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思念と漆黒の組み合わせ  作者: 夏風陽向
魔法少女の娣子
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魔法少女の残留思念

 下校時刻を迎え、零は潤に一応行き先をある程度話しておいてから、地図に赤く記された場所に向かい出した。


 潤としては一緒に行ってやりたいところではあるが、彼も彼で別にやらないといけないことがある。重度の中二病患者が罪を犯す前に無力化をしたり、罪を犯してしまった場合でも逮捕に協力する使命を背負っている。


 潤自身、それが強い能力を持つ自分に与えられた運命なのだと思っているので不満はない。



「零、何かあったらすぐに連絡しろよ」


「わかってるよ!」



 危機感を抱いていないわけではないが、それでも零は明るくそう振る舞った。


 もう夏休みも近い。零は出来るだけ早く魔法少女を見つけ出そうと動く。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 最初の場所は何も特別なことはない路地裏だった。


 そもそも路地裏という場所は薄気味悪い印象があるので、そこで残留思念を見られる度胸があるかが問題だ。その点、零は「この世ならざるもの」と戦う手段を一応身に付けているので、心霊的な不安はあまりない。


 そして、物から残留思念を読み取る場合と異なって場所の場合は「場所に残った記憶」を見るようなものなので、自分の意識がここからどこかへ行ってしまうわけではない。過去を遡り、ここに現れる人々から魔法少女を見つけ出す。


 零はそこで目を凝らして見る。すると、少しずつ人々が見え始めた。


 単純に道として利用する者。路地裏で人の目があまりないからといってイチャつくカップル。冒険心でここへ辿り着いた少年達。暴力を振るう人と受ける人。色んな人と記憶が目に映るが、そこに男と言い争う女子の姿を見つけた。


 どうやら重度の中二病患者であることの発見が遅れてそのまま卒業してしまった男が、能力を行使して何か悪事を働こうとしているようだ。


 一方、それを止めようとする女子は何にも屈することのないような強い瞳で男を真っ直ぐ見ている。零にとっては驚いたことに、彼女は零と同じ藍ヶ崎高校の制服を身に纏っている。


 零はまだ桃色のガラケーを使っていないので彼女らが何を話しているかまでは聞こえていない。今、通話して繋げば彼女の目的を邪魔してしまうことになる。それによって未来が変わることはないが、聞く耳を持って貰えずに情報を得られない可能性も出てきてしまう。


 女子は通学鞄に付けたストラップを握って何かを呟く。すると黄色い光が彼女を包み、目が眩んだ直後に光は消えて彼女の姿は制服から黄色が基調のフリフリに衣装が変わっていた。


 ステッキ……ではなく、フルーレを握った彼女は素早く男の懐へと潜り込み、心臓目掛けて一突き。そしてまた黄色の光が一瞬広がって消えた。そして彼は項垂れたようにその場を去っていく。



「あっ……!」



 零は急いで桃色のガラケーを取り出し、魔法少女の残留思念と話そうと通話を掛ける。


 相手は着信拒否をすることが出来ない。程なくして電話は繋がり、彼女の声が聞こえた。



『誰……?』


「僕は鷺森零。君が何者なのかを知りに来た」



 魔法少女は舞うようにその場でくるりと回った。両手でフリフリのスカートを摘んで上げ、膝を折って伸ばした。



『見ればわかるでしょ? 魔法少女』


「それは勿論知っているよ。君の本性を知りたいのさ」


『わかってないなぁ。魔法少女って、素性を隠して敵と戦うものでしょ? 敵に正体を知られても、同じ学校の生徒には悟られないことが大事』


「じゃあ、君は何の為に戦っているんだい?」


『人が悪い人にならないよう止める為。私は魔法少女ミラクル☆アリサ。魔法少女ミラクル☆リリカの娣子(でし)



 魔法少女ミラクル☆アリサはそう言い残して勢いよく跳び上がった。零が目で追う頃には既に頭上にはいなかった。



「なんというか、よくわからない人だな……」



 零は「プー……プー……」と鳴るガラケーの通話を終了させ、閉じてコートの内ポケットに入れた。


 どうやら別の場所に行って残留思念を追っていく必要があるらしい。残念ながら、本人は勿論のこと他の残留思念も今回話をした記憶は持ち合わせていない。


 彼女の行動に予定がない限り、次に何処へ行くのかはわからない。順番通りに追っていくのであれば、長瀬に一度連絡して自首してきた順番を聞く必要があるだろう。


 しかし、気になる発言もある。



(魔法少女ミラクル☆リリカの娣子……か。これも1つの有力な情報だろうな)



 零は忘れてしまわないようにスマホのメモ機能を利用してメモをしておき、まずは路地裏を出てから長瀬に電話を掛けた。


 期待通り、彼はすぐに出てくれた。



『やあ、鷺森君。早速何かわかったのかな?』


「はい。魔法少女の残留思念と話をしましたが、わかったのは藍ヶ崎高校の女子生徒、或いは卒業生だということ。それから魔法少女ミラクル☆アリサ、魔法少女ミラクル☆リリカの娣子だと名乗っていました」


『うーん、うん? えっと、魔法少女の名前が2人出てきてる? よくわからなくなってくるな……。とはいえ、リリカとアリサで少し調べてみても良さそうだね』


「そっちはお願いします。それから、ミラクル☆アリサの足取りを追いたいので、自首した順番と魔法少女が目撃された場所のリンクをお願いします」


『わかった、すぐにやって送るよ』


「お願いします。では」



 零は通話を切ってすぐにその場を離れて動き出した。今日はまだ時間がある。予め潤に言っておいた通りにここから一番近い場所の残留思念を見に行くことにした。


 もし、零に1つだけ後悔すべき点があるとすれば、この時点で詩穂に一報入れるべきだったということだろう。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 次に着いたところは住宅街だった。課せられた門限が迫っているのか、足早に帰っていく児童達が見える。


 焼けるような夕陽とヒグラシの鳴く声。夏の夕方を感じさせるが、寒気ばかり感じる零にはあまり季節を感じられなかった。


 ここに魔法少女の残留思念がある。しかし、それよりも先に零は何か嫌な予感のようなものを感じていた。脳が激しく警鐘を鳴らしている。


 咄嗟に桃色のガラケーを手に取って警戒する。帰宅する子供達を追うかのように大きな影がナメクジのように地面を這っているのが見えた。



(……ああ、厄介だな)



 零は幽霊が見えるような霊感は持たない。しかし、その代わりに残留思念に対して敏感なので、残留思念が元となっていたり、残留思念を吸い込んで形作ったような怪奇現象は見えてしまう。


 厄介だと思ったのは、そこで大きな影を葬る必要があるということだ。しかし、その一方で一般人からすれば奇怪な動きをしないといけないリスクもある。


 きっと、魑魅魍魎の存在がもっと信じられていたような時代であれば気にする必要など無いのだろうが、現代においてはそういうわけにもいかない。


 だからといって、このまま放っておけば大きな影は俗に言う「霊障」というものを引き起こす可能性すらある。零は出来るだけ大きな影に近寄ってから桃色のガラケーを《妖刀・現》に姿を変えて、切りかかった。



「はっ!」



 斬撃が1つ入る。効果が大きいのか、大きい影は悶えるようにその場を転がった。零からすれば真っ黒なナメクジがゴロゴロしているようにしか見えないので心の底から生理的嫌悪感を感じていた。



(うえ、気持ち悪……)



 大きな影は零の存在に気が付いて威嚇している。真っ黒な巨体から口が出てくるのだから一層に気持ち悪い。


 妖刀がいつも以上に白い輝きを放っている。本来の使い方をされていて喜んでいるのだろう。


 しかし、鷺森家の歴史に対して半信半疑の零は「珍しいな」としか感じていない。いつもに増して威力を出している妖刀は次の一閃で大きな影を見事に両断した。


 零は大した剣術を身に付けていないが、それでも通用してしまうのは妖刀に常識外れの切れ味があったからだろう。


 黒い影は断末魔を上げているように見える。だが、通話を使っていない零には何も聞こえず、瘴気が剥がれるように大きな影が消えていったのを見た後、妖刀の姿を元に戻した。

読んでくださりありがとうございます。夏風陽向です。


ミラクルは『奇跡』からきています。

ミラクル☆リリカも前作登場キャラとなっていますが、その出番は少なく。結局、彼女が何なのか? というところまで踏み込めたらな、と思っています。

初めて出した時は、単純に魔法少女に憧れている女子を書きたかっただけではあったのですが。


亜梨沙に関してはミラクルではなくて、もっと語呂の良い英単語がないか考えていたのですが、だめでした!


3月9日といえば、レミオロメンですよね。

かつて小学生の頃、卒業式に合唱で歌った記憶がありますが、1番と2番でメロディが変わる瞬間があるので、そこが難しいところだと音楽の先生に言われた記憶があります。

近頃の若者は複雑なメロディの曲に馴染みがあるので、昔の若者に比べたら「耳が良い」そうです。

単調なメロディを聴き続けるのと、複雑なメロディを聴き続けるのでは変わってくるのですね。


その代わり、自分がその音を出せるかどうかは別問題だと思っています。


それではまた次回。来週もよろしくお願いします!

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