魔法少女vs魔法少女
零によって鷺森露との繋がりが絶たれた梨々香だが、闇堕ち変身が解かれていない。
それを不思議に思えるミラクル☆アリサではあったが、鷺森露と繋がっていない今なら連れ戻せるかもしれないと信じて声を掛ける。
「師匠……いえ、魔法少女ミラクル☆リリカ! もうあなたを縛るものはいません。一緒に帰りましょう!」
「……放っておいて」
力なく発せられる拒絶の言葉。目に見えない存在と戦っている零の声や音で聞き逃してしまう可能性がある程に、その声はぼそっとしたものだった。
彼女は心身共に疲弊している。それがわかったからこそ、ミラクル☆アリサは声を掛け続ける。
「放っておけないから、私たちはここまで来たんです! 鷺森君も黒山さんも手伝ってくれたんです。だから帰りましょう!」
「そんなこと頼んでない。お願いだから私のことなんて放っておいて」
「出来ません!」
闇堕ちリリカは拒絶し続け、ミラクル☆アリサは引き下がる気がない。何度でも声を掛け続ける覚悟がミラクル☆アリサにはあったが、闇堕ちリリカは力で強行する手段を選んだ。
「わかってくれないなら……もういい」
溢れるほどの邪悪なオーラが闇堕ちリリカを包み込む。彼女が戦闘態勢に入ったことをミラクル☆アリサは悟った。
「師匠……。私、超えてみせます……!」
それは殆ど独り言に近い呟き。しかし、それを合図とするかように闇堕ちリリカはふわりと浮きながらステッキを振り、邪悪な光弾をミラクル☆アリサに向けて3つ放った。
「んっ!」
フルーレの刀身が黄色く輝いた。それをミラクル☆アリサは振るい、邪悪な光弾を難なく切り捨てる。
闇堕ちリリカが浮いていることを目視した時、確かに足場が悪い洞窟であるこの場では足で移動すると躓いて転倒する危険性があると納得した。だから相手と同じようにミラクル☆アリサもその場から少し浮いた。
両者とも動き出して攻撃を仕掛ける。邪悪な光弾に対しての対処は先程と同様にフルーレで切り捨て、そのまま剣先から黄色い光線を放つ。
すると闇堕ちリリカはステッキを軽く振ってバリアを展開し、光線を防いだ。どうやら展開したまま光弾を放つことが出来ないらしく、光線の終わりと同時にバリアを解除して再度光弾を放った。
「くっ……!」
ホバー移動しているとはいえ、狭い洞窟であることに変わりはない。何も考えずに移動すれば壁にぶつかるし、近くでは零が戦っているので彼を邪魔してしまう可能性だってある。
ただ、相手の攻撃だけを注意すればいいというわけではない。それがミラクル☆アリサを少しばかり苦しめた。
一方、闇堕ちリリカは表情を一切変えていない。ミラクル☆アリサと比べて少ない動きで対処できるということもあるが、やはりそれだけ戦ってきた経験が余裕を持たせている。ミラクル☆アリサの何倍も戦いを繰り返してきた闇堕ちリリカはこのような狭い空間であっても落ち着いて戦えるだけの戦法を身に付けていた。
光弾と光線の撃ち合いを繰り返しながら、ミラクル☆アリサは勝利方法を考える。現状、どうみても相手の方に分がある。当然、ミラクル☆アリサにもバリアを展開するという防御方法はあるが、フルーレではステッキほどすぐに攻防の切り替えが素早くできない。
故にミラクル☆アリサは切り捨てながら反撃をする戦法を取っているが、それでもミスしてしまえば負けてしまう。確実に勝利するのであれば、武器の特性を活かして接近戦に持ち込むしかない。
となれば、少しばかりリスクが高まるが今よりも移動する幅を増やす必要がある。今のままでは流石に闇堕ちリリカもそれを許さないだろうから、相手の集中力を奪っていかなければならない。
「師匠! 何故一緒に帰らないんですか!?」
「……さっきから気になってたけど、師匠って私のこと?」
「そうです。私はあなたに憧れて魔法少女になった!」
「私に?」
「はい! あなたに助けてもらったから……」
「だからといって、私には憧れられる価値はない」
「そんなことは……!」
闇堕ちリリカが絶望すればする程、邪悪な力は膨れ上がる。その現象に驚きつつも更なる緊張感に襲われた。
本能が警告している。今まで様々な重度の中二病患者と対峙してきたが、これ程までに「やばい」と思わせられる相手には遭遇したことがない。
だが、絶望によって闇堕ちの力が増大するのであれば、希望によって抗えばいい。ミラクル☆アリサは負けじと梨々香を連れ戻し、共に歩む未来を想像して希望を膨らませた。
希望の光でミラクル☆アリサの力が増大する。もう勝てる気しかしない。
「いきます!」
希望の光を溢れさせてミラクル☆アリサは闇堕ちリリカに向かって突撃した。
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ミラクル☆アリサによる希望の光は零と鷺森露にも届いていた。生者と死者を問わず、霊力で戦っている彼等にとっても影響のあるものだった。
『ぐっ……なんだ、これは!?』
鷺森露はその光に後退りした。それは眩しく、かなり不快なものだったからだ。
一方、零にも影響があった。霊力が減少し、妖刀の白い輝きに濁りが出てくる。
「う……ん?」
霊力で戦うことは出来ない。ならば『黒零』を受け入れた時のように希望の光を受け入れられれば、力の作用が変わるのではないかと考え付いた。
「よし……」
零は希望の光を受け入れる。それを媒介し、零の力と亜梨沙の力に繋がりが生まれる。
妖刀から淡く黄色の光が漂い始め、やがて月光のような優しい輝きを宿した。
「いくよ、『黄零』!」
月光のような優しい輝きは零をも包み、オーラとなって零を守る。一気に鷺森露へ迫って袈裟斬りにする。
『な……に!?』
咄嗟の攻撃に流石の鷺森露も対応できない。切られる瞬間、最愛の妹である雫の姿が重なった。
『雫……』
零を見て忌々しく思った理由、それを悟った時にはもう優しい攻撃は終わっていた。
『ぐおお……ううう……』
霊力と希望の力。本来交わるはずのないものが混ざった攻撃は鷺森露によく効いた。
───だが、葬り切ることができない。
『ちっ……ここまでだな』
「あっ!」
鷺森露は素早く走って零の横を抜けた。出入り口に向かって走り出したと零が気付いた時には既に姿を消してしまっていた。
鷺森露を取り逃がしたことは悔やまれるが、すぐそばにある最大の脅威は去った。それを亜梨沙に伝えなければならない。
「亜梨沙さん!」
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闇堕ちリリカに迫ったミラクル☆アリサだったが、思惑通りにいかなかった。懐は潜り込み、鋭く素早い突きを放つが、それすらバリアで防がれた。
金属とはまた違う、ぶつかり合った衝撃音が鳴り響く。
「う、そ……!?」
「…………」
トドメの一撃を闇堕ちリリカが放つ。全身から放たれた邪悪なオーラがミラクル☆アリサを包もうとした。
「ま、まだまだ!」
しかし、ミラクル☆アリサは全身から希望の光を放って邪悪なオーラに抗う。そこから一度距離を取った。
「亜梨沙さん!」
「……!」
零の声が聞こえたので彼に向かって頷き返す。ここが勝負どころ。梨々香を闇堕ちさせたきっかけがいなくなった今なら、絶望に塗り替えられる心配がない。
「すぅ……はあぁぁぁぁ! ミラクリウムチャージ!」
息を深く吸い込み吐き出しながら、弓を引くようにフルーレを握った右手を後ろに引く。
希望の光と『奇跡』を全力でフルーレに込めてミラクリウムチャージを行なう。
「ミラクリウムチャージ」
それを見た闇堕ちリリカもミラクリウムチャージを行った。大きな力の存在にこの場が揺れているような錯覚に陥る。
「届いて! スーパーミラクル☆アリサマジック!!」
「……スーパーミラクル☆リリカマジック」
両者の大技がぶつかり合う。大きな力の衝撃に突風が吹き荒れ、洞窟の細かい砂や石が飛び荒れて零は腕で全面を防御しながら行く末を見届けた。
読んでくださりありがとうございます! 夏風陽向です。
この休みで色々やりたいことがあったはずなのですが、大して出来なかったなぁって感じです。
書きたい小説があるんですが、それも長編になるので書ききれない可能性が……。
でもモンハンは進んだと思います。まだマスターランク4ではありますが。
はやく重ね着を解放したいところです。
今回の章も大詰めです。零と露の戦いに決着がありませんでした。ごめんなさい。まだ露には退場されては困るので……。
それではまた次回。来週もよろしくお願いします。
サービス業の皆様、大変お疲れ様でした。