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思念と漆黒の組み合わせ  作者: 夏風陽向
魔法少女の娣子
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黄色い装飾の髪飾り

 零は改めて目を凝らした。すると、様々な人の残留思念がそれぞれの行動を取る。


 住宅街ということもあってか、子供の姿が多い。当然ながら子連れ家族の姿も見えるが、その中でも異彩を放つ存在が偶に見られた。


 魔法少女ミラクル☆アリサの姿も捉えないといけないのだが、気になったのは「子供に対して未練を持った残留思念」である。何かしらの事情で子を失い、他人の子を見て自身の子に対する未練を自覚する。


 それは何も現代人だけの姿ではない。どういう因果あってのことかはわからないが、昔の人だと一目でわかる格好をしている人達も見えた。


 負の残留思念が固まり、1つの強大な姿となって現れたのが先程の黒いナメクジのような存在だろう。その中枢には他者の子に対する悪意も含まれてしまったが故に、今を生きる子供達に影響を及ばそうとしていたのだと思われる。


 とはいえ、それがわかったところで零にはどうすることも出来ない。中枢の悪意は断ち切ったので問題はないだろうが、きっといずれは同じようなことも起こり得るだろう。



(……そんなことより、魔法少女だな)



 狙い通り、魔法少女の姿が見えた。そして彼女も、他人の子に対して悪意を持った人間と戦っているのがわかる。魔法少女ミラクル☆アリサと対峙している中年女性が本当はどんな狙いあって子供の腕を無理矢理に強く握っているのかは通話してみないとわからないことだが、魔法少女ミラクル☆アリサはその悪事を見抜いていたのだろう。


 しかし、今回の戦い方は前回と異なっていた。握ったフルーレをまるで指揮棒を振るかのように振ると、輝く光の破片が中年女性と子供に降り注いだ。


 子供には何の危害もないが、中年女性は手を離してその場で泣き崩れた。魔法少女ミラクル☆アリサはフルーレを仕舞い、右手を中年女性の肩に乗せると変身が解かれた。そしてある程度泣き続けた中年女性はスマホを取り出し、電話を始めた。



(……っと!)



 零は急いで通話を掛ける。そしてまた、同じように魔法少女ミラクル☆アリサと繋がった。



『誰?』


「僕は鷺森零。君はどうして、1人で戦うんだ?」


『えっ、急に何?』



 魔法少女の姿では無くなった彼女はあからさまに零を警戒した。今回は魔法少女の姿ではないので簡単に消え去れないだろう。



「僕はある人に頼まれて君を追っている。君はとても良い事をしているようだけど、正体を知っておかないと気が済まない人がいるんだ」


『……確かに私のこれも元は重度の中二病ってやつだもんね。それ専門にしている人達と協力しないといけないのは、わかる』


「だったら……!」


『それでも私は1人で戦うんだ。そうでなければ、師匠のような魔法少女にはなれないから……』


「…………」



 零は言葉を失った。魔法少女の残留思念と何を話したらいいのかわからなくなったということもあるし、知らない人と話している姿を見ている子供が怯えているようにも見えたからだ。


 しばらく目の前にいる女子高生……仮称アリサと見つめ合い、次の言葉を探しているうちに通報を受けた警察が来てしまった。アリサは一緒に警察へ行くわけにはいかないので、子供の頭を一回撫でてから、足早にその場を去った。



「…………」



 去り際、アリサが髪に付けている髪留めの黄色い装飾が夕陽を反射して光った。その姿が零の中でやけに印象強く残った。


 そして通話も強制終了。通話という手段があったとしても、アリサをこの場に止めておくことは出来ない。「もしも」の世界……パラレルワールドさえ見ることは叶わないのだ。


 子供は保護され、中年女性は逮捕されて連行されていく。そして注視した残留思念は終わり、しんと静まり返った住宅街の姿へと戻った。


 日が沈んで暗くなっている。今日のところはここまでにして、零は家路を辿った。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 翌日には長瀬に頼んでおいたアリサが出現した場所に自首の順番を記した地図のデータが送られてきた。1番近いところから当たったのだが、順番としてはバラバラだったようだ。


 思っていたより、そのデータはあまり当てにならなかった。順番に何か法則性があれば、次の出現場所を予想できたというのに。


 しかし、零の予想にまたも反して意外な発見と失敗が訪れた。


 それは移動教室の際となる。零は潤と一緒に行動していたのだが、それ自体はいつも通りのことである。まだ午前中だというのに、潤は零に進捗状況を聞いてきたのだ。



「零。昨日は何かわかったか?」


「ん? まあ、魔法少女がうちの生徒か或いは卒業生かってことと、アリサって名前なくらいだけど……」



 このタイミングで聞いてくるのは珍しい。それ程までに潤も魔法少女が気になっているということだろう。


 潤はたった1日での進捗状況に目を丸くしていた。



「流石だな、零。そこまで情報が得られれば発見も近いんじゃないのか?」


「だといいけどね。───ん?」



 3組の教室から3人の女子が出てきたのが見えた。別に珍しくもないよくある光景だが、零達の前を歩きだした左側の女子が、つい昨日見た残留思念と姿が一致していた。


 黄色い装飾の髪留め。間違うはずがない。


 零は無我夢中で早歩きになり、アリサらしき女子を呼び止めた。



「あの、えっと、アリサ……さん!」



 前を歩いていた3人の女子が振り返る。そして零の予想通り、左側の女子はアリサだった。


 3人は皆一様に訝しげな表情で零を見る。アリサは冷たい声で問う。



「えっと、誰?」


「ああ、僕は1組の鷺森零……」



 名乗った瞬間、3人の女子は聞こえるようなヒソヒソ話を始めた。どうやら零は他クラスでも「悪い意味で」噂になっているらしい。



「夏なのにコート、暑くないの? なんか変だし、脱いだ方がいいんじゃない?」


「ああ、まあ、それについては大丈夫」


「───で、私に何か用? 会ったことがないような気がするけど、何で私の名前を知ってるのかな? あと、いきなり下の名前呼びだし」


「あ、えっと、その……」



 零は色々聞かれて何からどう答えればいいのかわからなくなった。まさかいきなり「君って魔法少女だよね?」なんて問うわけにはいかないし、残留思念の話をするわけにもいかない。


 困り果てたところ、後から追いついた潤がフォローに入った。



「いきなりどうした、零」



 零の頭の中が真っ白になっているのが一目でわかった潤はすぐに3人の女子に頭を軽く下げた。



「すまない、こいつのことは放っておいていいから先を急いでくれ」


「…………」



 にゅっと出てきた高身長の潤は変な威圧感がある。3人の女子は潤に少し驚きながら、2人に背を向けて去っていった。



「あまり女子と話すことに慣れていないお前が他クラスの女子に自分から話しかけるだなんて、どういった心境の変化だ?」


「ああ、ごめん、潤。ほらあの子が探し人だったからさ」



 零の顔は真っ赤だが、少しずつ冷静さを取り戻している。移動先の教室に向かって歩き出しつつ、不可解な行動について説明させた。



「まさか同学年だったとはな」


「うん。もしかしたら、彼女は中学時代からこうした活動をしていたのかもしれないね」


「……そうだな」



 取り敢えずのところ、この話は終わりにして移動先の教室へと急いだ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 下校時刻になり、廊下を歩きながら零は考え事をしていた。というのも、このまま魔法少女の残留思念を追うことに意味があるのかについてだ。


 彼女の正体はもう掴めた。あとはそれを長瀬と詩穂に報告するだけで役割が終わる。


 だというのに迷っているのは、魔法少女ミラクル☆アリサの目的が本当に「人を悪人としない為」なのか疑問に思ったからだ。変な話、彼女の師匠である魔法少女ミラクル☆リリカが活動していれば、娣子である彼女には出番がないはずなのだ。


 或いは魔法少女ミラクル☆リリカの目撃や残留思念があっていいはず。もしも、魔法少女ミラクル☆リリカを含めての案件だというのであれば、彼女も追う必要があるだろう。


 そこまで考えていたところで、少しばかり聞き慣れた女子の声に呼び止められた。



「鷺森君」


「ん、ああ、黒山さん」



 気付いたらそこは6組の前だった。詩穂が待ち伏せしていたのか、偶然なのかはわからないが、零は詩穂に遭遇してしまった。



「長瀬さんには進捗状況を伝えるのに、私には何もないだなんて、本当に役割分担する気があるの?」


「うっ! ま、まあでも、長瀬さんから共有されているでしょ?」


「それは長瀬さんが気を遣ってくれているからよ。それより、鷺森君が3組の女子に話し掛けたという噂を聞いたのだけれど?」


「えっ、まあ……」


「それも、気持ちが悪かったって感想付きで。……神田川君が一緒で良かったわね」


「うん、本当に。───そこまで知っているってことは、僕が何故そんなことをしたのかもわかってるよね?」


「ええ、彼女がそうなのでしょう? それでも正体を明かさせるのは私でも難しそうだけれど」


「ということは、黒山さんでもこの先は難しいと?」


「そうね。そもそも私が他クラスにちょっかい出したら、それはそれで警戒されそうだもの」


「あー……確かに」



 詩穂は才色兼備そのものであり、この学年に彼女を知らない者はいない。ただ、その生気足りない表情と性格が冷ややかな為か、友人に分類される同級生はいない。


 そんな彼女が急にアリサを尋ねたとあれば、零とは違った意味で話題になることだろう。


 ただ、問題提起だけをして終わるのが詩穂のやり方ではない。



「やはり、現行犯を押さえるしかないわね」


「別に罪を犯しているわけではないからその言い方はどうかと思うけど……。でも確かにそうだね」


「下校時の後をつけましょう。見失った時の為に鷺森君も一緒に」


「…………」



 それは結局、組んでやるのとあまり変わらない。


 ただ、必要なところまで同伴すればいいかと、零はそう思うことにして首を縦に振った。

読んで下さりありがとうございます。夏風陽向です!


気付けば、超・微ホラーっぽさが混ざってきてますね。まあ、そもそも残留思念という概念がオカルトですし……。


重度の中二病は心の病。超能力は超能力。残留思念は広い枠でいったら霊能力の類になるでしょうか。色んな能力が混ざってきてこそ、重度の中二病患者からの続編だと私は思ってます。


残留思念のパートだけで結構文字数を使っちゃってますが、説明はちゃんとしないとですよね!


それではまた次回。来週もよろしくお願いします!

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