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思念と漆黒の組み合わせ  作者: 夏風陽向
魔法少女の娣子
30/190

「一緒に探して」

「亜梨沙さん……? どうして君が」



 零は玄関先に立っていた亜梨沙を見て目を丸くした。目の前に立つ彼女はロングスカートと七分袖のシャツで露出の少ない格好をしている。



「こんにちは。えっと、鷺森零君でいいんだよね? 急で悪いんだけど、ちょっと時間貰える?」


「え、うん。ちょうど外をブラブラしようと思っていたからね。準備するからここで待っていて貰っていいかな?」


「なら丁度いいね。わかった」



 そう言い残して零は小走りで自室に向かう。そして亜梨沙は玄関の扉を閉めて待った。


 外は快晴。真夏の気温は高く、熱中症の危険がある。


 しかし、鷺森家の玄関は外の暑さを感じさせない程に冷んやりとしていた。涼しいのではない、むしろ肌寒さを感じさせるように冷んやりとしているのだ。


 すぐに零は玄関に戻ってきた。相変わらず季節感がおかしい厚着ではあるが、いつものコートよりはマシだと亜梨沙は思うことにした。



「亜梨沙さん、お待たせ」


「いいえ。それじゃあ、行こう」



 零と亜梨沙は鷺森家を後にする。零の祖父は仕事をしており、祖母の霰は本家を迎える準備で忙しい。


 故に鷺森家を出る2人を目撃した者は誰一人としていない。変にイジられる危険性がないのは零にとって幸いだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 2人は真夏の高気温のなか、街に向かって歩き出す。鷺森家の周辺はどちらかというと「田舎らしさ」が強いので、遊べるような施設が無い代わりに蝉の鳴き声ばかりが聴こえてくる。



「ところで亜梨沙さん。どうして僕の家がわかったのかな?」


「鷺森君と同じ学校だった人に聞いた。変な勘違いされたけど、マジトーンで否定したから大丈夫」


「ああ、そう……」



 マジトーンとは魔法の石……ではなく「真面目な声」という意味である。冷たく真面目な声で否定される姿を想像した零は心が傷付いた。


 だが、傷付いたままでいるわけにもいかない。気を取り直して本題を問う。



「それで? マジトーンで否定したってことはデートのお誘いってわけじゃないんでしょ? 一体、僕に何の用があるのかな」


「鷺森君さ、この前路地裏で会ったの憶えてる?」


「うん? ああ、黒山さんと一緒に尾行した時か」



 実を言うと、零は残留思念と会話した記憶を含んで考えてしまったので思い付くまでタイムラグが発生していた。正しく思い出せたので問題はないが。



「黒山さんの活躍は何気に聞いてるんだけど、あの人に私を見失わずに追うだけの力があるとは思えないんだよね。───ということは、一緒にいた鷺森君に何かしらあると思ったわけ」


「ほー、成る程ね」



 零は興味深そうに横目で亜梨沙を見る。一方で亜梨沙は胡散臭そうな疑い深い視線を零に送っていた。



「実際はどうなの? 完全に尾行を撒いたはずなのに、どうして私に追い付けたの?」


「…………」



 その問いに答えるのは簡単だ。だが、零としてはこうして歩きながら答えるのは何故か躊躇われた。


 そもそも、亜梨沙がそこに注目するということは、彼女の中で何かしら価値を見ているということである。ならば尚更、歩きながら話すということを避けたかった。


 ちゃんと相手の顔・目を見て真意を探る。そうするまでは、周囲に正体を隠しながら過ごす古戸亜梨沙という女子を信じられない。



「悪いけど、ちゃんと面と向かって話せるところに移動してからにしようよ。亜梨沙さんだって、自分の能力について話すなら場所を選ぶでしょ?」


「……デートのつもりはないから避けたかったけど、言われてみればそうだね。お昼がてら話をしよ」


「うん、そうしようか」



 その後、2人は無言で歩き続けて最寄りの駅で電車に乗り、街中へと向かって喫茶店へと入っていった。


 そこは誰にでも目につくような場所ではない。恋悟と出会った場所を思い出させるような、隠れた喫茶店だった。


 扉を開けた時に鳴る「カラン」という音が風情を感じさせる。店内の雰囲気は明るく、綺麗な印象があったがすごく静かで、他の客は2〜3人程度しかいない。



「へえ……」



 選んだのは亜梨沙だ。彼女なりに悩んでここを選んだ。


 店員はいない。恐らく店長だけでここをやっているのだろう。「お好きな席にどうぞ」と言われ、亜梨沙は迷いもなく1番奥の席を選んで座った。



「確かに、ゆっくり話すのには最適そうな場所だね」


「何それ。ここのパンケーキが美味しいから、ここにしたんだけど?」


「ああ、そうなんだ。それは失礼」



 店長らしき中年男性が水とメニュー表を運んできた。この店では常時各テーブルにメニュー表を置いているわけではない。


 メニュー表を見てみると、品数はあまり多くない。悩まなくていいわけではないが、選択肢はあまり無さそうだ。



「僕も亜梨沙さんオススメのパンケーキにしようかな」


「そうしなよ、本当に美味しいから!」


「わかったよ。亜梨沙さんは飲み物決まった?」


「私は決まってる」


「そう? すみませーん!」



 零が率先して店長を呼び、注文をする。亜梨沙の飲み物が何かを知らないので、飲み物は亜梨沙自身に言ってもらった。


 店長はメニュー表を持って下がる。程なくして飲み物が届いたので、パンケーキが来るまでの間に零は話しておくことにした。



「僕は君の残留思念を見たんだ。尾行を撒こうとした君の思念がそこに残っていて、上に飛んだ姿が僕には見えた」


「えっと……?」



 能力の話をしていたはずだが、零のそれはどちらかというとオカルトに分類される。亜梨沙としては突然そんな話をされたので理解が追い付かなかった。



「うーん……。僕には残留思念を見る力があって、その時は君の『逃げよう』という意志が君の姿で見えたって言ったらいいのかな? まあ、直前の過去を見たって言っても間違いではない」


「直前の過去……。もっと遡れないの?」


「出来るよ。そもそも、君の正体を突き止めて欲しいって依頼された時も、君が能力を使った場所の残留思念を見て、君の姿を知ったからね」


「なるほど、それでね」



 零の説明を聞いて亜梨沙はずっと持っていた疑問の答えを得ることが出来た。彼女としては対峙したことのない零や詩穂が、どうやって魔法少女ミラクル☆アリサの正体を知ったのかがずっと気になっていた。


 正体を突き止める依頼をされていたことには何の驚きもない。魔法少女という噂だけで正体を探ろうとする人は珍しくないのだから。───しかし。



「ちょっと待って? 正体を探ろうとしてたのは誰?」


「警察の人だよ。亜梨沙さんはある意味協力者ではあるんだけど、得体が知れないからね」


「何か言い方がちょっと酷いけど……。正体を言いふらしたりしてないよね?」


「それは勿論。正体を隠している君の意志を無視するようなことは出来ないよ」


「ふ、ふーん? そう」



 そんな話をしているうちにパンケーキがやってきた。2枚重なったパンケーキの上に蜂蜜が掛かっており、ホイップクリームや季節の果物で飾り付けされている。



「おお……!」



 零はそのパンケーキを見てつい声を出してしまった。それまであまり空腹を感じていなかったのにも関わらず、パンケーキの味を想像した瞬間、空腹で腹が締め付けられた。


 話の続きはまた後で。そんな確認をし合うこともなく、2人は目の前のパンケーキを夢中で頬張った。


 この時初めて2人は「美味しい」という感情で分かち合えたと言えるだろう。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 亜梨沙が食べ終わる頃には、まだ零はパンケーキを食べていた。亜梨沙の食べる速度は決して速いわけではなく、むしろ零が遅いだけだった。



「鷺森君、男子にしては食べるのゆっくりなんだね」


「ん、味わいたいし! それに、ゆっくり食べろってよく婆ちゃんに怒られたからね」


「へえ、そう」



 あまり興味なさげな返事だったが、それでも「味わいたい」という気持ちは理解出来た。目的に無く、予想外のイベントではあったが、零をここに連れてきて良かったと亜梨沙は思った。



「ってそうじゃなくて! 鷺森君にそういう能力があるからお願いしたいことがあるんだけど」


「ん、何?」



 零は最後の一口を「これでもか」というくらい味わって噛み、そして飲み込んだ。それから紙で口元を拭いてから亜梨沙に向き直した。



「一緒に探して欲しい人がいる……!」



 亜梨沙は神にでも縋るかのようにそう言った。

読んでくださりありがとうございます。夏風陽向です。


最近、ある方とあるゲームのストーリー考察について話をする機会がありました。

同じ物語を見ていても解釈はそれぞれで実に面白いなと思っていますが、シナリオライターは敢えて正答を出さないことでユーザーを楽しませているのではないでしょうか。多分、シナリオライターとしてもそちらの方が面白いのかもしれません。


それぞれの感じ方を大切にしていく考え方が私は好きです。そういった意味では解釈に答えのある現代文はあまり好きではありません。あれは読解力を試しているのでしょうけども。

例えば「それ」はなにを指しているのか? という問題であれば、正答はあるでしょう。

しかし「何故、そう言ったのか。根拠を述べよ」という問題は読解力を試す上ではあまり適切な問題ではないと思います。作品によっては、途中で登場人物の心境が変化する描写もあるでしょうし。


ここまで長々書きましたが、本題はここから。高校時代の現代文を担当してくれた教科担任は物語の楽しみ方を教えてくれる先生でした。

テストには当然、模範解答というものがあります。普段の授業も要領通りに指導していく必要があります。

しかし、その現代文の先生はテストの回答に対して「俺はこの解釈、ありだと思ったから○にした」という採点をすることがあったのです。


まあ、教育者としては褒められたものではないのでしょうが、要領と感じ方が合わずに×と否定されてばかりでは物語を読むことが嫌いになります。先生のお陰で、私は小説を読んだり物語を楽しみ、考察することが好きになったので、そういった意味では先生の指導は間違ってなかったのではないかとよく思います。


今やこうしてアマチュアとして書く立場ともなりましたが……。


皆さんは読む人・書く人としてどう思いますか?


それではまた次回。来週もよろしくお願いします!


長々と後書きに付き合って下さりありがとうございました!

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