残りの日数を楽しむしかなくなった零のもとに長瀬から連絡があった。



「はい、鷺森です」


『やあ、鷺森君。君が話したいと希望していた方からOKを貰ったよ。今から出れるかい?』


「えっ、また急ですね。どこへ迎えばいいです?」


『迎えに行くから自宅で待っていてくれ。少し遠いからね』


「わかりました、よろしくお願いします」



 零は電話を切り、出掛ける準備をする。零が何処かへ出掛けるであろうことを察した祖母の(せん)は居間から零の名を呼んだ。



「零!」


「ん、どうしたの婆ちゃん?」


「お前さん、夜も活動しとるのに大丈夫か?」


「……うん、大丈夫だよ」



 鷺森露と一線を交えた後も零は鷺森家の使命を全うしていた。亜梨沙との『黄零』程の威力はなかなか出せないが、少しずつ鷺森露から与えられた霊力をコントロールできるようになってきていた。



「鷺森家本来の力ではないから勝手が違うかもしれんが……」


「婆ちゃん。僕はそもそも鷺森の霊力を持たない人間だからね、勝手も何もないよ。まさか本当に鷺森家の使命が存在していたとは思わなかったけど」



 零は元からオカルトの類に対して懐疑的ではなかった。ただし、聞いていたような印象は祖母から感じられなかったので鷺森家の使命に関しては疑っていた。


 しかし、鷺森露によって霊力を植え付けられてからは違う。残留思念以外の存在も見えるようになり、それと戦ううちに祖母や鷺森家の歴代当主の偉大さが身に染みている。


 零は居間に入っていき、祖母と向かい合った。



「お前さんのそれは正しいものだ。鷺森の使命はいつも女が担ってきたから男にはわからなくて当然だった。……澪がこの世を去ったからとはいえ、男である零にこの使命が託されるとは誰も思わなかっただろうよ」


「そうだね。でも、鷺森露はこの使命を忌み嫌っていた……。母さんがこの世を去ってから使命が絶たれた方が良かったのではないかとさえ思う時もあるよ」


「そんなことはない。色んな人間が生まれ、死にゆくなかで様々な愛憎が渦巻き、そしてそれは今を生きる人々に悪影響を及ぼす。それを守るのが鷺森の役割。お前さんは直接感謝されることはあまりないだろうが、色んな人を救ってるから胸を張れ! それにあの人が心の底から鷺森の使命を忌み嫌っておったなら、私の代はなかっただろうよ」


「そうか、それもそうだね」



 そうこう話しているうちに呼び鈴が鳴る。零は玄関の方を向く。



「それじゃ、行ってくるよ」


「いってらっしゃい。気を付けてな」


「うん」



 零は訪れた長瀬と車に乗り込み移動をした。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「何処へ向かってるんですか?」


「ん? 約束の場所だ。ただちょっと遠い場所にあってね。公共交通機関だとちょっとアクセスが悪い場所なんだ」


「彼はこの街の人ではないんですか?」


「うん。経緯はわからないけど、彼の母がこの街から出ることを強く望んだそうだ。それも含めて話をしてくれるだろう」



 車で走っておおよそ20分。そこは住宅街の一角ではあるが、殆ど寂れ始めていたバス停すら見当たらない。


 10台くらいが止められる駐車場に駐車し、車を降りて歩く。丘の上だからか階段が多く、零が住んでいる場所が見下ろせる場所だった。



「こんなところがあったんですね」


「私もここに来るのは正直初めてだよ。彼に呼ばれなければ来ることもなかっただろうな」



 空は明るく太陽で眩しいほどだが、心地よい風が吹いていて少し涼しげである。無論、能力の代償によって常に寒さを感じている零には関係のない話であるが。


 階段を登り切った先で1人の青年が立っていた。眼鏡を掛けており、外見の落ち着きからおそらくは社会人だと見える。



上月(かみつき)さん」


「長瀬さん、こんにちは。……そちらの彼が?」


「はい。えっと、鷺森零です」


「初めまして、上月といいます」



 上月という青年はかなり爽やかで優しげな印象があった。例の建物で見た少年と笑顔が一緒だ、と零は思った。



「鷺森さん。祖母の家はどうでしたか?」


「…………」



 零は上月をじっと見る。彼は不思議と、そういった類の話と『関係がありそうな雰囲気』を感じさせる。



「邪悪な存在でいっぱいでした。ここ最近の元凶を追い払ったとはいえ、またそうなるのも時間の問題かと」


「そうですか……」



 上月は少し寂しそうな顔で街を見下ろしながら、零に語り掛ける。



「俺はあの家のことをあまり覚えていません。うっすらと内装を思い出せるだけで、祖母との思い出もあまり……」


「……意外でした。上月さんは地下の存在も知っていますよね?」


「ええ。……長瀬さんから鷺森さんが地下室を発見したとお聞きした時は驚きました。あそこを知る人間は限られていたと思います。俺も偶々見つけられただけで、祖母や母からは誰にも言わないことと、近付かないことを言い渡されていましたから中がどうなっているのかは知りません」


「それでも、何か嫌な気配は感じていたのでは? 僕は上月さんの残留思念を通じて地下の存在を知りましたので」


「残留思念?」


「はい。建物にある邪悪な気配をよく思わなかった幼少期の上月さんです」


「あ、ああ……! 確かに、俺は祖母の家が何か嫌な感じがするとは思っていました。でも、祖母は俺に優しかったから、あそこにいるのが苦ではなかったんです。母はそうでもなかったようですが」


「上月さんのお母さんは何か気付いていたんですか?」



 零は質問しながらふと気になったことがあった。


 上月少年の残留思念はあったが、その母は見ていない。つまり上月の母親は生前、あの建物に対して思い入れがなかったということだ。



「母は祖母との仲が悪かったんです。元々そんなことはなかったそうですが、何かをきっかけに悪くなったそうで」


「…………」



 母親はともかく、上月少年は祖母に対して何か思いやりがあったはずだ。でなければ、今回の元凶である鷺森露の撃退を依頼したりしない。



「上月さんはあの建物、もしくはお婆さんに何か思い入れがあったのではありませんか? 少年時代の貴方が僕に撃退を依頼したので」


「思い入れ……? 確かに祖母のことは心配でしたが。何せ少年時代のことでしたので。母も亡き今、真相はわかりませんから」


「そうですか……」


「いずれにせよ、俺は鷺森さんにお礼を言いたかった。祖母の家に巣食う悪い存在を撃退してくれてありがとうございました」



 上月が深々と頭を下げて礼を言う。そんな彼の様子を見て零はふと思ったことを呟いた。



「僕は、お祖母さんを助けられたんでしょうか」


「……え?」



 上月が勢いよく頭を上げて驚いた顔で零を見る。何か閃いたような、或いは思い出したようなそんな雰囲気だ。



「ああ、そうか。俺はお婆ちゃんを守りたかったんだ……。結局、お婆ちゃんを守れなくて家は知らない人達に勝手に使われていたようですが、きっとお婆ちゃんの魂は救われたと思います」


「それは……良かったです」



 残留思念で見た少年の面影がある上月の笑顔を見て、零も笑顔で応えたのだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 結局、あの建物は老朽化もあって壊すこととなった。地下室の存在は上月本人もよくわからないそうなので、その正体を掴むことは出来なさそうだが、持ち主となった彼がそう決めたのなら仕方のないことだし、零も必要以上に干渉するつもりはなかった。


 長瀬の運転する車内で揺られながら外を見て零はそんなことを考えていた。



「鷺森君、満足したかな?」


「まあってとこですかね。警察から見ても、あの地下には事件性は無さそうですか?」


「うーん……何もないって言えば嘘になるだろうけど、事件として扱わなければならないような使い方は確認されていないから、そこまでだね」


「そうですか。あと気になるのは小泉梨々香さんですが……」


「ああ。君や古戸さんが危惧してるようなことはないから大丈夫。操られていた重度の中二病患者達は小泉さんの意思で操られていたわけではなかったよ。彼等の心が弱っているところを鷺森露に狙われた、といったところだね。流石に幽霊を起訴するわけにはいかないから、それぞれ治療することしかできないけど」



 長瀬の話が本当なら梨々香も例外なく治療するということだろう。亜梨沙が気の毒でならないが、零はふと聞きたいことを思い出した。



「あっ、そうだ。長瀬さん、ついでに小泉さんとお話しする機会ってくれますか?」


「えっ、何故?」


「今後の亜梨沙さんに関することで聞きたいことがあるからですよ」


「…………?」



 長瀬は怪訝そうな顔をしたが「駄目だ」とは答えなかった。それは少しであれば許してくれるということだと、零は解釈した。


 そうと決まれば、亜梨沙と詩穂を呼ぶ必要がある。亜梨沙にはメッセージを送り、詩穂には電話を掛けた。

読んでくださりありがとうございます。夏風陽向です。


前回の後書きで語った分、今回はあまり……といったところです。


今度こそ恐らく来週くらいでこの章は終わると思います。


それではまた次回。来週もよろしくお願いします!

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