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思念と漆黒の組み合わせ  作者: 夏風陽向
魔法少女の娣子
42/190

ギャップ

 きっかけはほんの些細なことでも、長きに渡ってこの世との関係を繋ぎ続け、数多の怨念を蓄積してきたその相手は決して簡単に葬ることが出来るような存在ではない。少なくとも今の零では葬るまでに時間が掛かることだろう。


 しかし、雫は危なげなところを少しも見せずに捌いていく。攻撃と防御を切り替えるのではなく、文字通り全てを切り裂いている。そうすることで確実に相手とこの世の繋がりを断ち切ることができ、雫の剣劇を受けるしかない相手は徐々にその存在感を消失させていった。


 最早声にならない声すら発することができない。圧倒的な剣捌きにより間もなく相手は消失してごく普通の仏間へと姿を戻した。


 これが鷺森家当主の力なのか。零は自身の腕に鳥肌が立っていることに気が付いた。



「……ふう」


 雫は一息ついた後にすぐ霊刀を消失させ、仏間から出ようと襖を開ける。そこで覗いていた男子と目が合い、優しく微笑んだ。



「もう大丈夫ですよ」


「は、はい……!」



 優しく微笑む雫はまるで女神のようだった。───というのは現代を生きる零の感想であり、男子を始めとした当時の人からすれば、どちらかというと「天女のようだ」というのが相応しいだろう。


 まさに男子からすれば雫の姿はそれであり、とても同じ人間とは思えない。それ故に男子は緊張して赤面し、逃げるようにその場を去った。


 その物音に気付いて来たと思われる鷺森露はホッとした顔で雫を見る。一方で雫は自身ありげに頷いて鷺森露の元へ寄る。遅れて出て来た家主夫婦に重ね重ねお礼を言われながらこの家を後にし、鷺森露と雫は二人並んでこの場を去った。


 家主夫婦と共に零も二人を見送る。


 やがて残留思念で形成された過去の世界は綻びが生じ、崩れていくように消えていくと、気づいた時に零の視界は現代の光景が見えて元に戻った。


 深夜の住宅街。周囲の住宅からは既に灯りが失われており、辛うじて道が見えるくらいだ。


 それは残留思念を見る前とは変わらない。むしろ、残留思念での体感時間と実際に進んでいる時間は異なるので、現実ではあまり時が進んでいない。目もずっと暗闇を見ていた状態となるので暗闇に慣れたままだ。


 この世ならざるものだった老人の姿も見えない。彼は零によって葬られ、この世との繋がりを絶たれたことで消失した。



「…………」



 零は想像を絶する強さで戦っていた雫のことを思い出してショックを受けていた。鷺森家当主の力は霰から話を聞いた時の印象よりもっと強いものだ。あれ程強ければ、この世ならざるものと化した鷺森露も難なく倒せるかもしれない。


 いや、鷺森露どころか、詩穂と行動を共にしているであろう姿さえ見ることが恐ろしいあの存在にも太刀打ちできるはずだ。


 しかし、今の零にはそこまでの域に達するビジョンが想像できない。



「……いや」



 零は自分にそう言って悪い考えを打ち消した。何故ならきっと、それを霰に相談したところで祖母ではなく鷺森家当主として「甘えるな」と一蹴されるだけだろうからだ。今までは残留思念という形で残ったこの世ならざるものを倒すだけで良かったから霰は優しくしてくれたが、これからはもっと強大な敵と対峙しなければならないのだから自分で切り開いていかなければならないので霰も厳しくなるだろう。


 夕方に話をし、当主としての霰を垣間見ただけでそう思わせるだけの威厳が祖母にはあるのだ。とても甘えられる雰囲気ではない。



(───帰るか)



 零は自宅に向かって歩き出した。暗いのだから周囲に警戒して帰らなくてはならないのだが、零はどうしても鷺森露のことが気になって仕方がない。


 梨々香を操り、廃屋に現れた時と今回の残留思念で見た時とでは別人と言えるほどに雰囲気が違い過ぎる。霰の話では双子の妹である雫を失ってから変わってしまったらしいとのことだから、本当は妹思いの優しい兄だったということなのだろう。


 しかし、あれだけ強い雫が勝てなかった相手とはどんな相手なのだろうか。そして、この世ならざるものとなってしまった鷺森露の目的は何なのか。


 先祖の活躍を見て学んだこともあったが、深まった謎もある。鷺森の苗字を冠している以上、間違いなくこれからも悩み続けることになる。


 不思議と零はそう思ったのだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ───翌日。


 朝から猛暑が続く中、零は目が覚めた。代償のせいで暑さを感じることは出来ない代わりにむしろ肌寒さを感じるまである。


 結局、帰ってくるまで霰は起きていた。帰ってきた時のホッとした祖母の表情が今も頭から離れず、慣れない深夜での戦闘と見た残留思念の濃さで頭がぼうっとする。


 布団から離れて居間へ向かおうか考えていると、零のスマホが鳴った。



「はい、鷺森です」


『やあ、鷺森君。おはよう』


「ああ、どうも。おはようございます」



 電話の相手は刑事の長瀬だった。実は昨日のうちに例の廃屋について調べるよう依頼しておいたのだ。


 とはいえ、たった1日で掴んでくるとは思っていなかったが。



『例の廃屋についてなんだけど……。あそこは元々とある宗教を信仰していた一家が所有していた家になる』


「成る程」



 零は何となくだが、そんな気はしていた。宗教だという明確な予想ではなかったが、何かしら人を集める目的がある場所だったということは鷺森露と梨々香がいた広い部屋から推察することはできる。


 むしろ零が知りたかったのはその先にある。



『基本的には跡取りがいる家だったそうだが、一人息子が後継を拒否。最後の住人がこの世を去ったことで、まともに管理する人もいなくなってしまい空き家になったと。それ以来、どんどん荒れて今では心霊スポットの一つになっているという情報もあるね」


「……一応の所有者がいるということは、小泉梨々香さんは操られているとはいえ、不法侵入という扱いになるってことですか?」



 当然、梨々香の安否も心配なのだが、零にはもう一つ心配事があった。それは、梨々香が罪に問われることである。救出後に逮捕されてはあまりに後味が悪いし、亜梨沙が無茶する可能性も考えられた。


 しかし、長瀬の解答は零にとって意外なものだった。



『勿論、立場上としては放っておくわけにはいかないね。不法侵入だと分かっている時点で、被害届を出すのか所有者に確認しなければならない。……ただまあ、誰かが被害を訴えてこない限りは内内で処理しても大丈夫だと考えてる。事情が事情だからね』


「そうしてくれるとありがたいですが……。それにしても、あの建物はどうも悪い気配が強くてならない。何かあるんでしょうか?」


『記録では何も事件はないけどね』



 長瀬の解答は零を少しだけ安心させるだけの効力は持っていた。あの建物で何かしら事件があったのだとしたら、間違いなくそこに残った残留思念はこの世ならざるものとして現れることだろう。梨々香に悪影響を及ぼす可能性があるのだから、とても無視できることではない。


 しかし、事件は無くとも悪い気配は十分にある。零も亜梨沙同様に出来るだけ早く救助に向かいたいというのが本音だ。


 どちらにせよ、梨々香を回収した時点で警察と救急車には協力を仰がなくてはならない。零は最初の救出時に起こった出来事とこれからどうするかを大まかに説明しておいた。



「───そういうわけなので、決行日が決まり次第連絡しますのでご協力お願いします」


『いやいやこちらこそ。どうぞ、よろしく』



 長瀬も他にも色んなことで忙しいのだろう。最後にそう言い残してすぐに通話を切った。


 鷺森露と梨々香を追い出すように依頼してきた少年の残留思念。あれはきっと、最後の住人からみて孫に当たる存在なのだろう。少年の両親が生きていれば所有者は両親になるが、そうでないなら今は少年のものになってるはずだ。


 となれば、不法侵入の件はあまり気にしなくて良い。救出することに注力しようと零は思ったのだった。

読んで下さってありがとうございます。夏風陽向です。


いつもより更新が遅い+文字数が少ないで大変申し訳ありません。急遽入ってきた出来事に振り回されて、こうなってしまいました。

→日付間違えたので文字数はいつも通りです。


今も半目を閉じながら後書きを書いています。


来週もまともに執筆できるか怪しいスケジュールになっています。文字数が少なくとも、少しでもお届け出来たらと思っていますので、どうか温かい目で見ていただけたら幸いです。


暑くなりました。所々で雨が降って気温の上がり下がりが激しい昨今ですが、体調管理と熱中症にはご注意くだされ……!


それではまた次回。来週もよろしくお願いします!

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