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思念と漆黒の組み合わせ  作者: 夏風陽向
魔法少女の娣子
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芽生える不信感

『おや、鷺森君。さっきぶりだね。どうしたの?』



 電話掛けたところ長瀬はすぐに出た。何かしら忙しくしていると零は予想していたので驚いた。



「あ、長瀬さん。ちょっと確認したいことがあるんですけど」


『うん? 何かな?』


「黒山さんから例の廃墟について聞きました。長瀬さんは、持ち主のお孫さんからお話を伺っていますか?」


『直接お会いしたけど、相続の件について知らなかったみたいだから細かい話は聞いてないよ』


「そうなんですか。廃墟の地下室について、お孫さんは何か言っていましたか?」


『いや、何も? そもそもあんな地下室なんて残留思念が読み取れる鷺森君くらいにしか気付けないでしょ』


「その残留思念は少年の姿をしていました。もし、その残留思念がお孫さんのものだとしたら」


『あー成る程。彼は地下室の存在を知っていたことになるか……。しかし、だとしたら何だというのかな?』


「あの地下室には異常な気配がありました。きっと、あの建物を包んでいた禍々しい気配の元凶は地下室にあるはずです」


『うーん……』



 長瀬は零の話を聞いて少し困った。


 というのも、長瀬は「あくまで重度の中二病患者が起こした事件」を担当しているので、零が気にしていることは詩穂と同様に担当外である。


 そもそも警察の誰に言ったところで相手にはされないだろう。その場所が関連して別の事件が起きたのであれば別だが。



『悪いけど、私はこの件に関して担当外だ。……黒山さんにも同じこと言われたんじゃないか?』


「えっ……ええ。そうですが……」


『そういうわけだよ。気になる気持ちもわからないでもないし、鷺森君には色々助けられてるから力になってあげたいとも思う。だけど本来成すべきは小泉さんの件だよね?』


「ならせめて、お孫さんの連絡先を……」


『それは教えられない。……けど、本人に確認してみることにするよ。また進展があったら教える』


「よろしくお願いします」


『うん。ではまたね』



 そこで電話は切られた。零としては少々不服な結果ではあったが、コンタクトを取ることが出来るかもしれない糸口は掴めた。


 それでも「待つしかない」ということに歯痒さを感じる。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 夏休みが終わりに近付く頃、零も出された課題が殆ど終わり掛けていた。元々計画などなくやっており、残りを日割りしてこなしているやり方だ。


 この日、課題を早めに終わらせて零は出掛ける準備をした。亜梨沙から予め退院する旨を聞いていたからだ。



「……よし!」



 零は祖母にひと声掛けてから家を出る。途中で花束を買って用意し、病院の受付で亜梨沙が現れるのを待つ。



「お」



 亜梨沙が母親と一緒にやってきたのを見つけて近寄る。



「やあ、亜梨沙さん。退院おめでとう」



 そう言って花束を渡すと亜梨沙は困りながらも嬉しそうに笑った。



「そんな大袈裟な……。でもありがと」


「どうたしまして。お母さんもご無沙汰しております」


「こんちには、鷺森君。来てくれてありがとうね。娘がこんなに愛されていて私も嬉しいな」


「ちょっ! お母さん何言ってんの!?」



 亜梨沙は目を丸くして母を責める。肯定するわけにも否定するわけにもいかない零は少しばかり居づらくなった。



「照れ隠ししなくてもいいのに」


「もういいから! それより鷺森君、今日わかってるよね?」


「え? 亜梨沙さんの退院以外何かあったっけ?」


「師匠と話をするの。黒山さんから聞いてない?」



 亜梨沙から呆れたような顔をしてそう言われたが、零は詩穂から何の連絡も受けていない。無論、長瀬からもだ。


 そしてどうやら、梨々香は亜梨沙よりも先に退院しているようだ。症状としては殆ど何もなかったようなものなのだから当然だと言えば当然だが。



「ちょっと待ってほしい。僕は何も聞いていないよ? それに退院早々は避けるべきじゃ……」


「私も同感よ」



 零の心配に対し、亜梨沙の母親もそれに賛同した。ただでさえ今回の事件で生死を彷徨ったのだ。その場を見たわけではないが、母親としてこれ以上この件に関わってほしくないのが本音だった。



「だめだよ。早くしなきゃ、また師匠は……」


「いい加減にしなさい。鷺森君をはじめとして、どれだけの人に迷惑を掛けていると思うの? 亜梨沙の気持ちはわかっているけれども、せめてもっと元気になってからにしなさい」


「でも……」


「でもじゃない」



 亜梨沙は母親にわかってもらえなくて困った顔をしていた。今までなら無理にでも飛び出していたところだが、今回の入院を経験して巻き込んでしまった以上、知らんふりは出来ない。


 しかし、零はむしろ亜梨沙の焦りが気になった。


 現場に向かうまで、梨々香は鷺森露に操られていたものだと思っていた。だが実際は梨々香本人の意思で鷺森露の元へ向かっている。


 それは彼女の精神が不安定であることを意味していると言っても過言ではないだろう。精神科医による継続的な治療をさせれば少しずつ改善が見込まれるだろうが、亜梨沙と話すことを条件にしたことを考えれば、現状では本人がそれを拒むだろう。



「…………」


「わかってよ、お母さん!」


「いいえ、今日はダメよ」


「あの……」



 零がそう声を掛けると、2人ともピタッと止まって零を見る。母は考えを固く持っている印象だが、亜梨沙はわかって貰えない悔しさで泣きそうな顔をしている。



「亜梨沙さんの言う通り、今日を逃せば次がないかもしれません。どうにか許してあげてくれませんか?」


「鷺森君、何を言って……」


「───僕が無理をさせません!」


「…………」


「無理があると思ったら僕が止めて連れ戻します。僕だってもう、亜梨沙さんを失い掛けたくありませんから」


「……まあ、鷺森君がそう言うならいいでしょう」


「お母さん……!」



 母は呆れたように許可した形だが、亜梨沙はわかってもらえたようで零がこれまでに見たことない程喜んでいた。



「鷺森君、わかっているわよね?」


「勿論です。厳しめに見ますから」


「娘をお願いしますね」



 亜梨沙の母は亜梨沙から花束を受け取って先に病院を後にした。零はそんな彼女の背中に一礼してから亜梨沙の方を見た。



「ありがと、鷺森君!」


「喜ぶにはまだ早いと思うけど……。さて、僕には集合場所がわからないからよろしく!」


「了解!」



 零は亜梨沙と駐車場に向かって歩いていくと、つい最近に見た軽自動車が止まっていた。運転手である中年の男は亜梨沙を見つけて声を掛ける。



「古戸亜梨沙さん……かな? って、何だ鷺森も一緒なんじゃねーか!」


「あ、こんにちは。仰る通り、横にいるのが亜梨沙さんです」


「あ、えっと、こんにちは」


「おう。鷺森がいるなら話は早いな! 2人とも乗ってくれよ」


「はい」



 亜梨沙と中年男は初対面なので亜梨沙は警戒していたが、顔見知りである零が一緒で少し安心したようだ。零に促される形で亜梨沙も車に乗る。



「よし、行くか。詩穂ちゃんからは古戸さん1人って聞いてたんだが、どういうこった?」


「僕にも彼女が何を考えているのかわかりません。向かう場所はあの場所ですか?」


「いや違う場所だ。割とこの近くなんだが、流石に病み上がりを歩かせるわけにいかないからな、お迎えを依頼されたのさ。今考えれば、側から見ると誘拐紛いに思えるから、鷺森がいてくれて本当に助かったぜ」


「わかりました。よろしくお願いします」


「おうよ!」



 ───とは言いつつも、とっくに出発している。ルームミラー越しににやけている中年男が見えたので零は気になった。



「何かいつになく嬉しそうですね」


「そうかー? まあ、あれだ。鷺森は詩穂ちゃんといい感じなのかなーって思ってたのに別の女の子と病院から出てくるもんだから隅に置けないなーって思ってよ」


「えっと、それはどういう意味ですか?」


「まあまあ、いいじゃねーか。結婚するとなかなか出来ねーことだからな、今を楽しめよ若者よ!」


「は、はあ……」



 零は何を言われているのか全くわからなかったが、亜梨沙は何となくわかっていたようだ。それでも何も言わなかったのは嫌な気がしなかったからだが、それすら零にはわからない。


 車で10分程走ったところでタクシー会社があるような駐車場に車を止めた。一階に駐車スペースがあり、その上にビルが建っている格好だ。



「ほい、到着だ。2人とも、降りてからあそこへ入って階段を登ってけ」


「わかりました」



 零と亜梨沙は車を降りて事務所のような場所へと入っていく。どうやら本当に事務所のようで照明は点いているが、誰もいない。


 言われた通りに階段を登っていくと、オフィスっぽい部屋が見える。そういえば何階が向かう先なのか聞いていなかったが、2階へ上がったところで見えたオフィスっぽい部屋に詩穂と長瀬。そして梨々香がいたのでそこだとわかった。



「師匠……」


「行こう、亜梨沙さん」


「……うん!」



 2人はノックして入っていく。すると、零を見た詩穂と長瀬が目を丸くした。



「何故、鷺森君が……!?」


「亜梨沙さんの退院祝いに行ったからだよ。……僕こそ聞きたいな。連絡してくれるって言ったのにどうして?」


「…………」



 長瀬は少し気まずそうな顔で詩穂の方をチラッと見た。それは長瀬ではなく、詩穂の考えであることを裏付けている。



「……帰って、鷺森君」


「答えになってないよ、黒山さん。僕は何故ハブったのか聞いているんだ」


「お願いだから帰って!」



 詩穂が珍しく声を荒げて梨々香以外のこの場にいる人間が驚いた。零でさえ、いつもと違う反応に目を丸くしたくらいだ。



「……悪いけど、亜梨沙さんのお母さんと彼女を見張る約束をしたからね。帰るわけにはいかないんだ」


「鷺森君」



 そこで口を挟んできたのは長瀬だった。彼の困った表情は変わらないが、このまま話を平行線にするわけにはいかない。



「その役割は私が大人として引き継ぐよ。このままではせっかく小泉さんと古戸さんが揃っているのに話を進められなくて困る。……情報は後で共有するから、私からも頼むよ」



 少しの間だけ流れる沈黙。6秒ほど経ったところで零は深呼吸をした。



「……事情は全く把握出来ませんが、長瀬さんもそう仰るなら僕は引き下がります。大人として……警察官として亜梨沙さんに無理させないで下さいよ?」


「ああ、勿論! 約束するとも」


「……では失礼します」



 零は静かな怒りを露わにしていたが、長瀬と話をして少し落ち着いたようだ。大人しくその場を去って長瀬は胸を撫で下ろした。



「いいのかい、黒山さん。鷺森君にちゃんと説明した方がいいんじゃ……」


「いいんです、嫌われても。軽蔑されるよりマシです」


「そ、そうか」


「そんなことより始めましょう。古戸さん、こっちに」


「え、あ、うん!」



 亜梨沙は梨々香の隣に座った。梨々香の表情は以前より遥かにマシになっていて、闇落ちしていたのが嘘のようになっている。


 かつての輝かしさが少し戻った気がして亜梨沙は胸の高鳴りを感じた。そして正面には真顔の詩穂と長瀬が座っており、梨々香の事情聴取が始まった。

読んでくださりありがとうございます。夏風陽向です。


まあよくある話ではあるんですが、やはり大人が書いている以上、どうしても登場人物が高校生でも精神年齢が大人になってしまうんですよね。


だって思い返せば「うぇーいw」とか平気で言っているわけですよ。詩穂は仕方ないにしても、零はもう少し精神年齢を下げてもいいのかな……。


とはいえ、私はあまり計算とか考えたりせずに台詞を書くので多分無理ですね。何だかんだ「天の声」の言い回しを考えたり、偶に「このキャラ、こんな言い方しないだろ」って修正したりすることはありますが。


そういった意味では、今回の零は少し年相応だったかな? しつこく残る選択肢もありますが、零はそういう性格はないし、詩穂の話も進まないのでやめました。


いやぁ、筆が走ったな……。



それではまた次回。来週もよろしくお願いします!

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